第3話 知らない人たちに囲まれて。
…体を起こそうとしましたが、身体が動きません。
私はいつものように、いつものベッドに横になっています。
いつもと同じ部屋です。
ただ、私自身だけが、いつもとは違うようです。
まず、声が出せない。のどに何か貼りついているように息が詰まってしまう。
手足が重い。布団を持ち上げることもできません。
そして、痛い。身体を動かそうとする度に、全身に激痛が走ります。
私は仰向けのまま動くことができません。
痛いのは嫌なので、しばらくじっとしています。
緊急事態発生。
おしっこしたい。
さて、選択肢は4つです。
ひとつ、自力でトイレに行く。(痛い)
ひとつ、誰かを呼んで、トイレに連れて行ってもらう。(おそらく痛い)
ひとつ、誰かが来るのを待って、トイレに連れて行ってもらう。(同じく痛い)
ひとつ、このままする。(痛くない)
最後の選択肢はないとして、3番目の選択肢などは、妹のロッテあたりが、すぐにでも飛び込んできそうな気がするのだけれど。日の入り方からすると、およそいつもロッテが飛び込んでくる時間だと思われます。しかし今日は、フライングボディアタックは勘弁して欲しいところです。
時計は体を起こさないと見えません。起こせないので見れません。
目を瞑り、カチコチ、カチコチと時間を刻む音にしばらく耳を傾けていると、ほら、パタパタと足音が近づいてきます。
いきなり布団をはがされました。全身が外の空気に触れる、スーッと心地よい風を感じます。どうやら私は寝間着を着用していないようです。ん、素っ裸ですが、相手は一向に気にする様子がありません。
腰のあたりをくるりと返され横向きにさせられました。ようやく、この暴挙を行っている人物が視界に入ります。…ん、誰?知らない人。私よりも年齢は少し上のような気がします。10歳くらいでしょうか。2番目の姉のユリアと似た感じの美少女です。私が言うのもなんですが、うちの姉妹は美人揃いです。2人の姉、ファビアとユリアを目当てにちょっかいをかけてくる、不届きな貴族連中もいるくらいです。末の妹のロッテも、大きくなればきっと美しくなるでしょう。
そんなことよりも、この人、さらなる暴挙に出ます。横を向いてプラリと垂れ下がった私のおちんちんを、スクッと掬い上げたではありませんか。キャーッ!
そして掬ったそれを、花瓶を横にしたような筒状の入れ物に差し込みました。
この入れ物は知っています。尿瓶ですね。一昨年亡くなったお爺様が、ご病気の時に使っているのを見ました。
「さぁ!」
さぁ。じゃねぇよ!
私は混乱しています。自分の置かれている状況がさっぱりわかりません。昨日の夜、ローザとお話しして、そのまま眠った…?
あっ。目が合いました。こちらに気付いたようです。
「お、お、ぉお兄様!」
「おうっ、あいぃーおぁ?」声が出ません。
「ユウキ兄様、ユウキ兄様、よかった。目が覚めて…。もう目を覚まさないのかと思った。」
この、たぶん私を知っている誰かは、私を強く、強く、抱きしめました。痛い。全身がすごく痛いたいのです。しかし私にはどうすることもできず、しばらく痛みに身を任せていました。
少しの油断でした。出てしまいました。…おしっこ。
「ひゃぁ!」とびっくり仰天、その子はもんどりを打って後ろに倒れてしまいました。
「あははは。」
あははは。って、笑えない。うん、この子も笑えてない。…ごめんなさい。
「ちょっと待っててね。みんなを呼んでくる!」
えーっ!今、みんなって言いました?みんなって言いましたよね。やめて!この状況、私完全にさらし者です。足音が遠ざかっていく。
まずい、まずいです、どうにかしなければ!
宝の地図を隠さなければ!
…できませんでした。
ドタバタ、ドタバタ、ズラリを人が並びます。
手前に4人。男1人にさっきの子を含めた女性3人。なんだろう、誰だかわかりそうでわからない。その後ろに執事のセバスチャンがいる。ほかにもアヤメとエリシア、セレスティア、侍従の何人かはわかります。あれ?ローザがいないな。…
一番手前の大男が、こちらに一歩前に出て話しかけてきました。そして私は衝撃の事実を耳にします。
「よかった、もうだめかと思っていたよ。ユウキ。大丈夫か?お前5年間も眠り続けていたんだぞ。みんな心配したんだぞぉ。おおおぉ。」
大男は私を胸に抱き寄せて、
どうやら泣いているようだ。痛いので手加減してください。…しかしこの暑苦しさには覚えがあります。もしやこの男、一つ上の兄ケッサクではないでしょうか。なんかうっすらと髭が生えているようですが…。そのうちに、手前に並んでいた他の3人の女達も参加してきて、私はモミクチャにされてしまいました。…
…えっ?ご、…5年?
…5年間って言いました!?
ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーー!!!
いや、痛い!痛いから! 痛いから、抑えて! 抑えてー!
私は計4人、地獄のがぶり寄りに悶絶であります。しばらくして解放された私は、改めて5年という歳月を思った。いろいろと聞きたいことはあったが、声が出ないことにはどうしようもなく、居並ぶ皆の姿から想像するしかなかった。
私には兄姉妹がいる。私含め6人
長男 クラウディウス 17歳
長女 ファビア 15歳
次女 ユリア 10歳
次男 ケッサク 9歳
3男 私、ユウキ 8歳
3女 ロッテ 4歳
クラウディウス兄様は、学校に行っているから家にはいないから…。
大男がケッサク兄様。で、ファビア姉様にユリア姉様、
…さっきの子がロッテ?
そう考えてみると、人数的にはしっくりくるけれども…。全く容姿が一致しません。
5年という歳月、と考えてみましたが、全くイメージができません。確かに皆変わったのだと思う。それだけです。
私は枕に寄りかる程度に軽く身体を起こしているだけでしたが、すぐに胸が苦しくなってしまいました。横になりたかったのだけれども、やはり自分では身体を動かすことはできません。私の様子を察してくれたのか、セバスチャンが言いました。
「ケッサク様、ユウキ様はもう、お疲れのご様子。募る話もございましょうが、一旦はお休みいただいたほうがよろしいかと思われます。」
「うむ。そうだな。うれしさのあまり、つい舞い上がってしまった。なあ、ユウキ、この5年間いろいろあったぞ。元気になったらゆっくり話をしよう。」
私は精一杯うなずいたつもりだったが、ケッサク兄様には通じたかな?うなずいた後、一人の顔を知らない女性を残し、皆を連れて部屋を出ていきました。
この顔を知らない女性は、アウレーリアといいました。私の専属の侍従だそうで、5年間私が寝ている間、身の回りのお世話をしてくれていたそうです。
最近は、そのお世話をロッテがやりたがったので、お母様の許しを得て、少しずつ教えていたようです。
アウレーリアが重湯を食べさせてくれました。身体は動かせなかったけれど、重湯を飲み込むことはできました。毎日、毎日、わずかずつですが食べさせてくれていたそうです。食べている途中でしたが、どうしようもなく眠くて、眠くて、ローザのことを聞きたかったのだけれども、言葉も出すこともできなくて…。
………グゥ。
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