第8話 先輩を差し置いて出てきた蜘蛛

 旅の疲れと満腹で、サンテは食後直ぐにテーブルで眠ってしまった。


「あらあら、勉強させ過ぎちゃったかしらね。ガイさん。ギルドに宿泊室がありますから、そこまでサンテちゃんを運んでもらえます?」


 ガイはヘレンに頷くと、ラムを鎧の中に入れてからサンテを抱え上げた。

 その間にヘレンは会計を済ませていた。


「それじゃあ、行きましょうか。ガイさん、ついてきてちょうだい」


 ガイが頷いたのを確認して歩き出すヘレン。

 フルプレートアーマーサイズのガイは、裏口からだとギルドに入れないので。

 両者は先にギルドの裏口を開けて、ヘレンだけが入り施錠。

 ギルドの内外から別ルートで表入口に向かい、解錠されたドアからガイが入っていく。




(ガイさんは随分と女性を丁寧に扱うのね。まるで本物の騎士みたい)


「こんな田舎のギルドに二階なんてないから、宿泊用の部屋は奥になるの」




「ここよ」


 案内された部屋は丁寧に清掃されていて、直ぐに使っても問題なさそうだ。

 ガイはベッドにサンテを寝かせると毛布をかけ、ヘレンに向き直るとサムズアップ……せずに一礼した。


「気にしないでいいですよ。では私も、今夜は隣の部屋で休みます。何かあったら、遠慮なく起こしてください」


 ガイが軽い一礼をしたのを確認して、ヘレンは隣室へ入った。

 翌朝自分で目覚めるまで、起こされる事はなかった。




 その蜘蛛は魔物ではあったが、非常に温厚で高度な知性を備えていた。

 母蜘蛛より生まれて数日。

 安全のためにあえて。魔物の嫌う匂いを放ち、生物に実を食わせ種を運ばせる果樹に住み着いた。

 そこに訪れる虫を捕まえて生き延びてきた。


 新たな住居にもなれ、二十日が過ぎようとするころ。

 蜘蛛の住む果樹に圧倒的強者が現れた。

 騒音をまき散らかし、離れる腕で果実の大半をもぎ取っていく。

 このままでは虫をおびき寄せる果実が全て、奪われなくなってしまう。

 だが同時にとてつもないチャンスだとも思った。

 このリビングアーマーについていき共生出来れば、よほどの相手以外には害される心配がなくなる。


 幸いリビングアーマーの肩には子供が乗っているので、成長に合わせて服を作れば置いてもらえるだろう。

 そうと決めたら即行動。

 果樹とリビングアーマーの背中に糸を渡して、渡した糸を伝ってリビングアーマーに貼り付く。

 鎧はかなり滑るので糸を出しながら、入れる隙間を探し登っていく。


 鎧内部の胴体部分にはスライムが住み着いたので、蜘蛛は兜の中に巣を張った。

 エサは夜間の焚き火に寄ってきた虫を、スライムが捕まえて与えてくれた。

 リビングアーマーも指を立てて何やら合図していたので、ただ単に見逃されていただけらしい。


 リビングアーマーの不思議な踊りの指示に従い、少女の内着の下から作っていく。

 まだ体が小さいので出せる糸の量が少ない。

 そう伝えたらリビングアーマーとスライムの両者から、作業中は糸の材料の魔力が、常時送られ続けてきた。

 それに、ちゃんと休みもくれるらしい。

 なかなかに高待遇なのかもしれないと、蜘蛛は思った


 少女が屋根のある場所で眠った深夜に、下着というらしい服が出来上がった。

 これを土産に少女に紹介される様だ。

 蜘蛛は期待半分不安半分で、自分の巣に戻り朝まで眠りについた。

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