1-14 戦闘開始
◆
夏が終わろうかという時、俺は進路を決めて、スチールさんにそのことを話した。
まずは軍学校の入学試験を受ける。不合格なら、準軍学校を受ける。それもダメなら、一般の高校に行く。それが俺の選択だった。
「実技は問題ないけど、やっぱり学科が問題か」
苦笑しつつ、スチールさんがそう言うので、俺は「頑張ります」と答えた。
その翌日に、どこから連れてこられたのか、大学生がやってきて俺に勉強を教え始めた。しかも朝だ。走り込みはしなくていい、とスチールさんの指示があった。
大学生が早朝に仕事をするのもおかしいと思ったが、どうやら夜にアルバイトをして、その帰りに寄っているらしい。
身綺麗で、髪の毛も整えられている。仕事で疲れきっているようでもなく、しかし何よりありがたいのは、そっけない。その無関心さが、気楽でよかった。
俺と親しくする気はさらさらないようで、ドライに、ビジネスとして接してくる。褒めることはほとんどなく、逆に責めることもない。
学校でも休み時間に、軍学校のための勉強を始めた。
願書を送り、あっという間に試験になる。まずは軍学校の学科を受ける。これに受からないと、実技の試験に進めない。
軍学校の結果はすぐに出て、学校からスチールさんの家に戻ったところで、その封筒を渡された。
開ける前から、嫌な予感がして、案の定、不合格だった。スチールさんに見せると、無言で笑みを向けられた。残念だね、という笑みだ。
次は準軍学校だ。今度こそ、受からないといけない。
寝る間も惜しんで勉強した。ここで頑張らないで、いつ頑張るのか。
試験当日になり、試験会場に向かう途中ですら、参考書を開いた。
後になってみると試験会場のことはほとんど覚えてない。それくらい必死だった。当然、どんな問題が出たかも、あの当時は覚えていただろうけど、少しの時間で忘れ去られた。
家に帰って、スチールさんに手応えを聞かれたけど「わかりません」としか言えなかった。
それから一週間ほどで、結果が届いた。ドキドキして開封すると、合格通知だった。
放心しそうになるのをこらえて、同封の書類にあるパスワードで、情報ネットワーク上の登録サイトにログインして、実技試験の登録をする。
軍学校もそうだが、実技試験はいくつかの中から選べる。艦隊指揮シミュレーション、艦船操舵、射撃及び格闘技、そして機動戦闘艇の操縦、などなど。
複数を選べるけど、俺は機動戦闘艇の操縦だけにした。他は少しも目がない、というか、訓練を積んでいない。
試験までにスチールさんとひたすた宇宙空間で機動戦闘艇で戦い続けた。
『もうやめにしよう』
三時間が過ぎると、スチールさんが疲れた声で通信を送ってくる。
俺たちの間の勝敗は、ほとんど拮抗している。三十回やれば、おおよそが十五対十五ほどで終わる。何よりどちらかが撃墜されるまでが長い。
さすがにここまでやると俺も疲れるので、素直に従って機動母艦に戻り、地上へ向かうシャトルの中では眠ることになる。
フラフラで家に帰り、ベッドに飛び込む。もう大学生と勉強する必要はない。朝も十分に眠れる。感覚を研ぎ澄ませるために、サスも遊ばなかった。
十一月に、準軍学校の試験が始まる。
通知された日に試験会場へ向かうが、惑星ガールデンまで亜空間航法でも片道で二日が必要だ。スチールさんがついてくるかと思ったら、これも勉強だ、という言葉で片付けられて、ひとり旅になった。
予定通りに現地の到着する。宇宙空港で旅客船を下り、帝国軍が所有する輸送船に乗り換えた。その輸送船がガールデンの軌道上に浮いている機動母艦へと俺たち受験生を連れていく。
輸送船の中で他の受験生を観察したが、高校卒業者が多い。大学卒業者がその次に多くて、俺のような中学生はほんの数人だ。
しかし同じ年代で固まるようなことがないのは、みんながみんな、緊張しているからだった。特に中学生なんて、時間的なアドバンテージが他の受験者に大きく溝をあけられているわけだし。
機動母艦に着くと、試験官らしい軍人が「整列!」と叫ぶ。ここでまごつくと、弾かれるという噂だけど、それは噂だったらしい。そこまで切羽詰まった雰囲気でもないから。
輸送船から降りた受験者たちがそれぞれの試験会場へ連れて行かれ、俺たち機動戦闘艇を選んだ受験生はロッカールームに通され、そこで各自のパイロットスーツに着替えた。
やっと自分が争う相手をはっきり見た。
とりあえずは二十人で、高卒が七人、大卒が七人、社会人からの志願者が四人、中卒は二人だ。俺とその中学生は、逆にお互いを敵視するあたり、競争の厳しさをまるで他人事のように感じた。
ここで俺たちが仲良くすることに、利はほとんどない。
着替え終わり、格納庫に行くと、二十機を超える機動戦闘艇がそこに並んでいる。全部が同じ型だ。帝国軍の練習機、トンガ社のルババ四型。
試験官の指示に従い、各自が搭乗を始める。全員が素人ではないので、割り当てられた機体の状態をチェックし、データ上と目視で万全かを確認する。
大丈夫だ、問題ない。
コクピットに乗り込む。鉱物燃料は規定の量が積まれている。主機関の燃焼門を起動させる。エネルギーが機体に渡り、スイッチを押し込み推進器を起動。
すでに二機、三機と機関を始動させ、牽引車に引かれていく。二十機がカタパルトの所定の位置に接続された。
『こちら管制。受験者諸君、一秒間隔で射出する。衝撃に備え、衝突に注意しろ』
「了解」
他の機体からも返事があるのが聞こえた。
カタパルトの起動の予告である赤いランプが一つ、灯り、もう一つ、灯る。
青が点灯した。前方で機動戦闘艇が宇宙に飛び出していく。
すぐに俺の番になる。カタパルトの経験はシミュレーターでのみだけど、落ち着いていた。
と、前方で受験者同士が衝突し、練習機の破片が飛び散った。
もう俺の機体は動き出している。
素早く斥力場フィールドを展開。破片が弾き飛ばされる。
開けた空間を滑り出し、機体の状態を素早く確認。斥力場フィールドは負荷が完全に消え、万全。防御フィールド発生装置、問題なし。粒子ビーム砲、エネルギー魚雷発射装置、グリーン。
『こちら試験官だ』通信が入る。『二人が脱落したが、安心するな。これから指示された通りに機体を飛ばせ。順番を待つ間も気を抜くな。ここは戦闘宙域とする』
俺は気を張り詰めていて、周囲を確認しつつ、機体を旋回させる。
格納庫からルババ四型ではない機体が出てきた。素早くカメラをズーム。
あれは、マドカ二型か? トーヨー社の新型だ。帝国軍が使っているという情報はなかった。
その動きを見据えているうちに、通信が連続し、試験が始まり、観察は切り上げなくてはいけなかった。
戦いはもう、始まっている。
(続く)
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