邂逅、そして(3/6)
農村であるデマリ村だが、
こういった宿屋は酒場も経営していることが多い。そこで宿泊している商人達は酒を
物珍し気にユウの黒髪をチラチラと見る
「さて……これからどうするかだが」
食事が一段落ついてきたのでレイが話を切り出した。
「あ~久しぶりの
生のままカットされた
「――甘味は必要よね。村を出る前にジャムを買っておきましょう」
セラは黙々と林檎を口に運んでいる。表情が相変わらずの
「話、聞いてるか?」
「聞いとるよ」
相変わらずシャクシャクと音を立てながらだがユウが答える。セラにしても皿の中身がなくなるまでは食べるのを止める気はないようだ。
仕方なくそのままレイは話を続ける。
「
そうすることでユウの勇者としての力の
「なぁなぁ、うち気になんねんけどやぁ」
手についた林檎の果汁を
「ここに来るまでに魔物っていうのは分かったよ。でも魔族ってなんなんや?魔族領ってのもよぉ分からん」
「王宮で教えてもらわなかったのか」
「もろたよ。でも、あの時はこっちに来てすぐやったさかい、頭がわーってなっててあんま覚えてへんねん」
確かに、こちらの世界に来た直後では混乱していて記憶に残っていないのも無理はなかろう。
今一度ユウに理解してもらうため、レイはエールを一口
「魔族、というのは人間に敵対している知的種族の
黒髪の頭上に
「人間の敵で、言葉を話したら魔族、話さなかったら魔物。魔族領は魔族の国だ」
疑問符が晴れる。理解してもらえたらしい。
「だから魔族といってもいろいろな種族がいる。もっとも下級なものが
魔族は自分より格下の種族を簡単に使い捨てる。格下の種族は格上からの命令ならどんな命令でも、実行する。例え自身の命が失われることが目に見えている命令だとしても。逆らえば待っているのは確実な死だからだ。種族的な
「そして支配階級の魔神族の中でもっとも地位の高い者が、魔族の頂点。いわば魔族の王。魔王と呼ばれている。そいつを倒せばやつらは統率を失い
そこでレイが言葉を止めた。いつになくユウの眼差しが
「――セッちゃん。最後の一切れはじゃんけんでどっちが食べるか決めよか」
「じゃんけん?なにそれ。そんなことしなくてもあげるわよ」
「やたっ」
皿に残った最後の一欠けらを頬張る勇者の
だがユウは話はしっかり聞いていたらしく、口の中の林檎を飲み込むと今一度レイに
「そもそもやで。勇者の力ってなんなん?そんな目覚めたら急に強くなるようなもんなん?」
「それは俺達にも分からない」
「なるほどなぁ……って分からんのかい!」
普段のユウからしてみれば勢いのある返しに面食らっているレイに代わってセラが話を引き
「勇者召喚……っていうのは、ただ強い人を召喚するって魔法じゃないのよ。
そこまで話を聞いたところで何か引っかかるところがあったのか、その〈世界を救う者〉は首を
「なぁ、でもその言い方やと勇者の力ってのは戦いの力じゃないかもしれんって言うとるように聞こえるけど。そもそも魔族を倒すことが世界を救うことになんのかもよう分からんし」
「たしかに、
理屈的にはユウの言葉は正しい。ただ、
「人間と魔族という
レイの言葉は決して彼個人の意見ではなく、この世界に暮らす全ての人間が持つ
だがユウはそこに何か言いようのない違和感のようなものを感じた。口を開けるが
伝えたい言葉があるのにそれを形にすることができず、歯に物が挟まったようにユウが口をもにょもにょさせていると、三人に話しかける者が現れた。
「少し、よろしいですか?」
髪に白が混じる
「何か用か?もう食事も終わったことだし、そろそろ部屋に戻ろうかと思っていたんだが」
少しばかり距離を置くようにレイが言う。ただ単に物珍しさからくる雑談であるのなら言葉通りに部屋に
「できれば少しだけでもお時間をいただけないでしょうか。
今、レイの盾は自室に保管してある。つまりこの男は行き当たりばったりではなく、どこかでレイ達が訪れたのを知り、わざわざ訪ねてきたというわけだ。
レイが向かいのセラに視線を送ると、一瞬
「……話を聞くぐらいなら」
「ありがとうございます」
「失礼、
構わない、とレイが手で話を続けるように促す。ユウは突然の
「まだ名乗っていませんでしたね。私はルッツという者です。このデマリの村長という立場にあります」
「レイ・ルーチス。一の騎士団の
任務の詳しい内容は語らない。勇者が召喚されたというのはラドカルミア全土に知れ渡っているが、その勇者がまだ若い少女であるというのは
自らを村長だと言ったルッツという男もそれについては深く
「それでお話というのはですね、少しばかり、そのお力をお借りしたいのですよ。もし私の記憶違いではなければ、お連れの女性の方は魔法師なのではありませんか?」
ルッツの視線が自分に向いたので、仕方ないといったふうにセラが答える。
「……どうしてそれを?」
「村にいらっしゃった時に着ておられた
確かに、セラが普段使っている
「魔法師が必要というと、近くに魔物でも出たのか」
村長が
「とは言っても、そこまで危険な相手ではありません。場所は近くの湖なのですが、そこに最近スライムが大量に発生しているのですよ。ここデマリではその湖から水を引いてきて農業に
用水路を用いた農業は用いない場合と比べて
「スライムがいっぱい……なんやおもろそうやな」
スライムと聞いてユウが食いつく。だがデマリの人々からすれば
しかし疑問に思ったことをレイが
「スライムなら、俺達に頼まずとも自分達でなんとかできそうなものだが」
「もちろん最初は自分達でどうにかしようと思いました。ですが、あいつら斬ったら分裂しかねませんし、殴っても意味がない。火を
スライムという魔物は危険度で言えば間違いなく魔物の中で
ゼリー状の身体は斬り込みを入れた程度では簡単にくっついてしまうし、半分に切断するとその両方が別々の個体として活動を開始する場合がある。分かれた部分が小さすぎればさすがに分裂せずに
倒せないなら追い払うしかないが、一匹二匹ならともかく、そうでないのなら他の個体を追い払っているうちに最初に追い払った個体が戻ってくるといった
だから村長は魔法で
「もちろん
どうやらルッツはセラのことをレイの部下だと思っているらしい。レイに向かって
「悪いがこいつは俺の部下ってわけじゃないんでな。頼み事なら直接言ってやってくれないか」
「おお、そうでしたか。これは大変失礼しました」
村長は申訳なさそうにセラの方に向き直る。
魔法師に別段気にした
「……めんどくさいわね」
にべもないセラの言葉にルッツはそこをなんとか、と食い下がる。魔法師というものは数が多くなく、
「なぁなぁ、駆除するかどうかはともかくや、うちその湖見に行きたいな」
答えたのはセラではなくユウだった。
「スライムがいっぱい……撫で
何を想像しているのか、頬を
「……そう。じゃあ明日見に行くには行ってみましょう。駆除するかどうかはその時の気分で決めるわ。とりあえずはそれでいいわね?」
「もちろん!前向きな返答をいただけて感謝します」
「ほんま?やったぁ!」
完全に拒否されなかったことを喜ぶ村長と、大量のスライムと
めんどくさいと言ったわりには行動的な答えにレイが
「――いい
「ん?セッちゃん今なんて?」
ユウが聞き返したがセラは首を横に振って同じ言葉を繰り返すことはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます