第7話.彼女と彼女

マーク君に連れて行かれるクレル君の背を心配そうに見詰めます……彼だけに話なんて、本当に大丈夫なのでしょうか? 彼の中の子ども好きとガナン人嫌いのどちらが勝つのか不安です。でも──


「姉ちゃん、ケツでけぇな!」


「あっ……だ、ダメで、す…………」


──私に人の心配なんてする余裕はありません。……うぅ、子ども達の相手を引き受けましたが……お、お尻を叩かれてしまうのはちょっとだけ嫌です。少しだけ大きい事を気にしているのに、小さい子どもは遠慮がありません。……やはり少しは運動した方が良いのでしょうか?


「お姉ちゃーん! 次こっちー!」


「あ、う……は、い……」


元気な男の子に手を引っ張られ、少しばかり前のめりになりながら着いて行きます。……そんなに引っ張られるとコケてしまいます、私はそんなに身体能力が高い訳ではありませんから。


「追いかけっこだせー!」


「う、え……は、い……」


追いかけっこ、ですか……私はそんなに走るのが得意ではない……と言いますか、身体を動かすこと全般が得意ではありません。走ってもあまり意味がないくらいには遅いです。


「よーい…………ドン!」


「はぁ……はぁ……」


だ、ダメです……皆さん速すぎます。ほんの数歩走っただけで私は息切れしているというのに、もう大半の子の背中が遠くに見えます。あ、足が重いです……。


「姉ちゃん遅いぞー! ほらもっと速く!」


「は、ふぅ……ひ、ふぁ……い…………」


凄いですね……もう子ども達は全員ゴールしてしまっています。まだ走っているのはこの中で一番年長者であるはずの私だけで……なんだか情けくなってしまいます。


「ゴォール! …………姉ちゃん、大丈夫か?」


「ふぅ……ふぅ……は……い…………大丈、夫……で、す…………」


やっと、やっとゴールができました……走り抜けると共に地面に座り込んでしまい、子ども達に心配されてしまいますが……正直に言って、破裂しそうな心臓を抑えながら息を整えるのに精一杯で……あまり余裕がありません。


「もう! これだから男子は!」


「そうよ! 女の子はおままごとで遊ぶのよ!」


「えー! 姉ちゃんもう大人だし、これくらい良いじゃんかよー!」


あぁダメです、私が情けないばかりに子ども達が喧嘩を始めてしまいました……おませさんなティコちゃんが憤りを顕にすれば、彼女と仲良しなマコちゃんが同意します。それに対して先ほどまで追いかけっこをしていた、元気いっぱいなレック君が不満を口に出します。


「だ、大丈、夫……で、すか……ら……ね? 順番で、す……よ?」


「『……はーい』」


眉尻を下げながら、それぞれの頭を優しく撫でて窘めます。……私の不甲斐なさのせいで子ども達が喧嘩するのは心苦しいですからね、少し……というか大分体力的にキツイですが、頑張りましょう。


「……ねぇ、お姉ちゃん抱っこ」


「え……あ、う……は、い……」


まだ全然疲れが取れていないのですが……最年少のディックに抱っこをせがまれてしまっては断れません。……うぅ、子どもって本当に重いです。腕がつってしまいそうです。


「じゃあ、お姉ちゃんがお母さんね!」


「んじゃあ俺がお父さん役な!」


「レックは下心があるからダメよ」


「んなっ?! そんなもんねぇよ!」


あぁでも、そうですね……確かに体力的に大変ではありますが……こんなに子ども達と遊べるなんて楽しい、楽しいわ。私、今とっても楽しいわね。


「ふふっ、はいはい大丈夫だからね?」


「? ……なんか知らねぇけど、姉ちゃんも良いって言ってんじゃん!」


「むー、お姉ちゃんが良いなら……」


ふふふ、ティコちゃんはレック君が好きなのね? 大丈夫よ? 私は取ったりしないから、安心して貰っても構わないわ! でも、お母さん役なんてどうしたら良いのかしらね?


「でも私おままごとってした事ないの、教えてくれる?」


「『えぇー?! したことないのー?!』」


「……やっぱり変かしら?」


私は生まれてきてこの方、同年代の子と遊んだ経験が最近まで本当に無いのだから仕方ないじゃない? まぁ、こんな森の奥地にある孤児院の子達でさえ遊んでいたのだから……おかしいのでしょうね。


「今まで何して遊んでたんだよー?」


「うーん、そうね……お絵かきの他にはだるまさんを最近知ったわね」


彼女達に教えて貰ってしたけれど、楽しかったわ。……その時はまぁ少し意固地だったけれど、リーシャ──私の喋り方ではまったく成立しないのが彼女自分らしくて素敵だったわ?


「? ……まぁ良いわ、とりあえずおままごとして遊びましょう?」


「『はーい!』」


うふふ、元気いっぱいな子ども達ね? 素敵だわ。お父さん役のレックはその辺の枝で木を叩いているわね? お父さんのお仕事は木こりかしら? ディックは……あらあら、私の胸を触りながら寝てしまったわ。


「お母さーん、私お父さんにお弁当届けてくるねー?」


「ふふ、行ってらっしゃい」


やっぱりティコちゃんはレック君が好きなのね? そうなんだわ、真っ先に駆け寄って行ってるもの。……子どもはこんな感じに遊ぶのね? あぁ、でも──


「……ふふっ」


──楽しいわ?


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