掲げられたもの(4/6)
もはや
「さくらもち……」
小鬼族を突き飛ばしたそのスライムの名をユウが
しかしたとえユウが
それは彼らにとってもあり得ない光景だった。
魔族達にとってさえ何を考えているか、どういう行動原理をしているか分かっていないスライムが明らかに人間に味方するような
このスライムはいったいなんなんだ?
この人間はいったいなんなんだ?
二つの疑問が小鬼族達の動きを止めた。彼らの言語が頭上を飛び
「ユウーーーーッ!!」
次いで響いた声に小鬼族達は
ユウと同じように血の
レイから遅れること数秒、セラもそこへと辿り着く。少し息の上がった様子の彼女も小鬼族へと怒りを隠そうとしなかった。呼吸が乱れていなければすぐにでも呪文を口にしかねない。
「――
恐ろしく
背中からスラリと抜き放たれた
「や、めて……!レイ君……!まだ、ちゃんと話せてないからッ……」
騎士が噛みしめた
「――どうして、どうしてそんなになってまでこいつらをかばう!?こいつらは魔族だぞ!俺達人間の敵だ!それは昨日と今日で身をもって知ったはずだッ!」
最初の一回ぐらいなら、魔族のことをよく知っていないということで
一度武器を振るわれた相手にどうしてこうも
「なぜだ……ユウッ!」
騎士の問いかけに、勇者は答えた。
「――だって……
そう言って少女は笑った。いつもの
その笑顔にレイは
同時に、そうか、そういうことだったのかと
隣のセラが小さく呟いたのがレイの耳に入る。彼女はそれを口にせずにはいられなかったに違いない。優しい彼女だからこそ、そう毒づかなければいられなかったに違いない。
「――何が勇者召喚、何が世界を救う者よ。救いが必要なのは、この子じゃないの……!」
セラは村につく以前からユウの異常性を感じていた。それをレイは考え過ぎだと
ユウの行動はもはや
この笑顔を見て、その瞳に
この少女は、ユウは、心に大きな怪我を負っている。とても深い傷だ。おそらくこの世界に来る前のもの、もはや血は全て流れ出てしまって痛みは消えてしまっている。
この世界に来て、親も友達もいない、常識すら通用しないような場所に連れてこられて、
「……ユウ。これは喧嘩じゃない。だからいいんだ」
小鬼族が身構えた。最初こそレイの
彼らは常に
もっともレイとの距離が近かった一体がレイに向けて、棍棒を振り上げ
「これは喧嘩じゃない。生きるために戦うことは悪いことじゃないんだ。そうやって俺達は命を
この場にいる誰一人でさえ、その
そして理解する間もなく、彼の意識はその胴体と分かたれた首と共に闇の奥深くへと落ちていった。苦しむ
レイは盾を前に構えてやや重心を落した
「……ああ……ああッ!」
大地に前のめり倒れ込んだ首のない小鬼族を見て、笑みから一転、ユウの表情が
「どうして……どうしてっ!」
頭の怪我も忘れて
「人を傷つけることはアカンことやのに、そうやと分かってんのに!なんでみんな、仲良くできへんのや……!うちには……うちには分からへんよッ!!」
だが小鬼族は違う。頭があり胴、手足がある。基本的な身体
それが彼女の
「ユウ、こいつらは、人じゃない」
騎士がそう断じたが、
小鬼族達は動くに動けなかった。本来は一匹が突撃したのを
その時、
その声を聞いて小鬼族達が我に
何かが洞穴の中から出てこようとしていた。小鬼族ではない。もっと大きな生き物。
ユウ達は馬の死体を引き
曇天の元にその巨体が姿を現した。
全身を覆う赤茶けた体毛。
ずんぐりとした
グアアアアアッ!
それが
実際に、この森の生態系の頂点にそれは
もっとも身近で、もっとも大きな
一頭の巨大な
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