第322話合流


「私は今ここに『バーレンス連合王国』へ宣戦を布告する!」


 王城から集まった民衆へとそう声を張り上げるのは、死霊魔術で私の支配下に置かれたダウワンさんです。

 その唐突な宣言に民衆は困惑し、そして不安を隠し切れない表情を見せてくれます。


「ログインしたら事態が急変していた件について」


「お前、俺らが居ない間に何をやらかした? どう相手を怒らせたら宣戦布告されるんだよ」


「レーナさん、これマジでどうしちゃうんですか?」


 ダウワンさんの背後で突っ立っていると、やっとログインして来たハンネスさん達が三者三様の言葉を投げ掛けて来ました。

 まぁ、彼らを待たずに先に色々と進めてしまったのは私なので文句は甘んじて受けましょう。


「あれは私の従魔です」


「は?」


「死霊魔術で支配しました」


「「「……」」」


 ハンネスさんは頭痛を堪えるようにこめかみを指で抑え、ユウさんは何処か遠くを眺め始め、そしてマリアさんはポカンと口を開けて間抜けな面を晒してしまっています。

 とりあえず簡単な説明では理解できなかったようなので、マリアさんの顔を片手で挟みつつもう少し詳しく話しましょうか。


「ぽひゅ!」


 頬を挟まれ、空気が抜けたような声を出したマリアさんにポカポカ叩かれながら分かりやすく説明していく。


「皆さんを待っている間とても暇でしたので、ダウワンさんの企みを盗み聞きしつつ、ちょっとばかり遊んで貰っていたのです。しかしながら最期には自分で自分を操って自決したものですから、私の暇潰しが無くなってさぁ大変。皆さんがログインするまでまだ時間が掛かりそうでしたので、それならともう少しだけ遊んでいようと思った次第です」


「お前にしちゃあ珍しく丁寧に説明してくれたところ悪いが、全然理解できねぇ」


「何処がですか?」


「なんでそれで宣戦布告になるんだ? お前の従魔だろ? 穏当に支配下に置く事だって出来るだろ?」


 あぁ、なるほど、そちらですか……てっきりいつもの様に人を傷付ける遊びをどうのこうの言われるものだとばかり思っていました。

 しかしながら、そうですね、確かにハンネスさんが疑問を持たれた様に、ダウワンを従魔にした時からこの国をそのまま支配下に置く事は簡単でした。

 ですが、まぁ――


「――それでは詰まらないじゃないですか?」


「……」


 隠密で国家元首の寝室に忍び込み、暗殺、そのまま死霊魔術で従魔にして国家乗っ取り……とても簡単でいて、スリルもなく、そこに至る過程になんのお遊びも無くて退屈ではありませんか。

 それに国家元首といっても、ただダウワンさん個人が連合王国に臣従すると言っても下が納得しないでしょう。

 先に相手に手を出させ、その上で返り討ちにしつつ、不平等条約を結ばせるのが基本です。まず最初に上から下まで分からせないといけません。

 そして何やら北部諸国は結託している様ですから、ギアナ盆地国が宣戦布告したと聞いたら慌てたように後を追従するしかなくなるでしょう。中央神殿に「ギアナ盆地国と違ってやる気がない」と思われては面倒でしょうし、一度戦端が開かれたのであれば一気に皆で攻めないと勝てる確率がそれだけ下がりますから。


「――と、そういう事です」


 ここまで丁寧に説明しつつ、こうしてやる事で私が達成しなくてはならない条件が増えるのだと、確かに一度に数カ国を相手にするのは大変ですが、それだけ密度ある楽しい時間を過ごせますし、成し遂げた時のリターンも大きくなるのだと力説すれば、ハンネスさんは疲れたように溜め息を吐きました。


「……まぁ、いいわ、今回は許してやる……俺やチビも狙われているみたいだしな」


「チビって言うな!」


「どぅどぅ、マリアどぅどぅ」


 そうですよ、今回は私だけでなく、ハンネスさんやマリアさんも狙われているんですよ。

 なので遅かれ早かれ、私の遊びなど関係なく二人は争いに巻き込まれていたと思います。

 むしろここいらで倒すべき敵を一掃できるかも知れないのですから、感謝して欲しいくらいですね。


「覚者だったか? そいつに備えれば良いんだな?」


「そうですね、私達に軍をぶつける事を躊躇した彼らの切り札ですから、警戒していた方が良さそうです」


「覚者って響きがもうヤバそう」


「わかる、オタクレーダーにビビットくる」


 確か、覚者とは真理を悟り、体得した者とかそんな感じの意味でしたっけ。

 どんな人物なのかは一切不明ですが、そこそこ楽しめそうではありますね。


「面倒だがしゃあねぇ……犯罪者らしいし、手加減は必要ねぇな」


「いちいちそんな事を考えて戦っているんですか?」


「当たり前だろ? NPCとはいえ、殺してしまったら復活しねぇんだから無力化に留まるのが基本だ」


 本当にそうなのかとユウさんやマリアさんへと視線を向ければ、困ったような笑みと共に首肯されてしまいます。

 なるほど、普通を知る私以外の皆がそう言うのであれば、それがこのゲームのプイレヤー間での常識なのでしょう。


「なるほど、覚えておきましょう」


「実践は?」


「場合によりけりで」


「……そうかい」


 生け捕りにした方が、見逃した方が楽しくなりそうでしたらそうしますが、そうでないなら殺すだけです。そっちの方が満たされるので。

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