第316話馬車の中
「で? これから何処に行くんだよ?」
倒れたエレンさんの側近が手配してくれた馬車の中で窓の外の流れて行く景色を眺めていると、じっとしている事に飽きたのかハンネスさんが尋ねて来ました。
そういえば他国に拠点を構えるとは説明しましたが、まず何処に行くのかまでは言ってませんでしたね。
「まずメッフィー領へと赴き、グレゴリウスとギランという人に会いに行きます。彼らに商会の設立などを支援して貰うのが目的ですね」
「ほーん」
バーレンス連合王国で工業化を推し進めるに辺り、既に銃火器などの兵器の製造までしていたセカンディア市はとても参考になりました。
そこを中心として、そこから技師を呼んで他の地方にもとなるのは自然の事で今回は彼らを幾人か連れて行きます。
あそこはこれから進出する北部地域にも近く、首都である始まりの街に次いでかなりの数の工場や商会があります。
そこら一帯を治めるグレゴリウスさんやギランさんに協力を求めるのは当然の事でしょう。
「あぁ、ちなみに今回の遊戯ではハンネスさんは自然体にして居れば良いのでカルマ値の下降などは気にしなくても構いませんよ」
「……お前の邪魔になってもか?」
「えぇ、むしろ今まで通りでお願いします」
今回はハンネスさんに目立って貰いたいですからね……最前線へと赴く際に、なぜ私だけでなくNPC達から聖騎士とまで呼ばれる彼まで襲撃されたのかが気になります。
これから進出しようという土地に、そういうよく分からない勢力が蔓延っていると考えると色々と不都合なんですよね。
なので彼には『聖騎士ハンネスがここに居る』と大々的に宣伝して貰いまして、それらを隠れ蓑に暗躍をしたいので下手に私の協力をして『本当に聖騎士な?』という疑問を持たれてしまう事態は避けたいのです。
「なぁに企んでやがんだこの野郎は」
「女の子に向かって野郎とかさいてー」
隣りに座っていたマリアさんがハンネスさんを代わり怒ってくれますが、確かに私は野郎ではありませんね。
最近はもう彼の口の悪さには慣れていますので全く気にしませんが。
「うるせぇチビ」
「レーナさん聞きました? この人また私の事をチビって――」
「マリアさんは小さくても可愛いので少し静かにしましょうね」
また喧嘩が始まりそうな予感がしましたので、そのまま隣りに座っていたマリアさんを膝の上に乗せて口に指を突っ込みます。
「ふぇあ?!」
左腕で抱き込むように彼女を両腕ごと拘束し、右手の人差し指と中指で挟み込む様に舌を引っ張り出す。
あぁ、ここで殺したり害する事は出来ませんが彼女はやはり手慰みの玩具としては丁度いいですね。
非力ながらモゾモゾと私の拘束を脱しようと足掻くところや、自らの口内に指を突っ込まれ舌を引っ張り出される事の羞恥を分かりやすく顔に出すなどが面白いです。
「……なぁ、俺たちは今いったい何を見せられているんだ?」
「これはね、百合って言うのさ」
「……よく分からんが、何かを見てはいけないものを見てる気分になるな」
「その感情の事を人々は〝尊い〟と言うのさ」
「お前キメェな」
「自覚はある」
ハンネスさんとユウさんの会話を聞きながら疑問に思いますが、百合が尊いとはいったいどういう意味なのでしょうか?
この場に百合の花などありませんので、言葉通りの意味ではなく比喩的な何かだと思うのですが。
「それはそうと離してやれよ、俺も大人気なかったからよ」
「嫌です。暫くこのまま遊びます」
「
だって暇なんですもの……スタミナや速度にバラつきのある複数人で長距離を移動するとなると馬車などの乗り物を使うのがベターだという事は理解しましたが、そのせいで道中が暇で暇で仕方がないんですよ。
だったらもう、ハンネスさんと軽い言い合いをするくらいなら私の玩具になってくれても良いと思うのです。
マリアさんだって常日頃から私の事を好きだという旨の事を言いながら抱き着いて来るのですから、私だってこういった事をしても良いのではないでしょうか?
「――そうは思いませんか?」
「知るかよ、俺らが目のやり場に困るんだよ」
「僕は一向に構わない」
「うーわ」
「
ユウさんはなぜ涙を流しながら私達に手を合わせて拝んでいるのでしょうか?
いったい彼に何があったのか分かりませんが、まぁ構わないと言うのであれば気にしないでおきましょうか。
「早く着きませんかね……そしたらマリアさんも解放してあげますのに」
「
「……まぁ、なんだ、その……ドンマイだな」
「
にしても本当にマリアさんは小柄なので収まりが良いですね。
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