第287話最前線到達RTAその5


『――ィィイイイイ!!!!!!』


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BOSSエネミー

種族:コマッタトキダケ Lv.125

状態:激怒


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 森の中をハンネスさんと並走していると、急に木々が晴れましたね……その先に居たのは何ともふざけた名前のエリアボスです。

 なんでしょうか、神頼みでもするのでしょうか……ちょっとこのネーミングセンスは私でもよく分かりませんが、ハンネスさんが何も言わないところを見るに普通なのでしょうか?


「ったく、何回見てもふざけた名前だな」


 違ったようです。どうやらハンネスさんから見てもふざけた名前だったようです。

 とりあえずもう射程に入っていますので、ボスらしい前振り的な挙動を無視して爆撃してみますか。


「――せいっ!」


 念話で自分の息子や娘達を無惨に殺したお前らを許さない……という様な事を伝えてくるコマッタトキダケさんの話を遮る様に火薬玉を投擲し、目と思われる穴に向けてポン子さんで狙撃します。

 爆撃による煙が晴れる前にコマッタトキダケさんの周囲を、円を描くように周りながら次々に爆薬を投げ付けていきます。


「お前本当に容赦ねぇのな」


「隙がある方が悪いんですよ」


 爆煙が晴れ、戦闘フィールドのそこら中にキノコが生えてくると同時に追っ手の方々も追い付いて来ましたね。

 それと同時にコマッタトキダケさんのHPが増えた様に見えましたので、おそらくボス戦に参加する人数によって強化されるのでしょう。


「時間が経つにつれフィールドの湿度とキノコが増え、キノコが増えると耐性を突破して各種状態異常が起こる」


「ほう、それは厄介そうですね……彼らを囮にしつつ乾燥させますか」


 コマッタトキダケさんが怒り、頭から蒸気が噴出する度にこの場の湿度が上昇していき、それに併せてキノコもドンドン生えて来ますからね。

 まさか頭から蒸気が出るというのが怒りを表現したものではなく、物理的にフィールドに影響を与えるとは思いませんでしたが。

 なのでここは追っ手の方々を囮に、私達はこの場の湿度を下げつつ本体を叩くのが最善手ではないでしょうか。


「……話が早くて助かるが、なんで今の説明だけで分かるんだよ」


「ダメでしたか?」


 驚いたような、呆れたような……そんな微妙な顔をするハンネスさんに何処かダメな部分があったのかと問い返してみます――


「――いいや、ダメじゃない」


 何が可笑しいのか、腹の底から漏れた笑いを抑えるようにニヤけた後ある方向を指差していき、その後すぐに挑戦的に、私を見下す様に笑いかけてきます……まるで『これだけで分かるだろう?』と言わんばかりのその態度に、コチラも自然と口角が上がるのが自覚できました。

 えぇ、えぇ、良いでしょう……そこまで呆れられ、ならこれもできるだろうと挑発されては受けない訳には参りません。


「私を煽ったこと、後悔しないで下さいね――影山さん」


 下から噴出する様に溢れ出た影が私を包み込み、複数の腕が背後から抱き込むかの様に形を為す。

 私の呼吸を遮る様にそっと添えられる黒い手が、このフィールドに充満していく胞子を防いでくれる間に仕掛けましょう。


「うるせぇよ――《地殻聖鎧ちかくせいがい》」


 ほほう、ハンネスさんも胞子を物理的に防ぐ手段を持っていた様ですね……まるで大地が盛り上がって出来た様な全身鎧を纏うとは思いませんでした。

 まるで木々を背負った、苔むしたゴーレムの様な見た目ですね。


「オラァ!」


 お互いの準備が整うと同時に、武器の射程を長くしながら馬の駆ける速度を上げて突撃します。

 私は影を纏わせた大太刀を、ハンネスさんは黄金の鎖を絡めた戦斧をハルバードにしながらそれらを振るう。


「やはり植物系には虫、ですよね――花子さん、武雄さん」


 ハンネスさんと一緒になって本体のコマッタトキダケさんの、キノコとしての柄から枝分かれした傘の部分を切り落として水蒸気の発生源を減らしながら花子さん達をけしかけます。

