掲げられたもの(2/6)
装備を
デマリの一帯は自然が多い場所である。街道の両脇には森が、というよりもこの街道は森を
故に、一頭立ての
その
(馬がいない……)
横転してレイ達の方に腹を見せる馬車を引いていたはずの馬の姿がなかった。逃げたのだろうか、という
馬車の前方に大きな
ガタンッと物音がした。音の発生源は馬車の
「ユウ、こいつが魔族、小鬼族だ」
騎士の声に気づき、荷物を漁っていたそれが姿を現した。
身長はユウよりも一回り小さい。人型だが、骨格的なものであろう
レイにとってはもっとも
この
「これが魔族……」
ユウが
その姿は彼女のいた世界に存在した生物とはあまりにかけ離れていた。スライムのような
小鬼族は突然現れた人間に
だが小鬼族が襲い掛かってくる様子はない。
「……なるほど、他の仲間はもうねぐらに帰った後か」
レイが一歩前に出ると、小鬼族がビクンと怯えて一歩下がる。
魔族には夜目が効くものが多いが、それでも夜の間は活動を
「ねぐらの場所は血の後を
再びレイが一歩
動けば斬られる。まるで距離など存在しないかのような、
あるいは、それは魔族の
そしてレイが宣言通りに長剣を振るおうとした
「待って!ちょっとうちに話をさせて!」
今まさに斬りかからんとしていた騎士の前に立ち
それは騎士も同じらしく、さして
「ユウ、そこをどけ」
それは、今までユウがレイに対して抱いていた印象を全て
人が変わった、というより人ではなくなった。彼は魔族に
「魔族ってのは言葉が分かるんやろ?やったらまずは話をして、なんでこんなことしたんやって聞かんと!」
「人間の言葉を
「こいつらは
「やったら!なおさらやんか!うちらが助けてあげたら人を襲うことはないってことやろ!?」
さしもの騎士も、その言葉には
「魔族領が嫌で逃げてきたんやろ?やったら
声を荒げて小鬼族をかばうユウを見て、レイは彼女には
彼女は魔族が人間をどう思っているのかを理解していない。
だからこそのこの行動なのだろう。レイとセラが見ている前で、ユウは小鬼族に身体を向けた。
突然前に出てきた人間の子供に小鬼族が
「なぁ、お腹が減ってたんか?やったらうちが分けてあげるさかい、もうこんなことはせんといて欲しいねん」
そう言ってユウは腰に
干し肉を手にし、一歩、二歩と小鬼族に近づいていくユウ。
「ちょっとレイ!」
後ろでセラが声を
「……………」
だが騎士は動かない。ユウがあまりにも
レイは昨日のことを思い出していた。昨日起こったありえない奇跡を。
それがレイには、ユウがスライム達を
ユウには魔物を操る力があるのかもしれない。だが、もし、それがそれ以上の力なのだとしたら。
魔物ではなく魔族をも
あり得ない話ではないはずだ。勇者は世界を救う運命にある者なのだから、彼女がどんな力を持っていたとしても不思議はない。そうであるならば彼女が不自然に魔物や魔族に
でなければこんな
レイは騎士だった。それゆえに、誰よりも人間と魔族との争いが
だから期待してしまった。だから動かず
それが間違いだった。
遅れて干し肉が地面に落ちる音。
「――ッ!」
ユウが干し肉を持っていた右手を
「ユウッ!!」
セラが叫んだことで小鬼族の緊張が
こうなることは簡単に予想できた。だがそれを知っていながら、自分の期待ゆえに
「手、見せなさい」
セラ自身も
「痛ったぁ……」
ユウの反応を見つつ軽く指を曲げたり
「――骨は大丈夫そうね。でもしばらく動かさないほうがいいわ」
「あはは……ちょっと失敗してもうたなぁ……」
痛みに
その笑顔を見て、騎士は思った。異世界から召喚された勇者、やはり彼女は自分達とは根本的な何かが違うのだと。
特殊な能力もなしに、ただただ
――この子、自分に対して
自分の命に対してあまりに無頓着。彼女の行動は恐怖心が
「なんかこう、魔法でパパッと
ユウが
「もし
いつも
「魔法で傷は治せない。人体に
言葉の
「あー……もしかしてセッちゃん、怒ってる……?」
「なんでそう思うの?」
「……うちが、危ないことしたから……?」
「分かってるなら――!」
無意識に振り上げた手を、セラは力なく下した。一つ
「今回は爪が割れるぐらいで済んだ。だけど、相手が持っていたのが刃物だったら?指がなくなってたかもしれないのよ。だから、二度とこんな
そしてセラはユウの左手をとって立ち上がらせた。骨に異常はなさそうとはいえ、村に帰って
騎士に向けて魔法師が
誰もが言葉を発しない。重苦しい沈黙を
横転した馬車の
「馬車の護衛か!」
駆け寄ってレイが男の様子を見る。何度も殴られたのであろう、
意識のない男をレイが担ぎ上げる。
「とにかく、戻ろう。もう日が暮れる。小鬼族共は、明日自警団と協力して
その言葉にユウが無言で
レイは逃げるように視線を
討伐しなければさらなる被害者が出る。そうなる前にやつらは
明日になれば小鬼族は討伐される。そのことを思いつつ、自室の窓からユウが見上げた夜空は、星々の光を隠すように黒々とした雲が
そして眠りについた彼女は、指の
割れた爪が
だからユウは、隣のベッドで寝ているセラを起こさないようにそっと宿を抜け出した。
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