第313話一条玲奈の日常その16
「――玲奈さ〜ん!!」
講堂に張り出された新しいクラスの案内を眺め、自分が今年度から何処のクラスへと配属されているのかを確認していると聞き慣れた声と共に見覚えのある顔が勢いよく突っ込んで来ます。
後ろで焦った様な結城さんの顔を見て、何となくぶつかる直前で横へと避けてみれば見事にすぐ隣りに居た正樹さんへと突撃しました。
「ふぐっ?!」
「あ?」
流石と言うべきか、体格差があり過ぎて突撃された方の正樹さんはビクともしていませんね。
反対に突撃した側である舞さんは顔を抑えて蹲ってしまっています。
「舞?! だから危ないって言ったじゃん!」
「お、おのれ須郷……!!」
「完全に逆恨みじゃねぇかよ、このチビ」
「誰がチビですってぇ?!」
あれですね、傍から見る分には完全に大型犬に威嚇する小型犬みたいな感じですね。
舞さんを宥める結城さんが完全に小型犬の飼い主です。
「聞きました玲奈さん!? この男よりにもよって私にチビって言いましたよ!?」
「私は小さい舞さんは好きですよ」
丁度いい位置に頭や首があって、私がその気になれば簡単に絞め殺せそうなところが良いですね。
私がそんな事を考えているとは気付かずに周囲をうろちょろとする所も、まぁ可愛らしいと思います。
「……ぅ、はぃ」
「大人しくなりやがった……」
先程までの怒りの感情は何処へやら、唐突に静かになった舞さんが俯きながら私の制服の裾を掴み始めました。
彼女の突然の変化に首を傾げつつも、私の名前を呼びながら駆け寄って来たという事は何か用事があったのではないかと質問してみます。
「何か用事があったのではないのですか?」
「……あっ、そうですよ! 玲奈さんはもう自分のクラス見ました?」
「まだ自分の名前は発見できてないですね」
自分の名前を探していたところで舞さんが突撃して来ましたので、まだ見付けられてはいないです。
しかしながら、それがどうしたと言うのでしょうか?
「二年生もまた私と同じクラスですよ! やりましたね!」
そう興奮気味に捲し立てる舞さんが指差す方へと視線を向けると、確かに『弐の藤』に私の名前がありました。
他に見知った名前は無いかと視線を滑らせれば舞さんの他に結城さんと、そして――
「――同じクラスですね?」
首を傾げ、高い位置にある正樹さんの顔を見上げてそう言えば、何故か彼は私から顔を逸らしてしまいました。
「……おう」
まぁ、返事はしてくれましたので良しとしましょう。
「おんやぁ〜? もしや須郷くん照れちゃってますぅ〜? まぁね、玲奈さん可愛いから仕方ないよね〜?」
「こ、コイツっ……!!」
私の背後からちょこっと顔を出した舞さんが口元に手を当て、小馬鹿にする様な表情で正樹さんを煽っています。
もしかしてこの二人は仲が悪いのかと、すぐ側で舞さんを優しい眼差しで見守っていた結城さんに尋ねてみれば――
「いや、その……何回も舞に気付けなかった須郷さんとぶつかるんだよ」
という、至極シンプルな答えが返って来ました。
「なるほど、身長差がありますものね」
「はい、そうなんです……特に舞は低身長なのがコンプレックスなのと、ぶつかった時は必ず体格差で尻もちを着いちゃうので喧嘩しちゃって」
他の方々よりも頭一つ分は大きいので遠目から人混みの中を探す分には助かるのですが、逆に正樹さんの方から誰かを見付けたりといった事は苦手そうですね。
特に舞さんの様に身長が低い方なら尚さらその他大勢の方に呑まれて気付けなさそうです。
「だァあ! うるせぇなこのチビは! おい玲奈! テメェの友人だろうが何とかしろ!」
「またチビって言った――ん?」
おっと、結城さんと話していると当の正樹さんから救援を請われてしまいましたね。
「何とかしろと言われましても……」
「……玲奈?」
「はい、なんでしょう舞さん」
さて、どうしたものかと考え込む前に、舞さんから呟く様に名前を呼ばれたので返事をしますが……反応が鈍いですね。
「玲奈さん、今コイツ玲奈さんの事を玲奈と呼びましたよ」
「はい、私の名前なので」
あぁ、もしかして今まで一条呼びだった正樹さんが私の事を玲奈と呼んだのが引っかかったのですかね?
