12月2日 お父様とお父様のお父様!



 学校帰りに私はお父様と一緒に、久遠家のお祖父ちゃんに会いに行くことになりました!


 つまりお父様のお父様です。名前はゆうと言って、お父様に似た素敵なグランドファザーなので大好きです。顔はあまり似ていないのですが、雰囲気はそっくりです。


「着いたぞ、燈華」


 お父様は突然車を停めます。気付けばもうお父様の実家に到着していたようです。

 同じ県内にあるので、楽しいドライブはあっという間に終わってしまいますね。


「あーあ。もっとお父様のテクニックを堪能していたかったです。棒を的確に動かして、早くなるところは早く、ちゃんと優しく配慮してくれて、素敵な時間なので」


「それぞれシフトレバーとアクセルと周辺注意のことだよな?」


「でも終わるのはあっという間ですねえ。お父様は早い! 早いのです!」


「おい! お前の台詞だけ抜き取ったら誤解する方が出て来るから止めなさい!」


 車を降りながら、お父様は少し怒ったように強めにドアを閉めます。


「ダメですよ、お父様。ただでさえボロボロの車なのに、乱雑に扱っては! 女の子と機械はソフトタッチが絶対です!」


「むう……そうだな。ちょっと雑に扱ってしまったか。とはいえ、この車も結構長年乗っているからボロボロだ。来年くらいに新しい車を買おうか? ママに相談しないと」


「車と女は新しい方がいいって言いますからね!」


「やめなさいって! それに、お父様にとってママは今も昔も魅力的だよ。最新のワイフが、いつだって最高のワイフだ。明日は今日よりもっと愛している」


 こういう台詞を真顔でさらっと言うから、お父様はモテてしまうのでしょうねぇ。

 絶対、高校生の頃とか激モテでしたよ。あ、そうだ!


「お父様! お祖父ちゃんと話している間、お父様のお部屋に行ってもいいですか?」


「俺の部屋に? 前に話さなかったっけ。俺は高校の頃からずっと一人暮らしだったから、実家の部屋はほぼ物置になっているぞ。当時の教材とかアルバムは残っているけど」


「構いませんよ! 燈華ちゃんは勉強熱心ですからね!」


 ただしお父様の事に関して、ですけど! ふふふ。


 お父様は「別にいいけど」と言って、実家の玄関を開けて待っていたお祖父ちゃんに挨拶をします。私も一緒に頭を下げると、お祖父ちゃんは優しく微笑みます。


「やあ、燈華。よく来たね。お腹は減っていないかい? いつもみたいに何か出前でも取ろうか?」


「ありがとうございます、お祖父ちゃん! でもお腹は大丈夫なので!」


「そうか。帰りにお菓子とジュースを持っていくといい。燈華の好きなものを買ってあるから、遠慮せずに持っていくんだよ」


「わーい! ありがとうございます! お祖父ちゃんはいつも優しいから世界で三番目に大好きですよ!」


「……ちなみに、一番と二番は?」


「はい! 一番はお父様で、二番は同率一番のママです! 燈華ちゃん、ちょっとお父様の部屋に行ってきますね! 後でお話しましょう!」


 私はお祖父ちゃんに愛を伝えて、そのまま玄関のすぐ目の前にある階段を上っていきます。ちなみに同率三位は結構な人数が居るのは内緒です。


「あ、父さん。俺は腹減っているから寿司食べようよ。奢ってくれるよね?」


「……身の程を弁えろ、我が息子よ」


「え? 何でブチギレているの? 父さん、燈華が産まれてから年々俺にメチャクチャ冷たくなってない?」


 階段を上る最中に二人の楽しげな声が聞こえました。

 うーん! あの二人の親子愛も素晴らしいですよね!


 お父様の部屋は二階の奥にあります。家が大きく庭も広いので、周りのお家が日光を遮ることもないので、どの部屋も日当たり良好です。素晴らしい建築技術ですね!


「さてさて、何か掘り出し物はありますかね!」


 お父様の部屋を開けると、少しだけ埃っぽい空気が鼻を掠めます。それでもちゃんと毎日換気はされているのでしょう。思ったより嫌な感じじゃないです。


「今日は私が換気しますよー。カラカラー」


 私はテラスへ続く大きな窓を開けてから、早速お部屋を物色します。

 室内は学習机として使っていたらしい大きなオフィスデスクが鎮座し、その周辺に背の高い本棚が置かれています。壁際には折り畳みコンテナや収納ボックスが並んでいて、今は誰も使っていないのが良く分かりますね。


「まあ最初は定番の本棚ですよね! お父様のアルバムは……あった!」


 本棚から二冊のアルバムを抜き取ります。

 しっかりとした装丁の背表紙には、私も卒業する予定の中学校の名前と、これから入学しようと頑張っている高校の名前が刻まれていました。


「うーん。中学時代のお父様、可愛いですね! 部活動と委員会紹介だと髪型が違っていて、思春期特有のスタイルが手探りな感じがすごくいいです……萌えます!」


 中学校のアルバムにはお父様だけではなく、私が良く知る方々の顔もちらほらと映っています。この頃から仲良しだったのですね。


「燈華。お祖父ちゃんとの話が終わったぞ。帰るか?」


「ほへぇええっ! も、もうですか?」


 いつの間にか部屋に入って来たお父様に声をかけられて、つい叫んでしまいました!

