第282話エイプリルフール外伝.TS魔法少女マジカル☆ユーリ!
「――夢の国からアナタを求めてやって来ました」
「「は?」」
舞といつもの下校中に突然聞こえた声に揃って振り向けば、手のひらサイズの玲奈さんが妖精の様な格好で妖精の様な羽根を生やして……っていうか妖精になった玲奈さんだこれ。
そんな現実では有り得ない、口に出そうものなら薬物の使用を疑われる様な光景を前にして頭が数秒ほど処理落ちしてしまう。
バレエの衣装の様な、体操選手の競技衣装の様な……とにかく可愛くてピッチリとしたファンシーな服を着たミニ玲奈さんは可愛い妖精でありながら、何だかとても肉感的で色っぽい。
そんなアホみたいな事を処理落ちから復帰してすぐに考えてしまうくらいには現実逃避がしたかった様だ。
「えっ? これちっちゃい玲奈さんだよね?! きゃっー! なにこれ可愛い!」
僕の隣ではしゃぎだす舞に「いや、君の方が似合うし可愛いと思うよ」という言葉が出かかって咄嗟に飲み込む。
危ない危ない……まぁ、何をしでかすのか分からない魔王みたいな玲奈さんにファンシーな妖精は似合わないとは思う。
服装とか、スタイルとかがマッチしていないんじゃなくて……こう、イメージや言動的に妖精はない。
妖精は妖精でも里に迷い込んだ人間を玩具にして遊んじゃう様な、純粋な悪意の塊の様な邪妖精だろう。
「私たちの世界から悪い奴がこの世界にやってきて、人に迷惑を掛けようとしているんです……それを私と一緒に止めて下さい」
玲奈さんが悪さを止めて欲しい、だと……はっは〜ん? さてはコイツ偽物だな?
玲奈さんがそんな善人みたいな事を進んでやる筈が――いや、待てよ? もしや僕たちを罠に嵌めようとしているんじゃ?
これが玲奈さんの新しい遊びだとしたらそんなにおかしくはない、か……?
「私の力で魔法少女になって怪人をやっつけて欲しいんです」
ほらね! やっぱりそんな事だろうと思ったよ!
魔法少女になってわたわたしちゃう舞を見て愉悦に浸ったり、揶揄ったりして遊ぶんでしょ絶対。
でもまぁ、確かに舞に魔法少女は似合うとは思う。
思うけど……まだ何かある気がするんだよなぁ、玲奈さんだし。
「私が魔法少女になるんですか?」
「いいえ、違います」
「え、違うんですか?」
てっきり舞が魔法少女になるものだとばかり思ってたからビックリして声が出てしまう。
思わず隣の舞と顔を見合わせてから、よく分からず一緒に首を傾げながら玲奈さんの続きを待つ。
魔法少女になれって言った癖に違うとはどういう意味なのか。
「魔法少女になるのはアナタです」
そう言って小さな玲奈さんは僕を指さして――
「「……え?」」
――え、僕?
「アナタが魔法少女になるのです」
「えっ?! いやいやいや! なんで僕なんですか?!」
二度も言わなくて良いよ! なんで僕なんですか!
なんで如何にも魔法少女が似合いそうな舞じゃなくて僕なのさ?!
絶対におかしいし、絶対に似合わないよ!
「アナタが一番魔法少女適性が高かったからです」
「ユウが、魔法少女に……?」
「ならないからね?!」
嫌だ、絶対に嫌だ……僕は魔法少女を愛でるのは好きだけど、自分がなるのは違うじゃないか。
だいたいからして男の僕がなったら魔法少女じゃないじゃないか。
……いや、男の娘の魔法少女とかもあるにはあるけど、守備範囲外っていうか。
とにかく僕は魔法少女になんてなりたくない。
『唐突だが悪の怪人ニョタイカスキー参上!』
「あぁ! なぜこんな場所に!」
うっわ、凄い棒読み演技……舞も苦笑いするレベル。
「さぁ! 哀れな被害者が出る前に変身するのです!」
くっ、こんな低レベルなヤラセで乗せられてたまるものか!
「……変身、しないの?」
「舞?!」
ど、どうしたんだよ舞ってば……なんで急に背中を撃って来たの?
僕だよ? 僕の魔法少女な姿だよ? 見たくないでしょ?
「ん、んんっ! ……きゃっー、怪人に捕まっちゃったー!」
『え? あ、あぁ……この女がどうなっても良いのか!』
「そうですよ結城さん、舞さんを見捨てるんですか?」
「こ、コイツら……」
もう完全に玲奈さんもそっち側じゃん! 悪の怪人と結託してんじゃん!
そんでなんで舞まで自ら人質になってんのさ! この裏切り者ぉ!
「さぁ、さぁ!」
「くっ……やればいいんでしょ!」
「よく言ったユウ! それでこそ男だよ!」
「これから魔法少女になるんだよ!」
これから僕は男である事を捨てるんだよ!
むしろ舞の方が男らしいところあるけどね!
まさか自ら人質になりに行くとは思わなかったよ!
