第286話最前線到達RTAその4
「――っラァ!!」
馬を反転させ、前方に向けて戦斧を横薙ぎに振るう事で大地を木の根ごと捲り上げて向かい合う形となった追っ手共を吹き飛ばす。
馬が移動できる空間が限られているこの森の中というフィールドと、俺の大地魔術は相性がいい。
数少ない敵の足場を武器にする事ができ、尚且つ俺自身は木々を大地ごと移動させる事で自由に走れる。
……便利だからと、躊躇なく森林破壊をする時点で大分アイツに毒されてるな。
「……ちっ」
舌打ちをしてから口をへの字に曲げる……違うと、断じて俺は一条に影響なんかされてねぇと心の中で自分に言い訳を吐く。
俺の心の内など、誰が聞いている訳でもないのに勝手に変な弁明をするのはクソ兄貴のせいだ。
『え? 最近ある人物に言動が影響されてきたって? ……正樹、それはな? お前がそいつの事を憎からず思ってるって事だ』
『はぁ?』
『人が影響を受けるのなんて、身近な人間と、自分が好意を寄せる人間の二種類しか居ねぇよ』
『……』
『口をへの字に曲げるって事は自分でも心当たりあるんだろ? 今度兄ちゃんに紹介してくれ』
『うるせぇ! お前は早く大学に行きやがれ!』
『いいか、正樹? 大学生ってのは遊ぶのが仕事なんだ』
『……』
どうでもいい事まで思い出して口をへの字に曲げ……ようとしてため息を吐く。
「……クソが」
もういい、気にしたってしょうがねぇ……俺は俺が思う効率的で楽しいと思うやり方でゲームをプレイするだけだ。
どうせこういうエリアボスが居るようなフィールドは時間が経てば元の地形に戻るんだから、変に気にしたって意味なんかない。
それよりか、こういうゲームらしい遊び方に不慣れなアイツがきちんと仕事をこなせているのかが問題だ。
「……まさかとは思うが、ヘマはしてねぇだろうな?」
いや、アイツに限ってそれはないか……むしろ順調に行き過ぎてこっちをナチュラルに煽ってきそうだ。
そう考えたら途端にムカムカしてきたな……こっちが先導してる立場なのに、アイツに負けてたまるものか。
ここいらで攻略組の意地というものを見せ付けてやる。
「――つーわけでよ、お前らにもボス戦に付き合って貰うぜ?」
聞こえてるのかどうか分からない黒ずくめの連中が投擲した斧を軽く腕で弾き、お返しとばかりに魔術で作った鉱石の斧を後ろ向きに投擲する。
『鷹の目』という、自分を中心として俯瞰的な視界を別に作り出せるスキルがあるからこそできる芸当だ。
その『鷹の目』で確認する限り、足場が悪い上にいつ地形が変わるか分からない状態と言っても一条の野郎みてぇに鋭い投擲じゃないからか、連中は対応する動きを見せる。
「――《ブラスト》」
森の木々が邪魔するだけじゃない、俺の大地魔術を警戒せざるを得ない奴ら必然的に最小限の動きで躱そうとするのは分かっていた。
だから敵に悟られない様に正面を向き、『鷹の目』使って目視で確認しながら仕込んでいた魔術を発動してやった。
内側から極小規模の噴火とも言うべき爆発が起こった斧は、その場でクソ硬い鉱石の破片と一緒にマグマを周囲に飛散させる。
案の定、連中はそれをモロに至近距離でくらい、次々と落馬していく……バフを重ねがけしたステータスで自分は耐えられたとしても馬はその限りじゃない。
負傷し、死亡した馬から取り落とされ奴から大地に大きな落とし穴を作って生き埋めにしてやる。
生き残りの連中が突然の爆音と血の匂いに興奮する馬を宥めている隙に《岩砲弾》で最後のキノコを破壊する……これでコッチは終わりだな。
「丁度いい人数になったな」
改めて未だに俺の命に執着する奴らを確認してみると、これから向かうボス戦の捨て駒としては問題なく、また邪魔されても対処できる程度の人数に収まった。
にしても仲間を分断され、既にかなりの被害が出てるはずなのに退かないって事はただ馬鹿なだけじゃなくて、裏に相当大きな組織があると見るべきか。
ゲーム内の裏組織については混沌陣営に属していて、自身もギャングと深い関係にある一条の方が詳しいだろう。
「――そっちは終わったか」
「――問題なく」
そんな今はどうでもいい事を考える余裕すらある道中で一条の奴と合流する。
なにが問題なく、だ……綺麗な澄ました顔しやがって。
「ふん、ここのボスは植物系だから弱点はあれども急所はない……気を付けろよ」
「そうですか、人間相手と同じ様にはいかなそうですね」
けっ、表情ひとつ変えやがらねぇ……本当に、コイツは今を楽しんでのか?
俺はちゃんとコイツに逃げ場を、楽しい遊び場を提供できてんのか?
……こんな事で悩むんなら邪険にせず、モテ自慢を始める兄貴にエスコートの仕方でも教わっておけば良かったか……いや、兄貴が正しいとは限らんし、そもそもこの女に当てはまるとはもっと思えねぇ。
一条はそこら辺の女とは全然違うんだから、一緒にするな――俺は誰に怒ってんだ、クソが。
「ハンネスさん」
「……んだよ」
「少し、ワクワクしますね」
「……そうかよ」
横目で確認する一条は『お友達と、こうして私がしたいように遊ぶのは初めてです』とか、無邪気に言ってやがる。
その顔は相変わらず何を考えてるのか分からねぇ、澄ました顔だっているのに……心做しか声のトーンが高く、雰囲気も華やいで見えた。
ただまぁ、別に楽しんでるなら……良いんだ……お友達になったつもりはねぇが、楽しんでるならな。
「ハンネスさんはどうですか? 楽しいですか?」
「……お前が人を気遣うとか、なんだか気持ち悪いな」
あぁ、クソが……違うだろうがこの馬鹿野郎……なんでこういうところで悪態を吐くんだお前は。
せっかく楽しんで貰ってるのに、雰囲気を台無しにするような事を言ってんじゃねぇよ。
「……気遣うというよりも、確認がしたいのです」
「……」
「私は人の気持ちを察するという、普通の能力が著しく欠けている様ですから」
俺の悪態に気分を害した様子もなく、ただ『なぜ気遣うような真似をしたのか』という問いに答えるかのようなその反応に口をへの字に曲げる。
そうだったな、コイツはこいう奴だった……むしろ俺の方が気遣うとか気持ちの悪い事をしてるじゃねぇか。
この女に気遣いなんか無用なんだから、変に言葉を選ばなくても大丈夫――いや、選ばない方がいい。
「――お前が楽しいなら、一緒に居る奴も楽しいんじゃねぇか? 知らねぇけど」
コイツにはストレート過ぎるくらいストレートな物言いで丁度いいんだよ。じゃねぇと明後日の解釈するしな。
ただまぁ、ちょっとカッコ悪い誤魔化しが最後に入ったのは……もう仕方ねぇ。
「そうですか、ハンネスさんも楽しいようなら何よりです」
浴びせられたその言葉に眉間に皺を寄せて口をへの字にする。
「……けっ」
……こういう時だけ察してんじゃねぇよ、このバカ女。
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