終章
脈動を聴く者達
そんな
ラドカルミア王国が存在する大陸の
人間の敵、魔族が支配する領域。人間の入り込む余地のない場所として、そこは魔族領と呼ばれている。
針葉樹の森のただ中にぽつねんと城があった。
いや、それは城というにはあまりにも小さい。石造りの城壁に囲まれた多少背の高い屋敷といった方が正確かもしれない。ラドカルミア王国の
そんな場所に、魔族階級の最上位にあり、全ての魔族の
取り立てて警備が
絶対的な強さによる絶対的な支配。それが彼であり、魔王という存在だった。
その魔王が、配下の魔族から
「――これはいい。これを作った人間は殺さずに
どこか
目鼻立ちのはっきりとした
こうやって
なぜなら彼は魔王。魔族階級の最上位に位置する
「お前もどうだ?」
そういって魔王はまだ中身の入った杯を前に差し出した。
「――お
答えたのは魔王と向かい合うように
その女を一言で言い表すのなら、
どういう答えが返ってくるか予想していたのか、さして残念そうでもなく魔王は差し出した手を戻し、そのまま一息に
空になった杯をくるくると指で
「それで、何の用だ?酒を届けにきただけじゃないだろう」
「はい。また
ぴたり、と。杯を弄ぶ指が止まる。
「ほう……また、か……」
魔王は杯を
「勇者召喚で一度、それから半月ほどでもう一度、そしてさらに、か。これほど短期間に連続で“
人間共め、というわりにはその表情に
一方で女は目を
「――“界脈”が観測されたということは、
「そうだな。そうだとも。だからこそ面白いのではないか」
心底愉しんでいるような声色。女にはそれが理解できない。
この男は事の重大さを理解しているのだろうか、と。
長指族の魔法知識を持ってしても世界の運命を変える界律魔法というものはよく分かっていない。そもそも運命などという
魔法というものに絶対の自信のある長指族であるからこそ、その事実は
「この分だと、やはり勇者とやらの召喚は成功したようだな」
「
界律魔法を行使するにはそれなりの準備が必要だ。準備が必要ということはそれだけ情報が
知っていて、放置していた。
「
魔王がクックッと笑う。魔王を打倒しうる可能性のある勇者が召喚されたかもしれないというのに、当の魔王はそれを面白がっている。
女は
「……もし界律魔法を自由に行使できる存在が勇者だとすれば、どれほどの
もちろん何かしらの
それはもはや、世界の革命だ。
「しかし、一度目の“界脈”は勇者が召喚されたものだとして、それ
「はい。我らの記憶が
「ならば、それが分かるまでは動きようもない。何か変わったことはないのか?」
女はしばし考え込み、ふと思い出す。
「……まだ
「ほう」
魔王は興味深げに、さらに笑みを深める。
「
そこまで口にして、ハッとして目を見開く。紅玉の瞳が
「そうか、それが勇者の力か……フフ、面白い……」
仲間であるはずの小鬼族が人間に
魔王にとって関心のあることはただ一つ。自分が面白いか
「本当に勇者であるのなら、いつか必ず俺の前に現れる。ああ、楽しみだ……いっそこちらから出向こうか、フフフ」
妖艶に、そして狂気的に魔王は笑う。
魔神族族長、エディマ・ロマ・フラタナス。人間は彼のことを
全ての魔族の頂点に立つ彼を
この者を斃すことこそが勇者の使命だと人々は言う。
彼と彼女が、魔王と勇者が、運命によって
宥和の勇者 -結ばれた手と手- end
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