第299話天氷狼の口腔その8
「――《
それぞれが目標に到達するまで一秒未満の神速で放たれる、文字通り一撃必殺の抜刀術が二連撃……それらを捉える動体視力があったとしても現実の身体では為す術なく斬られてしまうでしょうが、生憎とここはステータスが支配するゲーム世界です。
「――《気炎万丈》」
現状、山田さんが扱える火炎系統の肉体強化スキルで最上級の物を発動する。
降り注ぐ武器の雨と、それらに括り付けられた糸に阻まれて僅か数ミリ起動がズレた連撃を底上げされた身体能力で掻い潜り、温度差によって結露が生じた短剣を空中で掴んでは《ミスリード》を発動しながら投擲します。
「――《
私が投擲した短剣が真っ直ぐに冬将軍の目の前を通り過ぎ、僅かながら《ミスリード》によって彼の視線を吸い寄せながら未だ降り注ぐ武器の一つへとかち合う。
「――《スピーカー》」
それを契機として武器同士がぶつかり合い、また壁や床などに当たっては跳ね回り始め、この場は刃物が縦横無尽に乱舞する危険地帯へと様変わりします。
その際に生じる金属音をスキルにて轟音へと昇華し、冬将軍の聴覚を攻撃する事で神速の四連撃を空振りさせる。
「――《隠密》」
後ろ手に糸を手繰り寄せて死角から糸を括り付けた武器を襲わせつつ、《ミスリード》を掛けた短剣を追い回して眼球がグルグルと回って私を捉えられない冬将軍を尻目に気配を断ち、《致命の一撃》を乗せた《溶断》を冬将軍の首へと――
「《
大きな反応を示す『危険感知』に従い、咄嗟に上体を逸らしながら後ろへと跳躍する――
「――
目にも留まらぬ神速の斬撃が同時に八本、ですか……冗談みたいですね。
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「――しゃらくせぇ!!」
黄金の鎖を纏わせ、ハルバードと化した戦斧で冬の眷属を纏めて薙ぎ払う――明らかにこれまで遭遇したそれとは強さが段違いだ。
特にコイツらは倒されると冷気に変化し、周辺に居る奴らの温度を奪っていくのがダリィ。
お陰で一条の従魔……井上、だったか? 金属鎧の動きが目に見えて悪くなってやがる。
そのサポートに影とマントの従魔も下の方へと行ってしまった為、散発的な蟲からの援護以外はほぼ一人で対処している。
「……チッ、なんか知らんが嫌われてるしよ」
いやまぁ、一条とは何度もぶつかり合ったからな……その従魔に嫌われるのは仕方ねぇかも知れねぇが、あそこまで露骨に態度に出すかよ。
コッチの指示や合図はガン無視、危ないところを助けても迷惑そうな雰囲気を出され、こっちがちょっと危ない場面が出ると歓喜する。
いっそ清々しいくらいに敵意を隠しやがらねぇ……鎧が冷気で鈍くなった時なんか、これ幸いと俺から凄い勢いで離れていったしよ。
「けっ! 別にいいし! 畜生に嫌われたくらいどうだっていいし!」
ちょっと足を滑らせただけで鼻で嗤う様なジェスチャーをされた事だって別に……いや普通にムカつくな。なんだあれ。殺すぞ。
「だあぁ! もう! クッソ死ねやぁ!」
八つ当たり気味に冬の眷属を巻き込みながらドアを破壊し、さらにその向こうから迫る畜生共を鏖殺する。
歩く傍から割れていく薄氷の足場の代わりに橋を架ける様に、黄金の鎖を空中に張り巡らせていく。
その間にも開かれたハズレの扉からは絶えず冬の眷属が躍り出る。
「チッ……来いよ、もう面倒だからよ――」
一向に見付からない当たり、しつこく纏わりつく雑魚敵、態度の悪い一条のペット共……それらの要因が重なり、イライラが頂点に達した俺は暴挙に出る。
「残りのドアと纏めて――」
無数の扉に囲まれた空間のド真ん中……本来ならばそのまま冬将軍とやらの下まで真っ直ぐに落ちてしまう座標で、張り巡らせた鎖の上で青筋を立てながら腰だめに戦斧を構える。
「テメェら全員――」
おうおう、群れるしか能がねぇ畜生共がたくさんお出ましじゃねぇのぉ……仕方ねぇからよ、今、ここで、一気に――
「――消し飛ばしてやるよォ!!」
構えていた戦斧を振り抜くと同時に、俺の頭より上の空間全てを埋め尽くさんばかりの眷属共が一斉に
破壊不能オブジェクトであろう天井にぶつかり、それ以上進めなくなったとしても次から次へと同族が押し寄せては一番上に居た奴から圧殺されていく。
「オマケだ――《
大地魔術によって生み出した複数の巨岩を力の奔流に合わせて飛ばす事で、残りのドアを巻き込んで破壊し、そこから這い出てはまた上に落ちていく新たな眷属共を天井と挟んで圧殺していく。
「……-10℃くらいにはなったか?」
五分も経たず、そのまま大量のハズレのドアを破壊しながら無限湧きする冬の眷属を大量虐殺したからな……ちょっと短時間の内に気温が変わり過ぎて風邪を引きそうだ。
「当たりは下の方か、面倒だな……」
まぁ、いい……先に仕事を終わらせてやったとペット共にドヤ顔してやるか。
「……いや、待てよ」
天井に張り付く巨岩を見て、俺はある事を実行に移す――
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