第19話 無防備に遊んでいる時でも注意しましょう
「いやー、楽しかったわ。サンテちゃん、ガイさん、バゴットさん。みんな、ありがとう」
待ちきれなくなった夜光連星はついに、魔物を倒すガイのロケットパンチにも目をつけた。
ガイの腕に体をロープで固定してから、ガイがロケットパンチを放つ。
宙返りや左右の連続回転に上下左右の自由移動に、乗った2人は大興奮。
バゴットに二人乗りしていたペアと何度も交代して、子供らしく空を楽しんでいた。
更に子供のサンテは遊びに疲れ切って、ラムに包まれて眠っていた。
バゴットが作り出した、大岩に擬態させた一軒家で。
バゴットの能力は空を駆けるだけに留まらなかった。
麒麟は大地を司り、砂、土、石、金属を自由に操れる。
バゴットはその能力を用いて、疲れて眠るサンテのために、安全な寝床を作ってみせた。
出入りは岩のヒビに見せた箇所が動き、ドア代わりになっている。
内装こそないが2LDKに風呂トイレ付きと、王都民の家よりも贅沢な設備。
模様替えこそバゴットにしか出来ないが、家具まで設置されている。
既にサンテの寝室のベッドには、ラムがマットレスになり、その上でサンテが寝ている。
更にサンテには、コスモスが自分の蜘蛛糸で編んだシーツがかけられている。
紅椿が林から乾燥した枯葉を集め、もう一つの寝室のベッドに敷いて。
コスモスの編んだシーツをかけて、ベッドメイキングをしている。
次のシーツが出来るまでは、キッチンで夕食の用意をする。
それぞれが己の特色を活かし、自分に出来る仕事をこなしている。
全てはサンテのために。
夕日も落ちてリン達夜光連星が地上に帰ってきた。
バゴットの案内で、いつの間にかあった大岩に向かう。
「ちょっと待ってよ。サンテちゃんと交代する前まで、こんな大岩なかったわよね? ガイさんやバゴットさんは、なんで平気な感じで近寄ってくのよ!」
危険は感じないが、斥候弓兵のエイミーは注意喚起する。
(気が付けばそこにあった大岩。これはもしかしたら、ダンジョンの入り口かもしれない。私だけでも注意しておかないと、不味いことになるかもしれない……)
そんなエイミーの心情が伝わるはずもなく、バゴットとガイの順で、開いた岩の裂け目のドアから中に入っていく。
エイミーはリン達が、無警戒にバゴット達に続き穴へ入ろうとするので止める。
「待って、安全確認のためにも、私から入るわ」
短剣の鞘の先にマチルダから灯りの魔法を貰い、エイミーは慎重に歩を進めていく。
中は綺麗な石の床になっていて、ドアのない部屋が複数あるようだ。
リン達もエイミーに続いてようやく危機感を持ち、腰を低くしてゆっくりとエイミー付いていく。
彼女達はリビング、ダイニングと気付かぬまま。
古代の遺跡が出現した?
それともダンジョンが作った罠?
などと考えながら調べて通過した。
次の部屋を覗いた時に緊張は一気に吹き飛んだ。
全部聞こえていた紅椿が、笑いをこらえながら調理している姿があったからだ。
「えっとー……これって、サンテちゃんの仲間の誰かが作ったの?」
「ギギッ」
「あっ、そうなんだー、アハハー……はぁ」
ガイ達の誰も言葉を話せなくて助かったリン達。
誰か一人でも話せたら、その者を通訳にしてお説教確定だったからだ。
遊び過ぎで注意力が足りない、と。
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