「さぁ、私の言う通りに変身するのです」
僕の肩に飛び乗った玲奈さんの指示に従い、何処からともなくやって来た魔法のステッキを掲げながらヤケクソで声を出す。
「マジカルミラクルぅ〜? チェ〜ンジアップ!」
ステッキの先端を飾るハートから目を灼く様な強烈な光が溢れ出し、僕の身体を包み込む。
天然パーマな髪が伸び、背は少し縮んで華奢な体格へと変貌を遂げる。
全体的にぷにぷにとした柔らかさを獲た自身の身体の変化はそれだけに留まらず、胸とお尻が突き出て腰がさらに細くなっていく。
そんな劇的に過ぎる変化に驚く暇もなく、性別が入れ替わってしまった僕の身体を可愛い衣装が包み込む。
襟元のレース飾りと薄らと透けた黒のインナーが胸元を覆い、その上からビスチェの様な青い衣服が胸とお腹を包み隠す。
パックリと開いた背中を羽根のようなマントが隠し、腰辺りからフワリと広がる様にして伸びた薄絹のレースが下半身を囲む。
後ろと横から見れば生脚の輪郭が薄らと透けて見える程度でも、正面からだとビスチェのハイレグ部分が目に飛び込んでくるそれに何の意味があろうか……むしろ強調させる為にあるとしか思えない。
そんな格好をさせられている事に慌てている間にも僕の伸びた髪は可愛らしいシュシュでポニーテールにされ、耳には動きに合わせて揺れるハートのイヤリング。
真っ白な絹のハイニーソの上から、足の踝までを覆う黒のヒールブーツが履かせられていく。
そして最後の首元に着けられたチョーカーから伸びるネックレスの様な飾りが、青のビスチェと薄らと透けた黒のインナーに包まれた胸の谷間に落ちる。
「な、なな、なん……これなんっ……」
な、なんだよこれぇ……?!
男の娘な魔法少女になると思ってたら性別すら変わったんですけどぉ?!
「素晴らしい……やはり彼に適性があると見抜いた私の目に狂いは無かった」
「うるさいよ!」
「ちなみにご感想は?」
「着るのが自分じゃなかったら完璧だよ!」
自分が眺め、愛でる側であったなら完璧な魔法少女衣装であったと褒め讃えただろう。
それくらいに完璧な衣装であったのに、なぜ僕がこんな着なければならなかったのか。
ていうかそれ以前になんで僕の性別が変わってるのさ!
「むね、おおきい……私よりも……ユウ、の……方が……」
「怪人ニョタイカスキー! さっそく人質に手を出しましたね! 許せません!」
『えっ?!』
「さぁ! TS魔法少女マジカル☆ユーリさん出番ですよ!」
「情報がいつまでも完結しない」
なんで僕が魔法少女になってるのか、そもそも性別まで変わってるのはなんでなのか、そしてけしかけた筈のなんで舞は勝手に落ち込んでるのか……そういった疑問が尽きない。
あと怪人ニョタイカスキーは最後まで役を演じ切れよ、なんで一々動揺するんだこの素人が。
そして僕ってTS魔法少女マジカル☆ユーリって名前だったんだね……知らなかったよ。
「さぁ! 必殺技で怪人をやっつけるのです! 何も心配は要りません、頭の中に自然と思い浮かんだものに身を任せれば勝手にやってくれます! 時代はフルオートです!」
わぁ、すっごい親切設計だぁ……(白目)
「むね、なんで……私、よりも……なんで……」
とりあえずさっさと舞を助け出す為にも、必殺技を使いたいと脳裏で強く望む。
そうするだけで途端に僕の身体は僕の意思に反して勝手に動き出す。
ぷるぷると震えながら内股になり、ステッキを持った右手首を左手で掴みながら股間を隠す。
そのまま下に俯きながら顔を真っ赤にして涙目になりながら震えた声を発する――
「――ぼ、ぼくは……おとこ、なんです……」
――なんだよこれぇッ!!
『カハァッ――ッ?!』
「……威力が高すぎた様ですね」
全身の穴という穴から血を噴き出し、親指を立てながら倒れていく怪人ニョタイカスキーにドン引きするしかない。
「うそ、ユウが凄く可愛い……」
「舞さん?」
「こんなん推すしかないじゃない!」
「舞さん?!」
両手で口元を隠しながら頬を上気させ、潤んだ瞳を輝かせながら興奮し出した舞に困惑と驚愕が湧き上がるが――あぁ、そうだ……舞も魔法少女愛好家だったんだった。
つまり僕でさえ自分が当事者じゃなければ完璧だと評価する魔法少女衣装を着た(外見)女の子の、あざとい攻撃を食らって正気を失ってしまったんだ。
多分それだ、もうそれしか考えられない。
「くせっ毛オッドアイTS魔法少女ですか……性癖のハッピーセットですね」
「主犯が何か言ってら」
玲奈さんは何を他人事みたいに言ってるんですかね?
「てか、あれ? 怪人を倒した筈なのに変身が解けないんですが……」
「アナタはもう一生そのままです」
「え」
「女の子になってしまったアナタが頼れるのは幼馴染で女の子な舞さんだけ……そして女の子になってしまったアナタに対して内心ドギマギするオタク友達……あぁ、なんと素晴らしい情景でしょうか」
「れ、玲奈さん? キャラ違くないですか?」
まさか玲奈さんまで舞みたく壊れた?
「TS魔法少女マジカル☆ユーリの受難 〜僕は男なのにぃ!〜 来期より放送開始!」
「――しませんよ!」
そんな自分の大きな声で目が覚める。
「……夢か」
恐ろしい悪夢だった。
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