邂逅、そして(5/6)
デマリの農業を支える
だがそれも少し視線を動かし、耳を
ぴちゃん、ぴちゃん――
水辺を何かが
「うわぁ……こんだけおると……ちょっと引くなぁ……」
ユウの
穏やかな
数を数えようとしてユウは止めた。十や二十ではあるまい。よく見るとまだ生まれて間もない個体なのか、少し小振りのものもいる。
「
冷静に分析する魔法師の言葉を聞きながらユウは気合いを入れて腕まくり。
「本当にやる気なのか……?この数だぞ……?」
「やってみなどうなるか分からんしな」
そう言って意味があるのかないのか分からないが、両手をぷらぷらとさせて準備運動。だがふと問題に気づいたユウは、両手の指を合わせて上目
「せやレイ君……ちょっとお願いがあるんやけど……」
申訳なさそうな、あるいは
「うちが
今はまだ距離があるためスライムがユウ達に近づいてくる気配はないが、もう少し近づいて餌やりを始めればその魔力に反応して多くのスライムが近寄ってくるだろう。
これだけの数のスライムに
「それは別にかまわんが……」
「ほんま?ありがとぉ」
もとよりレイの仕事は勇者の護衛だ。多少勇者が無茶をしようとも盾になるのは当然のことであるし、感謝されるほどのことでもない。
スライムを受け止めるのにたいした苦労はないが、念のためレイは背中の盾を右手に装備した。
「セッちゃんは……」
ついでユウは恐る恐るというふうに
もとよりスライムを
ユウの
「――数が多いわね。私もユウが
まったく想定しなかった手助けの申し出にユウは
「ありがとぉ!やっぱセッちゃんめっちゃ優しいなぁ!」
ユウがセラに抱き着いて感謝の言葉を伝える。
されるがままのセラは相変わらずの気だるげな表情だが、その瞳の奥に少しばかりの
「ほなやるぞー!」
そしてユウは大量のスライム達への餌やりを開始したのだった。
少し近づいてスライムの方から寄ってきたところをキャッチ、少し距離をとってから地面に座り込んで撫でる。しばらく撫でてスライムが満足したら
撫でている間に近づいてくる他のスライムはレイが
ユウが魔力の注入を開始すると一定範囲内の全てのスライムが彼女に向けて移動を開始するので、レイはなかなかハードな護衛作業を行うことになった。
ユウが真剣な面持ちで餌やりを行う
「――よし、次!」
満足げにぷるぷる震えているスライムをユウが脇に置く。これで湖に来てから三匹目。
別の個体を捕まえようとユウが立ち上がった瞬間、その小さな身体が横にふらついた。
「――おっと……」
「ユウ」
その様子を見てセラが声をかけた。ユウとまったく同じ量の魔力の放出を行っている彼女だが、その表情は
自分の名を呼ぶ
「まだまだ、これからやって!むしろこっからがうちの本気やさかい」
「……そう」
足元をふらつかせながらも新たなスライムを
どのみちもう少しで限界が来ることが彼女には手にとるように分かっていたからだ。
「――ッ!」
スライムを撫でるユウの手に
呼吸も
満足させたスライムを横に置いて、また新たなスライムを
いい
「――うぁ!?」
スライムの体当たりの勢いを受け止めきれず、
「ユウッ!おい、しっかりしろ!」
もう見ていられなくなったレイが手近なスライムを蹴っ飛ばしたあと、ユウに駆け寄ってその腹に乗ったスライムを放り投げた。
そのまま小さなユウの頭の下に腕を通して上体を起こさせる。近くで見るとユウの状態はただの肉体疲労とは様子が違った。
荒い呼吸、額に滲む汗。しかし身体の体温が下がってきており、唇が紫に変色している。
「おいセラッ!どうなってる!?」
騎士はこうなることを予想していただろう魔法師の名を叫んだ。
その魔法師は抱きかかえられたユウの側に
「……魔力
「こうなると分かっていて、なぜ止めなかった?」
キメの細かい肌の指先が自分の頬を撫でるのをユウは感じた。汗が出るのにやけに寒い。体温調節がうまくできない。血液に
生きていくために必要な何かが足りない、というよりも、生きるために必要な意思のようなものが身体から失われてしまったような
「ユウ、聴きこえる?聴こえるなら目を開けなさい」
すぐ近くで自分の名前を呼ぶ声が聴こえて、重い
「安心して。命に関わるようなものじゃないから。時間が
その言葉を聞いて、ユウ以上にその身体を支えている騎士が
それが
「ユウ、
セラに
すると周囲のスライム達がいまだにこちらに向けて近寄ってきているのが見えた。一匹がユウに向けて
彼らはユウの状態などまるで
「