「いや、もう三十分くらいは経っているはずだが」


「あれ? 本当ですね……! まだお父様の中学編のアルバムしか見ていないのに!」


「なんだ。やっぱりそれが目当てか。卒業アルバムもいいけど、こっちもオススメだぞ」


 お父様は本棚の最上段から、手作りのアルバムを取り出して私に渡します。

 表紙には「郁とのプレジャー・デイズ(制作・凜々花ちゃん他)」と書いてあります。


「これは学校外での時間がメインだな。製作者の凜々花や莉生、エリ姉に色んな写真を貰って中学時代の思い出を残したアルバムだ。例えばここ」


 お父様はページを捲り、一人の女の子と犬のツーショットを見せてくれます。

 満面の笑みで小型犬のパグを抱く、少し派手な髪色の女の子は、もちろん――。


「中学三年の頃に凜々花と二人で、ドッグカフェに行った写真だ。可愛いだろ?」


「はい! メチャクチャ可愛いですね! このパグ!」


「あれ? お父様はそのパグを抱いている女の子を褒めたのになぁ? こういうのを見ていると犬を飼いたくなるよな」


「あはは、ご冗談を! お父様は既に私という犬を飼っているじゃないですか!」


「俺は娘を犬扱いした外道になった事は一度も無いわ!」


「そうですね。私、犬と違って算数も出来ますからね。五引く四は……ワンっ!」


「お前それが言いたかっただけだな? あとは、これだな」


 次のページに出てきたのは、髪が短い子です。あざとさを感じる萌え袖をキメながら、お父様と一緒に公園でハンバーガーを食べているのは……。


「ご存知、あざとさの擬人化。莉生だな。これは中学一年の頃に莉生と仲良くなって、すぐに撮った写真だ。二人でよくこうやって、放課後に買い食いしていたのさ」


「いいですね! 私もなんだかお腹が空いてきましたよ。ぐぅの音が出ます」


「ぐぅの音ってそういう意味じゃなくない……? 後で何か食べに行くか。父さん……いや、お祖父ちゃんはさっきキレてたから置いて行こう。燈華、苦手な食い物はあるか?」


「そうですね。私、最近気づいたのですが金属アレルギーかもしれません。ちょっと肌が荒れてしまうのですよね」


「食べるの? 金属を? SF映画でもあまり出てこないタイプの生物だぞ、うちの娘」


 お父様は呆れたように笑って、次のページ捲ってくれました。だけどそこには顔を真っ赤にして、チューハイの缶を持ったサンタさんが映っていたのです……。


「このコスプレ大好きガールは言うまでもなくエリ姉だな。俺が中学何年生だったかは忘れたけど、クリスマスに友達から彼氏自慢をされて、ヤケ酒したらしい」


「酒癖悪いですねえ。お父様はそれに付き合ってあげたのですか?」


「ああ。いざという時の為に電気ケトルも用意しといたぞ」


「酔い覚めにぶっかけるには殺傷能力が高すぎでは……?」


 結局私たちはそれから、中学の思い出アルバムを見るのに時間をかけすぎてしまい、高校編まで辿り着かずに今日は帰ることにしました。


 お父様がアルバムを片付けようと持ち上げ、本棚に入れようとしたその時。


「あれ? お父様、高校のアルバムから写真が落ちましたよ?」


 私がその写真を手に取ると、それはツーショット写真でした。

 背景を見るに高校生のお父様が、アパートの部屋で撮った写真でしょうか。その隣に立っているのは……あれ?


「それは見ちゃダメだぞ。恥ずかしいからな」


 お父様は素早く私の手から写真を抜き取って、スーツの内ポケットに隠します。

 気のせい、でしょうかね。隣に映っていた女の子は、よく知る女の子でした。


 毎日見ている顔だから当たり前かもしれません。

 あるいは、少しだけ疲れていて、見間違えたのかもしれません。けど。


「さて、それじゃあママに連絡して家族でご飯を食べに行くか!」


 お父様はそれ以上写真に触れず、もう一度見せてくれなさそうだったので確認は出来ませんでしたけど。



 お父様の高校時代が気になる、とても楽しい一日だったのは間違いありませんね!

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