第8話 いろいろあって、薬の作り方を学びたいのですが…。

 今日は帰るなり、こってり叱られた。


 スライムの子供が生まれる現場を見た僕は、すごい発見をしたことを皆に自慢してやろうと、薬草の採取を忘れているのにも気づかず意気揚々と帰ってしまったのであった。叱られて当然だね。


 そんなことで、僕の大発見は今日のところはお蔵入りとなった。


 マットと僕は2人で1つの部屋に居候している。師匠の家にはもうひとつ部屋があるが、そこは師匠の娘マーガレットさんの部屋だ。今は首都プロクタスの、やはり薬学の学校で寮生活をしている。

 僕らが部屋を使うのは寝る時くらいのものなので、特に2人部屋でも困ったことはない。2段ベッドの下をマット、上を僕が使っている。


「なあ、ユウキ。俺は今日はついに教えてもらったぞ。」

「え、何を?」

「教えない。教えちゃダメって師匠から言われたからな。」

「なんだよ、マット。じゃ、言わないでよ。」

「言ってないだろ。っていうか、ユウキも覚えとけよ。薬の作り方とか師匠から教えてもらうことってのは、基本、他の人にしゃべっちゃダメなんだぞ。」

「気になる。」

「おやすみ~。」


 むー。……。


「おやすみ!」


 マットめ、勿体つけて嫌な奴。ま、兄弟子として、マットのほうが3年も先輩なのだから、これは仕方がないと諦めることにしよう。

 そんなことより僕には考えないといけないことがあるんだ。


 ”魔素”のことだ。


 モンスターの身体から漏れ出ている、死んだ身体から溢れてくる、薬草からも似たような煙が出ている、スライムのような魔物の命を生み出す、魔の素、”魔素”。


 我ながら良いネーミングセンスだ。


 魔素を利用すれば、今までにないような、すごい薬ができるのではないだろうか。


 魔素をコントロールする。これができれば…。



 ………………



 ふぁあああ~。


 窓からの景色は、薄く明かり掛かっている。もう夜明けだ。何となく目がさえたので、そのまま起きることにした。


「おはようございます。」

「おはよう。ユウキ。」

「おはよう。」


 ん、?知らない人がいる。…いや、知っている人だ。僕も所属する薬師ギルド『ポーズ』の、たしか師匠担当の…、名前は何だっけ?


「ユウキのほうが早かったな。よし、ユウキに頼もう。」

「なんですか?」

「ジョブス、話をしてやってくれ。」


 そう、ジョブスさん。よろしくお願いします。


「よし、ユウキ君。君に同行を頼みたい。」

「同行?」

「うむ、西のゴート湿地帯に見つかった、新ダンジョンの踏査に挑戦するパーティに、薬師として参加してもらいたい。」

「新ダンジョンの踏査!」

「場所柄、破傷風など感染症の危険が高いということでの依頼だ。薬師に対する期待は大きいぞ。まだ、未踏査のダンジョンだから何があるか分からない。危険もあるぞ。やれるか?」

「うん、やる。」

「即答か。よし。」


 ジョブスさんは、言うことが、いつも明快だ。ややこしい言い回しはしない。そして話が終わったら、スパッと話が切り替わる。もう、僕との話は終了だ。


「では、コンデコマンさん。ユウキ君をお借りします。」


 早起きは3文の得。言葉が胸にしみる。2回早起きすれば、三途の川の渡賃になるのだ。早起き、侮れない。

 師匠とジョブスさんが依頼についての詳しい話をしている。直接行く僕はそっちのけで、である。

 同行するパーティは、有名なトンプソンさん率いるトンプソンズだ。僕でも聞いたことのある実績の高いパーティだ。僕はゴート湿地帯には行ったことがないが、慣れた人たちと同行できるのであれば、安心感、安全度は高い。


 一通り話しが済んで、ジョブスさんは出ていった。


「出発は7日後だ。ユウキ、勉強になると思う。がんばって来い。」

「うん、がんばる。」


 …


「ん、おはよう。」


 寝ぼけ眼でマットが起きてきた。僕はそんなマットに、人生最高のドヤ顔を披露してやった。



 そんなことはさておいて、


「師匠。僕に薬の作り方を教えてください!」

「ん、そうか、…まだ教えていなかったっけ?」

「ん?」

 …。

「「ん?」」

「そうか、そうか。あぶない、あぶない。」


 どうやら師匠の中では、僕もマットもすでに薬の調合までできる一人前の薬師だと思っていたらしい。その上でのダンジョンアタック同行だったのだ。危うく詐欺ッちゃうところだ。

 師匠。おじいちゃんパワー炸裂です。


 7日間で大丈夫かしら。ちょっと不安。



「薬には大きく分けて2つの種類がある。知ってるよな?プラスとマイナスだ。薬の基本だな。」

「「わかりません。」」

「なんだ、そんなことも知らんのか。」

「「わかりません。」」

「表と裏、熱いと寒い、虚と実だ。」

「「わかりません。」」


 師匠がどう考えているのかわからないけど、

 僕ら今まで、薬草採っていただけなんです!そういうの急に言われてもわかりません!っていうか、マットは昨日いったい何を習ったのさ。


「んー、例えば風邪を引いた時だな、身体が熱くなるよな?おかあちゃんおでこに手を当てて、あら熱があるわ。ってことあるよな?

 しかし、同じ熱くなるでも本人の感覚では、ブルっと寒く感じる時と、ボワッと火照る時があるだろう?

 そういうこと!

 その2つでは、必要な薬が違うのさ。」

「「へぇーっ。」」


 今の話を聞いただけでも、僕にはわかってしまった。


 …無理。



 勘違いしないでね。短期間では、って意味だから!

 でもやるしかないでしょう。薬の作れない薬師なんて何の役にも立たないからね。今の僕にできるのは、薬の効果的な使い方くらいだ。

 魔法が使えれば良いのだけど、僕は回復系の魔法は使えない。練習はしたけどダメだった。人間、才能って有るんだよね。


 薬と魔法では、基本同じ効果のものはない。

 薬は魔法と違って、その場ですぐ治るってものじゃない。でも生薬の調合によって様々な効果を得ることができる。

 魔法は使えばすぐに効果が出るけど、治せるものが限られる。

 お互いに、一長一短ってところではあるんだ。

 僕はどちらかといえば、薬草とにらめっこしている方が好きかもしれない。

 必要とされているのは薬師としてだから、それでいいよね。


 旅に必要な日用品は、シャティアさんが揃えてくれることになった。今回は特別ね。

 僕は7日後のダンジョンアタックへ向けて特訓だ。



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