第321話拷問目的の拷問
「ま、待ってくれ! どうか話を聞いて欲しい!」
インベントリから様々な薬品や器具を取り出していると、焦った様に私へと呼び掛ける男性の声がありました。
声の主を一瞥すれば、そこには鋼糸によって椅子へと縛り付けられたダウワンさんがこの状況を打破しようと忙しなく周囲を確認しながら私へと叫んでいるのが見えます。
元々秘密の会合をする為に人気が全くない、奥まった所にあるこの部屋ではありますが、そこに闇系統の魔術で人が興味を持てない結界を影山さんに張って貰いました。
途中の道も蟲達による監視や、糸による警戒網を敷いていますのでここはもうほぼ完全な密室となっています。
唯一の懸念点は人形に他人の意識を憑依させる技能ですが、そこはまぁ『看破』に引っかかった瞬間に即潰しているので問題はありません。
「……話したければお好きにどうぞ」
「は、はぁ?! ま、待て! 聞きたい事があるのだろう?!」
あー、なるほど……何故必死になって私へと語り掛けていたのかが分かりませんでしたが、この状況が情報目的の拷問準備とでも勘違いしてしまいましたか。
これは別に私がただ楽しいだけの『遊び』なのですけれど、まぁ確かに傍から見れば拷問準備に見えなくもないですね。
「質問もせずに拷問するやつが――ぎゃああああ???!!!?!」
「……まだ指一本ですけど」
ちょっとペンチで小指を切り落としただけなのにこの騒ぎよう……堪え性のない方ですね。
人形使いとしてはそこそこの力を持っているのかも知れませんが、もしや自分が戦いで傷付いた事がないのでしょうか。
「我々の事が聞きたいのだろう?! そうなのだろう?!」
「いえ、先ほどもう聞きました」
小指一本でここまで狼狽え、顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにする人間は一周回って新鮮ですね。
今まで選んだ方々が戦いを生業とする者だったり、為政者として覚悟が決まった方ばかりだったせいか大体片手分くらいは耐えてくれるんですよね。
「それ以上の! それ以上の秘密を語るから! 必要ではないのか?!」
「いえ、やる事は変わりませんので」
「だから――ぎゃああああ!!!!」
「よく鳴きますね」
それ以上の秘密と申されましても、結局のところ最終的に北部国家を全て支配下に置くという予定に変わりはありませんし、中央神殿に関しましてもゲーム初日から盛大に喧嘩を売った身の上です。
今さらあそこが敵だよ、などと言われても『ふーん』としか思いませんし、彼らがどの様な目的でどんな暗躍をしていようが『あ、そう』で終わる事案なんですよね。
……強いて言えば、天氷狼の口腔へ向かう際にハンネスさんを狙っていた勢力の正体が分かって良かったという事くらいでしょうか。
「ゆ、ゆるじてくれ……中央神殿とは手を切る……」
「赦す? 私が? なにを?」
「ひっ?!」
そんな理解できない化け物を見る様な目を向けられても見飽きていると言いますか、コチラとしてはもっと創意工夫をした視線を向けて貰いたいところですね。
……いえ、頑張って見た事ない表情を浮かべさせられるか試してみますか。コチラもいつもとは趣向を変えてみましょう。
「と、いうことで――はい」
「……え?」
スっ――と、耳の裏から顎のラインに沿ってナイフで切れ込みを入れる……そうする事で綺麗に顔の皮を剥ぐ事が出来ます。
そうして露出した筋肉を弄り、表情筋を手動で動かしていく。
「あぅっ、ふ! あぇ?! がぁ!!」
「へぇ、上手く喋れなくなるんですね……顔を弄られているのですから当然ですか」
別に皮を剥がなくとも、喋っている途中で頬を突かれたりするだけで『んにゅ』となってしまいますからね。私も母からやられた経験があります。
「ふむ、ここを引っ張ると――」
「イッ?!」
「パズルみたいで面白くなって来ましたね」
細かく弄りつつ、最終的にハンネスさんみたいな仏頂面にしたところで筋肉を硬化させる薬を振りかけて皮を戻していきます。
面白い事に回復魔術を掛けながら行いますと、一度離れたにも関わらずきちんと顔の筋に沿って皮膚も動くのが驚きですね。
「しなしながら……あまりその表情は似合いませんね」
どうやらダウワンさんにハンネスさんの様な表情をさせる事は難しい様です。
それに顔の表情筋をいくら弄ったところで向けられる目の種類は変わらないのですから、意味は無かった様ですね。
いえ、多少は面白かったですけど……手慰みに切り取った腕の断面図から筋を引っ張って、元の持ち主の目の前で手をグーパーさせてみますが変化はありません。
「貴方の左手が動いてますけど、何か感想でもあります?」
「も、もぅてきは……なん、……だ……?」
ふむ、どうやら表情筋が固まってて上手く喋れない様ですね。当然ではありますが。
「この行為の目的が聞きたいのですか?」
「あ、ぁ」
「特にありませんよ、私が面白いからしてるだけです」
「――」
そんな絶望的な目をして、彼はいったい何を期待していたのでしょうね。
「知りたい情報があれば貴方の死体から聞けば良いですし」
どうやら元々重要NPCの一人だったセカンディア工業都市の領主を死霊魔術で支配し続けている影響なのか、スキル経験値がよく入って来るんですよね。
なので今なら生前の記憶や人格もそこそこ再現されたアンデッドが作成できる筈です。
「なのでまぁ……どうしても語りたいのでしたら死んでからどうぞ」
「ぁ、やく……、して……くれ」
大粒の涙を流し、掠れた声で終わる事を懇願するダウワンさんに首を傾げつつ軽く返答をしておきます。
「――ハンネスさんがログインして来るまでまだ時間があるんですよね」
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