第326話覚者その3
直感スキルが発動する――その警告に逆らわず、その場を飛び退けば何かが先ほどまで居た地点に突き刺さったような気がしました。
「反応が良いね、いったいどれだけ魔纏っているのかな」
そんな軽口を叩きながら、神父は仰向けの体勢からハンネスさんの斧を片手で押し上げつつ、ゆっくりと上体を起こしていく。
「いい加減に離しやがれ!」
「ははは、ごめんよ」
一瞥すらせずにハンネスさんの蹴りや打撃を防ぎ、それどころかカウンターまで決めて吹き飛ばしてみせる。
「どうですか?」
「ペッ……ステータスは完全にあっちが上、先読みはネタが分からん」
空中で体勢を立て直し、自らに回復を掛けながら隣に降り立ったハンネスさんに尋ねてみれば、そんな答えが返って来ます。
感想、意見はほぼ私と同じ様です……ですが、私は彼と違った気付いた事があります。
「糸、のような物が繋がれていたようです」
「あ?」
ハンネスさんのうなじ近くの空間を掴み、無造作に引っ張れば「いっだ!?」という叫びと共に出血する。
恨みがましい目で睨んでくるハンネスさんに手のひらを向けてみれば、そこには確かに肉眼では全く見えない極細の糸が乗っています。
視力を肉体強化で補強し、『看破』などのスキルと併用しなければ捉える事すら難しいその糸。
「なんだこれ」
「脊椎ですね」
「あ?」
「糸を仕込んでいる最中に気付きました」
髪の毛よりも細い脊椎が私とハンネスさんのうなじに打ち込まれており、そこから私達がどう動くのかを文字通り背骨で感知して反射的に対応していたみたいですね。
いつものように場に糸を仕込み、自分に有利なフィールドを形成する上でいくつか極僅かな手応えがあり、それによってやっと気付けました。
「いつの間に仕込んでやがった?」
「仕込む? いいや違うよ、これらは正真正銘君たちの脊椎さ――わかり易くしてあげようか?」
神父が両手を広げると同時に雲が晴れ、天窓が射し込む陽光がスポットライトのように彼を照らし出す。
彼の背中から無数に伸びる、真っ赤なスキルエフェクトを纏った極細の糸――それらが私とハンネスさんの後頸部から腰椎の辺りまで繋がっている。
引き抜いた筈のうなじからも、また新たに極細の背骨が伸びて神父のもとへと伸びていくのか見えました。
「接続した機械が本体の脳波を読み取る事で、君たちプレイヤーは
それだけではありませんね。元々が私達の脊椎というのであれば、脳波ジャックされないように何度も引き抜けば重大な欠損扱いとなり、大きなダメージが入る可能性があります。
そして私とハンネスさんは既に大量の脊椎を神父の手中に納められており、今さら予防する事も出来ません。
ここまで整理して浮かぶ懸念点は、この極細の脊椎を通して私達へと直接ダメージを与えられるのではないかという部分です。
あれだけ武器を振り回して動いていて、大量にある脊椎の内の一本にも当たらないという事はないでしょう。
しかしそれら一連の行動でダメージを受けた様子はない。つまるところ、これらは本当に脊椎の一部を削って作り出したのではなく、コピーのような物と言えるのではないでしょうか。
引き抜く時に接地面がダメージを受ける、接地面が脊椎であるためダメージが大きくなる、そういう事ではないかと思うのですが。
「脳波とか電気信号とか、そういったレベルで盗聴されるのか」
「……の様ですね、無理に引き抜くとダメージが蓄積されて欠損扱いになりそうです。ただ向こうから脊椎を通して私達を操る事は出来なさそう――いえ、『繰糸』スキルの適用範囲内かも知れません」
極細の脊椎を通して私達に特定の動きを強制させるという事は今のところしていませんが、『繰糸』スキルに出来る事はほぼ実現可能だと思っておいた方が良さそうですね。
私でしたら身体中に糸をくっ付けた相手の動きを自由に誘導する事など容易いですし、既に捕まっている様なものですねこれ。
「んで? ステータスは向こうが圧倒的に上なんだろ?」
「そうですね」
「どうやって勝つ? こういうのお前得意だろ? 早く指示くれよ」
安い挑発ではありますが、友人にそこまで言われては応えない訳には参りませんね。
「まぁ、勝つ手段なんて一つしかありませんよね」
今までずっとこの空間に張り巡らせた糸から闇を滲み出させる――それらはジワジワとこの場を侵食し、未だに太陽が昇る時間だというのに私達を夜よりも暗く塗り潰す。
視界を奪うと同時に、武雄さんや花子さんに眷属召喚を行って貰い、大量の羽音で相手から聴覚も奪う。
神父が何を目安としてこの脊椎の糸を取り出しているのかは分かりませんが、目視していない大量の羽虫をスキル対象に選択できるのか? できたとして、人間ではない対象を大量に盗聴して処理能力は足りるのか?
「これは……」
そして毒煙玉を転がし、その強烈な臭いで嗅覚も駄目にしてあげましょう。別に吸っても構いませんよ、死にますけど。
「おい、俺も巻き込んでんだが? ここまでして何するつもりだよ?」
「そんなの決まっているでしょう――」
ハンネスさんが口にした「チュートリアルおじさん」という言葉で思い出したんですよね。
「――暗殺です」
そういえばレベル1でも格上を殺せたなと。
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