第6話.妖精の実家その2

「こっちが中庭だ、主に遊び場になる」


そう言って俺達二人を案内するのは先ほど話し合いをしていた部屋に尋ねてきたマークという孤児達の年長者だ……彼が一番の歳上であるらしく、既に大分歳をとっているアグリーに変わって孤児院の業務をすることも多いらしい。


「……意外と多いんだな」


「あぁ、婆ちゃんが何処からか連れて来るんだ」


こんな辺境の森、それも霧の立ち込める不気味な森の中に建つ孤児院にしてはえらく子どもの人数が多い……しかもまだ十歳にも届かないような年齢の子が大半に見受けられる。


「あの子達を森の魔女が攫って行くのか?」


「あぁ、森の妖精の魔女がな……本当に居るのかは知らんが」


今だけでも相当数の子ども達が元気にはしゃいでいるが……これでも数人は魔女に攫われてしまったのか、行方不明になり減っているというのだがら驚きだ。……どうやってこの森の中でこの人数の子ども達を養っているのか。


「あっー! マークが知らない人を連れてるー!」


「本当だわ! マークだけズルいわ!」


庭を元気に駆けずり回って遊ぶ子ども達を見ながらマークと話していると、コチラに気付いた小さい子ども達が駆け寄ってくる……やはりこんな環境では客人自体が珍しいのだろう。


「遊んで遊んで!」


「こっちでおままごとしましょ?」


「あ、うぇ……あ……」


やはり雰囲気だろうか? 子ども達はなぜか俺やマークではなく、一直線にリーシャへと群がっていく……やはり彼女は人を惹き付ける魅力があるのだろう。……ただ単に自信なさげな佇まいが子ども達に舐められているのではない……とは思う。


「お前ら客人だっていうのに……まぁいいや、案内は全部終わったし」


「……リーシャは良いのか?」


「クレルさんに婆ちゃんが後で話がまだ残ってるって言ってたし、丁度いいから相手して貰っても良いか?」


ふむ、どうやらアグリーはまだ俺にだけ話が残っていたらしい……俺の父親に関する事か、それとも妖精の魔女の事か……どちらにせよ、呼ばれているのなら仕方ないが……果たしてリーシャを置いて行っても良いものか?


「あ、えっ……と……は、い私、は……構、いま……せ、ん……」


「すまん、助かる」


「俺からも礼を言う。チビ共を頼む」


「任せ、て……下、さ……い……」


リーシャに子ども達を任せてアグリーの元へと向かう……背後から聞こえる子ども達の『早く遊ぼうよー!』『お姉ちゃんケツでけぇな!』という声に、リーシャの『あっ……待っ、て……下さ、い……!』という頼りない悲鳴にかなり、大分、とても……本当に後ろ髪を引かれる思いだが、鋼の精神で足を踏み出す。


「……あの姉ちゃん本当に大丈夫か?」


「彼女は頼れる相棒だ……」


「そうなのか?」


「……多分」


「……」


「……」


耳が痛くなるような沈黙が二人の間を支配する中、粛々と歩を進めていく……なぜか今回に限ってリーシャは自信満々に子ども達の相手を引き受けたが……そもそも彼女は重度のコミュ障であるはず。やる気を珍しく出したからと言って、上手くいくとは残念ながら思えないのが事実だ。


「……婆ちゃん、連れて来たぞ」


「おんや、早いねぇ?」


良かった、もう着いたようだ……いや、同じ敷地内の建物に行くだけなんだから直ぐに着くだろとは思うが……あの沈黙は本当に痛かったのだ。


「じゃあ俺はこれで──」


「──待ちなマーク、あんたも同席するんだよ」


「……俺もか?」


ふむ? どうやらマークと一緒に話があるらしいな、これは妖精の魔女の件についてが濃厚だろうか? だとしたらマークはなんの関係が? 被害者になりうる以外に理由を見い出せないな。


「知っての通りマークはガナン人さね」


「……まぁ、見れば分かるが」


一緒にアグリーの対面の席に隣合って座る彼を横目で見るが……やはりどこからどう見てもガナン人だ。その髪と瞳の色こそ珍しくはあるが、褐色の肌は疑いようもない。


「だが私はレナリア人だ、魔法が使えない」


「……当たり前だな」


アグリーの肌は日焼けこそしているものの、褐色ではない。ハーフやクォーターという線もあるが、師匠クソジジイが確定的にレナリア人だと言っていたのだから、そうなのだろう。


「だからね? 代わりにこの子に魔法を教えてやって欲しいのさ」


「なるほど、話が見えてきた」


いきなりガナン人だの、レナリア人だのと言われた時は『何を今さら』と口に出しかけたが……なるほど、いつ妖精の魔女が子ども達を攫いに来るのか判明しないし、彼も……マークもその子ども達の一人ではある。……つまりは、そういう事なのだろう。


「最低限の自衛の手段としてか教えられないが、良いか?」


「……まぁ、時間もないしねぇ」


ちゃんとした魔法使いにするには最低でも二年から三年は欲しいところだ……それに俺自身もまだ若く、経験も実力も技術も足りない……教えられる事はそう多くないだろう。


「マークもそれで良いね?」


「……婆ちゃんが必要だと思うのなら」


話が始まってからずっと黙っていたマークも俺に魔法を教えられる事に異議はないらしい……という事よりも自分の意思よりも、アグリーの決定にただ従っているようにも思える。


「はぁ、まったくこの子はいつまで経ってもババァ離れができないねぇ……そんじゃ頼むよ」


「あぁ、了解した」


話は終わったとばかりに手を振って俺達二人を追い出すアグリーに内心ため息をつきながら部屋を出る……しかし、本当に俺が人に魔法を教える事なんて出来るのだろうか?


「……教える内容を纏める。始めるのは明日からで良いか?」


「……あぁ」


うーむ、マークは受け答えなどはしっかりしているし、自分から話し掛けて来る事もあるにはあるが……あまり自主的ではないようだ。


「……とりあえず、よろしくお願いします」


「あぁ、俺も人に教える事で学べる事もあるだろうしな」


「そうか……夕食の準備をしてくる」


そのまま去っていく彼の背を見詰めながら……さて、リーシャは無事なのだろうかと眉間を揉みほぐす。……ちゃんと子ども達の相手を出来ていれば良いのだが。


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