セラが湖に来ることを決めたのも、ユウがスライムを助けるべく行動することを止めなかったのも、全てはこの事を伝えたかったからだった。
セラはユウがスライムに対して少なくない好感を抱いていたのを
その後悔する相手がもっと危険な魔物だった場合、差し伸べた手が食いちぎられるかもしれないのだから。
「……………」
ユウは何も言い返せなかった。自分にもっと魔力があれば、という問題ではないであろうことは
ここまでユウが全力を
「もう止めないわね?」
そう言ってセラは立ち上がり、スライムの群れに向けて手を伸ばした。
「ファル/エファ/ウラ/エファ/ウエル――」
呪文。体内の魔力を特定の形にするための命令
「〈
彼女の右手が
少しばかりの焦げ
炎の鞭の一振りで、四、五体のスライムが文字通り
「ああ……」
一瞬にしてこの世から消滅してしまったスライムにユウが手を伸ばす。
仕方のないことだと分かっていても、どうしても
人の生活のためには仕方ない。だが、それでも、共存という道は本当にありえないのか。共に生きるという選択肢は本当に存在しないのか、そう考えてしまう。
「もっと広範囲に
後ろは振り向かずに魔法師は言った。その表情はユウ達からは見えなかったが、いつもの物憂げな
ユウと同じ数スライムに魔力を
圧倒的な魔力の容量、それをコントロールする
「ユウ、どうだ。立てそうか?」
優し気な声色で
まだ身体は重い。だが倒れた直後ほどの
「……ごめんな。二人に、心配かけてもうた……」
まだ少したどたどしく、ユウは二人に謝った。
「セッちゃん……」
その名を呼ばれた時、魔法師の背中が少しだけ
「セッちゃんは、やっぱ優しいなぁ……。ごめんなぁ、うちのために、
ことここに至って、ユウはセラの考えを理解した。
ユウに魔物というものと人間は
全てはユウの今後を
「――それが分かるなら、そんなになるまで無茶しないで。
少しばかり
「……さて、それじゃ悪いけど、ここにいるスライムは全て駆除するわ」
ユウとレイがゆっくりと距離をとるのを確認して、セラは再び呪文の
まだ数は多いが、それほど時間はかかるまい。
――だがその詠唱は、予想だにしていなかった存在によって中断された。
「セッちゃん……!ごめん!待ってッ!」
ユウが叫んだ。セラもそれに気づいて、さすがに魔法を放つことを
そこにいたのは、
間違いない。ユウ達が街道で出会って、初めて
ユウに懐いたような
まだ魔力欠乏症で息も絶え絶えなユウが、制止するレイを振り切ってその
「間違いない……あの子や……」
近寄ったユウに、そのスライムが体当たりする様子はなかった。ユウの足元までゆっくり近づいて、その身体を
明らかに他のスライムとは
「ごめんセッちゃん……」
ユウはそのスライムをかばうように抱きしめる。
「セッちゃんの言うことはよぉ分かる。でも、でもこの子だけは……お願い……」
勝手なことを言っているのは十分
一緒にいたのはほんの短い時間だったとしても、ユウとこのスライムには確かな
相容れないのだとしても、それでも……。
――ドクン
その感覚がなんなのか、その場にいる誰も知りえなかった。
ただユウを中心に何か
その中心にいたユウは、波が
「――あっ」
あっけにとられていたユウの腕の間から薄桃色がぴょんと抜け出した。
「今、何か……」
不思議な感覚に
ぷるる――ぷるる――
薄桃色のスライムが
振動の波がさざ波のように広がっていく。やがてこの湖一帯、目に見える全ての範囲のスライムが同じように身体を震わせる。
「お、おい……セラ、これはなんだ……?」
「知らないわよ……!」
明らかな
そもそもこの
共鳴はほんの
「何が……うわっ!?」
ユウが
周囲一帯に
脇を飛び跳ねて大移動する魔物達、
やがて水音が遠く離れていき、湖は本来あるべき
「あ、あはは……なんやごっつすごいことなったなぁ……」
あまりの出来事に身体の疲労を忘れてしまったらしいユウが
もう湖にスライムの姿はない。いや、
スライムがユウを見つめていた。当然目などないのでただユウがそう感じているだけではあるのだが、なぜかそんな
「……他の子達を
スライムは答えない。答える
そんなスライムを優しく撫で、まだ
「これで、もう駆除する必要はあらへんな」
まだ横になっていないと辛いだろうというのに、そんなことを言ってにししと笑う勇者に対して、魔法師はただ肩を
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