邂逅、そして(4/6)
普段あるものがないことは最初こそ新鮮かもしれない。だが時間が
今回はまさにそれだった。
ユウの寝起きは最高であった。寝返りを打っても痛くなく、鼻先に虫がとまることもない。屋根とベッドがあることがこれほどまでに素晴らしいことだったとは今まで考えたこともなかった。二日
もっとも、地面が
田畑の用水路を
「うち詳しくはないけど、けっこう水路とかしっかりしとるね。王宮とか建物見たときも思てたけど、機械もないのによぉこんなん作ったなぁって。あ、馬鹿にしとるわけやないんよ?ほんまにすごいなぁって」
関心してユウはきらきらと陽光を反射する水の流れに目を細めた。機械、というものがなんなのかレイ、セラ共に知る
レイとセラにとって
「こういう水路は魔法で作られているんだ」
「魔法で!?」
この世界のごくごく一般的な常識を騎士が話しただけで勇者はとても
「魔法師にもいろいろいてな。こういう土木作業用の魔法を習得した土木魔法師、
真剣に話を聞いていた様子のユウがふと疑問に思って後ろをついてきている魔法師を振り返った。
「セッちゃんは何魔法師なん?」
「戦術魔法師」
「……ってどんなやつ?」
流れるように問いかけがレイへと回ってくる。
「ようは戦いに特化した魔法師だ。魔族との戦争の
「へぇ、よう分からんけどめっちゃすごいんや!」
そういったユウの頭を不意に魔法師がわしゃわしゃと
「にょわあ、ちょっとセッちゃん!?」
突然頭を左右に振られたユウが目を白黒させる様子を無表情で眺めていた魔法師だが、その手をユウの頭に置いたまま
「……別に、すごかないわよ。たまたま才能があっただけ。それに物を壊して命を奪うのが得意なんて、何の自慢にもならないわ」
その言葉は
才に恵まれつつも、その才が決して
だがそれは
「それより、ほら、見なさい」
会話を打ち切るようにセラが促すと、道の先に見覚えのある半透明の
「おった!」
ユウが
「おっしゃばっちこいっ」
「おーよしよしよしよし!」
そのまま魔力を込めた手の平で撫でくり回す。
「ユウ……」
呆れた様子のレイが声をかけるが、今度はそれで集中が
魔力の扱いに関しての師匠たるセラにとって教え子の成長は喜ばしいが、その成長の原動力がこれでは手放しには喜べない。
喜んでいるのはその胸に抱かれているスライムぐらいである。
「ユウ、そんな
セラに注意されたから、というよりも
スライムは腹……どこが腹なのは
「ドヤァ……うちのマジカルナデナデもなかなか様になってきたやろ」
そう言って、ない胸を張る黒髪の勇者。
「マジカルナデナデ……」
どうやら餌やりのことをそう命名したらしいと理解した騎士はなんとも
魔法師の方も似たり寄ったりな表情だったが、少しだけ関心した様子で
「……一連の動作に名前を付けるというのは悪くないわ。名前をつけて意識することで、魔力を動かす、放出するという動作を頭の中で一つの動作にまとめてしまうの。そうすることでいちいち手順を意識しなくてもスムーズにその動作を行えるようになる。言ってしまえば普通の魔法も同じ
一つ一つ手順を意識して
「満足したかしら、それじゃあ……」
と、スライムに向けて伸ばされた
「ちょ!ちょちょちょ!なにすんの!」
「何って、
当然と言わんばかりの無表情で恐ろしいことを言う魔法師をユウが青ざめた表情で制止する。
「なんでや!もうこの子は人に体当たりせぇへんって!害がなくなったんやから焼却することはないやろ!」
「あのなぁ、ユウ……」
見かねたレイがユウを説得にかかる。
「確かに今は満足してるみたいだが、時間が
スライムは今自分が焼却されようとしているなど
まだ餌やりを行ったスライムは二匹目なので十分な
「それは……そうやけどまだ分からんやんか!時間経ってへんねんし!もしかしたらこれでずっと人間に体当たりはせんとこってなるかもしれんやろ!」
確かにユウの言うことも可能性がないわけではないが、どちらの方が可能性が高いかは明白だろう。
それでもユウはスライムを焼却することには絶対反対らしく、くつろぐスライムの前に立ちはだかり、両手を広げて
「子供か……」
レイが
これからどうやって説得するかを考え始めたレイだったが、意外にもセラがあっけなくその手を降ろしたので驚いてその無表情を
「そう……ならどうするの?水路はこの村の生命線よ。このまま
セラの正論にユウは必死に考えを巡らせた。
そして
「……やったら、それまでにうちがここら辺のスライム全部
あまりにも無茶な発言に騎士は
しかし魔法師はその答えが分かっていたかのように一つ
「じゃあ、やれるだけやってみなさい。ただし今日一日だけよ。もともとこの村に
「セッちゃん……!」
セラの思いのほか
「よし……ほんなら時間がない、早く湖まで行くで!」
「おい、セラ!」
「お前……あんなこと言って。できるわけないだろう。二、三匹じゃないんだぞ」
セラは前を行くユウの背を見つめている。その瞳が少し
「この話を聞いたときから、こうなることは分かってたわ」
「だったら――」
「私は旅の目的をちゃんと
戦うべき相手。人間の敵は魔族だけではない。魔物もその中に
「最初の出会いが平和過ぎたのよ。このままじゃユウは魔物を怖いものだと認識できなくなる。それはとても……危険なこと。だからなるべく早く知ってもらわないと。この世界には
その言葉は風に流れて前を行くユウには届いていない。
歩くたびにさらさらと流れる黒髪を持つ少女は、かつてセラを優しいと
「私、けっこう意地悪よ。だって、これから貴女が
その言葉もユウには届かない。
風に流れた呟きはそのまま
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