告白






 久しぶりに読み返した、その手紙は茶色くなっていた。


 あいつは千夜という名前だったのか。


 有沢の字は、この時から綺麗だったんだな。

 ああ、でも力が入りにくかったのか、たまにミミズが這っている。


 読みにくいことこの上ない。


 思わず吹き出した。

 こんなことまでして、俺に手紙なんて書いていたのか。


 まったく、しょうがない奴だな。


 そんなに力を使うのなら、自分の母親にでも書けばいいじゃないか。


 それが照れ臭いなら、担任にでも書けよ。

 なんで、よりにもよって俺なんだよ。



 そんなふらふらになってまで。


 なんでだよ、有沢。

 なにを伝えたかったんだよ、わからねぇよ。


 ずっとそうじゃないか。


 お前は、そうやってかしこぶって、利口ぶって、澄ました顔してなに考えてんだよ。


 大事なことを言わないんだ。


 一番のバカだ。

 そんな奴は、絶対バカだ。


 なんでだよ。

 なんでだよ。



 手に持っていた封筒から、はらりと。

「…………、……」


 相変わらず、タイミング悪い奴だな。

 ったく。


 それを拾い上げようとして、止まった。


 手が、身体が、思考が。

 その文字が滲んでいく、視界が鬱陶しい。


 ……ったく。

 ほんとうにタイミングが悪い。


 なんで、今なんだよ。

 もっと、早く言えよバカ野郎。




 ーー……ねぇ、翔平。すきだよ。




 ● ● ●




 やまない雨が。

 やまない雨が。


 ながく降る。

 降り続ける。


 春の陽気を。

 花びらを。


 壊し続けて。

 打ち続けて。



 いつになったらやむのだろうか。

 この薄暗さから、出られるのだろうか。


 曇天に手を伸ばしても、届かない。

 もう、太陽には届かない。


 遠すぎて、届かない。


 ああ、どこにいるんだ。

 なにしてるんだ。


 はやく。

 もっとはやく。



 お前に手を、

 伸ばしていればよかった……ーー。









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はるながあめ 〜春霖〜 成柞草 @7239sou

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