第298話天氷狼の口腔その7
「――馬鹿が!」
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BOSSエネミー
種族:冬将軍 Lv.255
状態:喜悦 怒り 弱毒
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空中を落ちている状態の私を格好の獲物だとでも思ったのか、冬将軍と思わしき甲冑武者が腰から刀を引き抜く動作をする。
恐らく抜刀術にて最速で攻撃してくると当たりを付け、コチラも対応するとしましょう。
「――《
「――《
最初に自身の偽物を用意して攻撃を躱す《分身》などのスキルではなく、多少の最大HPと引き換えに攻撃を受けてからでも自身の抜け殻と交代する事が出来る《空蝉》で正解だった様です。
なんせ冬将軍から放たれた攻撃が速すぎて分身を用意する暇も、ましてや糸で移動して避ける暇も全くありませんでした。
正確に測った訳ではありませんが、冬将軍の抜刀術は
「……現実に即したVRで初見殺しをしてくれるじゃないですか」
「初見で凌いでおいてよく言う」
そして、いつの間にか納刀していると……またいつあの神速の抜刀術が放たれるのか分かったものではありませんね。
「私の零閃を躱し、生き延びた者は貴様が初めてだ」
「そうですか」
文字通り一瞬たりとて目を離す事は出来そうにありませんね……瞬きをした瞬間に斬り捨てられてしまうでしょう。
「いつも初撃で終わってしまうのでな、少し驚いたぞ」
「よく喋る方ですね」
「ふっ、なに……これまで研鑽して来た技を実戦で試せると思うと嬉しいのさ」
「まぁ、あまり人の来なさそうな場所で大将やってればそうでしょうね」
言外に、井の中の蛙、お山の大将……つまり、狭い世界観で偉そうに自らを得意げに語るアホだと挑発してあげます。
「ククク、そうか、吾輩は世界を知らんと申すか……では、外界から来た貴様を斬り捨て、吾輩が世界にも通用すると証明しよう」
姿勢を低く、獲物を前に構えるネコ科の様に……何時でも飛び出せる様に膝を曲げ、つま先と左手のみで自重を支える。
腰の短刀に添えられた右手と、真っ直ぐに下へと伸ばした左腕によって右斜めに傾く様に倒された上半身……同じ高さまで来た左肩から逸らす様に傾げられた顔で、敵を下から睨め上げる。
「まるで肉食獣よな」
添えられた右手の爪で短刀の塚を弾き、小さく硬質な音を響かせる事で誘惑する――
「《
誘惑に負けた敵が武技を発動する前に、その気勢を削ぐ為に抜き放った短刀をそのままの勢いで眉間を目掛けて投げる――
「――
全くの同時に放たれる四つの剣閃による檻――線によって空間を支配するそれらを凌ぐ為に左手に握っていた煙玉を握り潰し、一気に噴出する毒ガスに紛れながら、山田さんが弾いてくれたお陰で生じた包囲の穴へと左手とつま先のみで跳躍する事で逃れる。
「……」
……本当は、最初の一撃を凌いですぐさま反撃するつもりで山田さんを投げたのですが、まさか同時に四回の斬撃を放てるとは思いませんでしたね。
お陰で反撃する為の起点として放ったそれを、ただ攻撃を躱す為だけに使ってしまいました。
同時に放てるのが四発だけとも限りませんし、冬将軍さんの推定戦闘能力をさらに上方修正しないといけませんね。
「クックック……フハハハハ、ハーっハッハッハ!!」
目くらましとして放った毒ガスも、残りの三撃で簡単に散らされてしまいましたね……ですが、嬉しそうに笑う冬将軍を看破するに、ちゃんと毒は効いている様です。
「今のも凌ぐかッ!!」
「嬉しそうですね」
「イイ、イイゾ! ちゃんと戦っている感じがする!」
「そうですか」
「認めよう、格下のお前相手にこうまで手こずっているのだ……吾輩は真に世間知らずであった」
「はい」
「吾輩の愛刀――『
「冷凍みかん」
何とも可愛らしく、センスの良い名前でしょうか……思わず欲しくなってしまいました。
「……っ」
にしても――
「――寒そうだな?」
「……えぇ、少しばかり」
吐く息も白く、耳や指先などの身体の末端の感覚が曖昧です。
上空からは絶えず戦闘音が聞こえてくる辺り向こうも頑張っているのでしょうが、今のところ気温が下がるスピードの方が早い様ですね。
「仕方あるまい……言っておらんかったが、この冷刀魅神は振るわれる度に周囲の温度を奪う」
「……なるほど」
これは武器の性質であって、ゲームの達成条件には関係ないから記載しなかったよと言わんばかりですね……まぁ、最初から説明されていたとしてもどうしようもありませんが。
冬将軍さんを放置して妨害に来られても、その妨害を止める為に足止めをするにしても……どの道あの武器は振るわれるのですから。
それらを全て回避する方法と言えば、冬将軍さんからの攻撃を最小限に抑えつつ最速の撃破となります。
「……ふふっ」
「……どうした?」
あぁ、本当に……『抜け道は用意してるよ! 達成できるかどうかは知らないけど!』なんて得意気に言って、目だけは全く笑っていない主任の顔が思い浮かぶ様です。
四六時中ふざけている様に見えて、時折私達プレイヤーを実験動物か何かとしか見ていない様な目で見る彼の事ですから、どうせ今も私を覗き見でもしているんでしょうかね。
「いいえ、何も――」
鞄をひっくり返す様に、ストレージから今まで略奪してきた武器という武器をこの場にばら撒いて、毒を撒く――
「ただ、私も楽しくなってきたので――」
降り注ぐ刃の雨と、充満する毒の濃霧の中で宣言を一つ――
「――その首、貰いますね?」
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