 私の思惑通りに眷属達を率いて、フィールド中に生えた小キノコ達に《食害》スキルによる攻撃を加えてくれています。

 このまま花子さん達に胞子を飛ばすキノコが増えるスピードを抑えて貰いつつ、私とハンネスさんで本体の剪定を行いましょう。


 時折追っ手の方々と《影転移》による位置の入れ替えを行う事でコマッタトキダケさんからの攻撃を防ぐ盾としつつ、無理やりこの場の戦闘に引きずり込んでいきます。

 彼らが咄嗟の防衛行動に出たりするなどして、少しでもコマッタトキダケさんを傷付ければヘイトは分散するでしょう。

 ついでに胞子に紛れて興奮薬や狂気薬でもばら撒いて積極的にさせましょうか。


「おいコラ、興奮と狂気をレジストしましたって出たぞ」


「ふふっ」


「ふふっ、じゃねぇ! こっち見ろ!」


「良いじゃないですか、ちょっとした遊び心ですよ」


 にしても一応暗殺稼業な追っ手の方々が割と簡単に薬の影響を受けているのが気になりますね……私という存在を知っていて殺そうとしているのであれば、毒薬などをよく使うという情報は得ているはずです。

 ……いや、そうですか、だからですか……毒薬ばかりが目立って身体ではなく、精神に作用する薬物も使うという事が知られていなかった可能性がありますね。

 対人戦ではもっぱら毒薬や麻痺薬を使っていましたし……帝国に向けてモンスタートレインした時とか、人間以外の相手にはよく使うのですが。


「にしても皆さんはっちゃけてますね」


「はっちゃけてるのはおめぇの頭だよ」


「わぁ、あの人裸踊りしてますよ」


「見ちゃいけません!」


 突然衣服を脱ぎ出して踊り狂う男性の存在を教えてあげると、途端に慌てたハンネスさんに視界を塞がれる様に位置を交換させられました。

 そうですか、ハンネスさんの口調がおかしくなるくらいにダメな景色でしたか。


「お前さぁ……フィルターとか、何も設定してねぇんだろ?」


「そうですね、最初の頃にセクハラ防止機能だけ付けてましたが、それもNPC達との戦闘で微妙に挙動がおかしくなるので外したくらいですね」


 戦っていて『あれ?』って思う場面が幾つかあり、よくよく観察と考察をしてみると特定の部位への攻撃や掴みなどで一瞬狙いがズレたりする事が分かったのですよね。

 ですので、コチラの一方的な都合で彼らが本気を出せなかったりするのは私としても不満でしたので外しました。


「じゃあ丸見えじゃねぇかよ!」


「内臓まで丸見えですよ」


「見えすぎなんだよ!」


 打てば響く様な、私の発言にいちいちツッコミを入れてくるハンネスさんが可笑しくて思わずクスクスと笑ってしまいます。


「……んだよ」


「ハンネスさんは真面目に返してくれるので新鮮なだけですよ」


 ――これが有象無象なら私の顔色を窺うだけでしょう。

 ――これが屋敷の使用人なら黙って頭を下げるでしょう。

 ――これがあの男だったら私を無視して一方的に自分の要件を伝えるだけでしょう。

 ――これがユウさんやマリアさんなら困惑しながらもそういうものかと受け入れるでしょう。


 ……ですが、母とハンネスさんだけは私の言動の一つ一つに真面目に、対等な目線で応じてくれます。

 それが何だか、私自らが普通の子どもに成れた様に感じて嬉しく思う時がある……かも知れません。


 ……まぁ、ただ、それだけです。


「さぁ、些細な事は気にせず、そろそろコマッタトキダケさんを干からびさせますよ」


「けっ!」


 口をへの字にしながら自分の仕事をするべく行動に移すハンネスさんの背中を見ながら、少しだけ悪戯を思い付きます。


「……ふふっ」


 いや、別に大した事はしませんが……乾燥した森って、よく燃えそうですよね?


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