「ふーん、へぇ〜、ほぉ〜……なるほどね?」
「……んだよ」
「いやべっつに〜?」
私の腰に抱き着き、顔だけを正樹さんへと向けながら舞さんは何やら含みのある顔で笑っています。
「ま、その調子で頑張ってくれたまえよ! 君だけが頼りだからさ!」
「……るせぇ」
それっきり二人のやり取りは終わってしまいます。
未だに舞さんはニヤニヤとしていますし、正樹さんみやりづらそうに顔を逸らしていますがそれだけです。
「……もうよろしいのですか?」
「よろしいのです! さぁさぁ玲奈さん、こんな口の悪い男子は放っておいて新しいクラスへと行きましょう!」
うーん、よく分かりませんが解決したのでしたらそれで良いです。
そのまま舞さんに背中を押されるがままに、その場から離れて新しいクラスへと向かい――
「――おい、玲奈」
後ろから掛けられたその声に振り返る。
「……今度、遊びに行こう」
いつもの様に口をへの字に曲げ、気恥しそうに目を泳がせながらそんな事を言う正樹さんに思わず笑みが漏れる。
「えぇ、いいです――」
「調子乗んなやハゲッ!!」
――よ、と言おうとしたところで何やら舞さんが正樹さんに向けて暴言を吐きました。
「えぇ、おい大地の聖騎士さんよォ……君ってばオリジンダンジョンなる物を連れ込み宿にしたんだってぇ?」
「……」
「そんな所で玲奈さんと二人っきりで……何それ羨ましい――じゃなくてハレンチな!」
目元を覆う結城さんをチラッと見つつ、確かにあの時の私は正樹さんに連れ込まれたとも言えなくもない状況だったかも知れないと考えてみます。
「まだ私はそこまで認めてませんからね! あと今度は私が玲奈さんと遊ぶ番です! 独り占め、ダメ、ゼッタイ!」
「舞さんも一緒に遊びたいのですか?」
「えぇ、勿論です玲奈さん!」
あぁ、なるほど、舞さんは私と一緒に遊びたかったんですね。
でしたら仕方がありません……正樹さんには悪いですが、彼女と、ついでに結城さんも一緒に楽しみましょう。
「では結城さんも一緒に」
「え? あ、あぁ、はい……ありがとうございます」
「チッ!」
「露骨に舌打ちするのやめろよ」
「……ま、ユウならいっか」
さて、そうと決まれば今日の放課後が楽しみですね。
今度は四人で遊ぶ事になりそうですが、何気にこのメンバーで行動するのは初体験でしょうか?
「そういう訳だから諦めるんだな大地の聖騎士さんよぉ! 二度も玲奈さんと二人っきりになれるなどと思うんじゃないぞ! ガハハ!」
「うっーわ……」
腰に手を当てて胸を逸らし、正樹さんに向けて高笑いをする舞さんと、そんな彼女を見てドン引きする結城さん……そして――
「このチビ、ぜってぇ泣かすッ――!!」
鬼の形相で額に青筋を浮かべる正樹さんという構図。
「……ふふっ」
「? どうしました?」
思わず漏れた笑いに反応する結城さんに何でもないと伝えつつ、やけにテンションの高い舞さんに新クラスへと連れて行かれながら思うのです――
「……」
――お母様、これが私が自分一人で作った友人ですよ、と……
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