第三章
掲げられたもの(1/6)
「よっしゃー!完、全、復、活っ!」
朝。
朝は弱い方なのか、普段にも増してダルそうなセラは
「……それだけ元気なら
魔力
「今日はどないすんの?」
「出発のための準備だ。といっても、保存食を買うぐらいか」
食料以外の
ただ、農村であるデマリには大きな商店といったものは存在しないので、基本的には村人に
「分かった。ほな行こか」
そう言ってユウは足元の
塊、もとい薄桃色のスライムはされるがままという状態で大人しいものだ。
「――連れてくつもりか」
レイが
「部屋でお
「……さくらもち?」
聞き慣れない単語にレイが
「これからずっと一緒におるんやから名前いるやろ?」
レイとしてはなし
「それは……まぁ、そうかもしれんが……もっと呼びやすい名前はなかったのか」
「いやだって……桜餅やん?」
「……さくらもちが何かは分からないけど、なんだかおいしそうな響きね」
「ほら、セッちゃんもええ名前やって」
セラがどう言ったかはともかく。ユウがその名前で満足しているならレイとしてもそれ以上口を
「まったく……魔物を連れてるやつに物は売れないとか言われないといいけどな。とりあえず行こう」
「なんか甘いもん買っとこ。甘いもん」
「焼き菓子とか
「日持ちするものにしてくれよ」
「日持ちしないなら今食べればいいじゃない」
「セッちゃん頭ええなぁ」
ころころと表情を変えるユウと
ともかく、三人が食料品の
「なんだ?」
レイが
「おお、あんたぁ、確か騎士様だろ!ちょっと話聞いてやってくれねぇか!」
それは
「……昨日の今日だからな。さすがに何か運命のようなものを感じないでもない」
「多分あるんじゃない?そういうの。だって勇者召喚は世界の運命を変える魔法、
頭上を飛び交う意味深なやりとりに、ただ一人
人だかりが出来ていたのは村の北部。街道へと
「おうい!騎士様を連れてきたぞ!」
レイ達を連れてきた男がそう声を上げると、人並みが左右に割れた。その中をレイ達が行く。
村人達は皆不安を顔面に張り付かせていたが、レイが現れたことで少しばかりそこに
「おお、来ていただけましたか!」
昨日も見た白が混ざった
その姿を見つけたユウはふと思い出して話しかけた。
「村長さん!ちゃんと言えてへんかったけど、さくらもち村に入れてくれてありがとうなぁ」
「さくらもち……?あ、ああ、スライムのことですか。いや、まぁ、湖から他のスライムはいなくなりましたし、それぐらいなら……」
ユウとその胸のさくらもちを
「何かあったようだな」
レイが尋ねるとルッツは
「
そういってルッツは身体の向きを変えて視線を下げた。
そこにいたのは
着ている衣服は地面を転げまわったように砂まみれ、その上
男を
「何があった。話してみろ」
レイが座り込んで男に視線の高さを合わせると、男は地面から視線を上げた。
口を開いて言葉を発しようとするが、
「――
事前に聞いていたからこそのこの騒ぎだろうに、
その名は下級とはいえ人間の敵、
「ゴブリン?なんや聞いたことあるな」
ユウが説明を求めてセラを見やった。
「奴らのカーストでは最下位に位置する
「魔族……でも魔族領ってまだまだ遠くなんとちゃうの?こんなところまで来んの?」
「たまに、カーストが低い魔族が人間領に逃げてくることがあるのよ。なまじ知能があるばかりに他の魔族に
ふむふむと頷いていたユウははっとしたように目を見開く。
「魔族領が嫌で逃げてきたなら、
ユウならばそう言うかもしれない。分かってはいたが、そのあまりにも世界を知らない発言にセラは、その発言が他の村人に聞かれてはいないか周囲を
だが、村人はレイと男のやりとりに
「……魔族ってのはね、人間のことを対等な存在とは思っていないのよ。私達がそうであるように。そんな
ユウとセラが話している間にも、レイは男から
「――私は、
リユ、というのはここデマリからしばし北上したところにある村の名前だ。
「
レイが問うと男は再び顔を
「一人連れていました。ですが、馬車が
レイは
「馬車が横転したと言ったな?街道に何か罠でも
「そ、それが……」
男は、
「何か、大きな生き物が木々の間から突然飛び出してきて馬を押し倒したんです……」
「なんだと?」
思わず聞き返したレイが詳しい説明を求めて男を
「よく、分かりませんでした……何かが目の前に飛び出してきたと思った瞬間に馬車ごと私は吹き飛ばされて……痛む身体を無理やり起こすと護衛が小鬼族に襲われているのが見えて、その後は……」
それ以上の言葉が続かない。
「小鬼族以外にも何かいるのか……」
小鬼族の身長は大人でもせいぜいユウより少し低い程度、馬を押し倒せるような体格ではない。
何か別の、小鬼族よりも大きな魔族ないし魔物がいると考えるのが当然の流れだろう。
「騎士様……」
隣で話に耳を傾けていた村長が口を開いた。
「我々デマリの自警団は、これより
その後に続く言葉は簡単に察せられる。それはレイとしても願ってもない機会だった。
一瞬だけ振り返って、レイは黒髪の勇者を見た。きょとんとした黒瞳と視線が
(運命を変える魔法、それが勇者召喚、それが界律魔法か……)
レイは魔法師の言った言葉を頭の中で
「分かった。小鬼族は俺達がなんとかしよう」
周囲の村人達から
騎士とは、民達の
「では今すぐ自警団を
「いや、まずは俺達だけで様子を見に行く。多くの人員を
「しかし、それでは騎士様達が危険なのでは……?」
「身を
それは決して
他に気がかりなこともある。ただでさえ一人護衛対象がいることが明白な状況で、これ以上護る必要があるものを増やしたくないということもある。自警団の
「これは……
村長の言葉に一つ頷いて、レイは腰を上げた。
「よし、宿に戻って装備を整えたらすぐに現場の様子を見に行くぞ。いいな?」
「――うちも行く!」
置いていかれると思ったのだろう、前のめりでそう
「もちろんだ。お前に魔族を見てもらうのは旅の目的の一つだからな」
ユウは珍しく
「なら急ぎましょう。日が
セラの言葉に従って、一同は装備を
さくらもちを抱えたまま走るユウは終始険しい顔のままだった。
彼女が何を考えていたのか、ほどなくしてレイとセラは思い知ることになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます