第275話クリスマス外伝.貧乏くじを引いたトナカイ
「――今日はクリスマスです」
そんな浮かれたセリフを言うのはミニスカサンタ衣装という、これまた浮かれた格好をしている玲奈さんだ。
腰に巻き付けられたベルトによって強調された大きな胸と、ミニスカートとブーツに挟まれた白い太ももが酷く眩しい。
彼女の何を考えているか分からない表情も相まって、これから何をされてしまうのか気が気でない……そのサンタ衣装、返り血で染めてないよね?
「そして貴方はトナカイです」
「ぼ、僕がですか……?」
「いいえ、貴方ともう二人居ます」
そう言いながら彼女が振り向いた先へと、おっかなびっくりといった様子で僕も顔を向ける。
そこには死んだ目をしてトナカイの着ぐるみを着込んだ舞が大きな
「さぁ、貴方も彼らと一緒に私の橇を引くのです」
そんな理不尽な言葉が聞こえたと思った次の瞬間……僕は何故か舞とお揃いのトナカイの着ぐるみを着込んだ状態で橇に縛り付けられていた。
何だこれ、本当に意味が分からない……なんだこれ。
「ねぇ、なにこれ……」
「私に聞かないでよ!」
「ハァハァ……」
興奮して息の荒い変態紳士を挟んで舞に聞くけど、涙目になりながらキッと睨まれてしまった……え? なんで変態紳士が興奮してるのが分かったかって?
……だってそりゃあ、彼の方から段々と強くなる光源が三つもあれば嫌でも分かるさ(白目)。
「さぁトナカイさん達! 橇を引くのです!」
「ハァハァ……仰せのままに!」
うわぁ、もう地獄だ……僕と舞は完全に巻き込まれじゃん。
これ絶対に女王様と下僕のプレイだよね? そうだよね?
そもそも豚とかもうクリスマス関係ないし、なんなんだよ。
そんな事を思いながら舞と一緒に顔を見合わせ、二人して涙目になる。
「豚が人語を解しますか!」
「ぶひぃぃいい!」
辞めてくれ、辞めてくれよ……尊敬できる大人が同級生の女の子に鞭で打たれて悦ぶ様な絵面なんて見たくないんだよ。
てかなんで変態紳士は豚鼻を付けただけで後はいつも通りほぼ全裸の海パン一丁スタイルなんだ――うわ眩しっ!
鞭で打たれて悦んだせいで三つの光源からの光が強くなって来てる――と、そんな事を思った時だった。
「豚は『ぶひぃ』とは鳴きません!」
そう言って玲奈さんは一際強く変態紳士さんのお尻を乗馬鞭で叩き――
「――ピギィぃぃぃいいいい!!!!!!!!」
――その瞬間、世界が光に包まれた。
「「目がぁぁぁぁああああ!!!!!!!!」」
――灼かれるッ!! 変態紳士の規制光で目が灼かれるッ!!
「「あぁぁああ!! 目が?! 目がぁぁぁあ??!!」」
「ふごっ、ふごっ……ピギィ!」
そうか、地獄はここにあったんだ!
自分の娘と言われても違和感のない年齢差の少女に人としての尊厳を捧げ、叩きのめされる事を悦ぶ変態紳士。
――豚である……そう、彼は紛うことなき豚であった。
これから先、変態紳士が自ら進んで人語を喋る事はないだろう……自ら尊敬を差し出した彼は、女王様の赦しが出るまでそのままで居るつもりなんだ。
そんな堕ちる所まで堕ちた彼の放つ三つの規制光に目を灼かれ、のたうち回る僕と舞という哀れなトナカイが二匹。
そしてそんな僕達を眺めてはワインを傾ける
――ここに、地獄が広がっている。
「ふふ、赤鼻が無くても夜を見通せますね」
それが理由?! そんな理由で変態紳士に鞭打ったの?!
「さぁ光源は確保しました。……トナカイさん達、出番ですよ」
「「ひぇっ!」」
持っていたワイングラスを放り投げ、乗馬鞭を手で『パシッ、パシッ』と弄びながらそゆな事を言う玲奈さんに舞と二人揃って悲鳴を上げる。
やる、この人は普通に叩いてくる……そんな、ある種の玲奈さんに対する信頼という恐怖心を原動力に舞と二人で息を合わせて夜を駆けていく。
「図体だけが取り柄なのですか? 屠殺しますよ?」
「ピギィ! ふごっ!」
「「……」」
定期的に変態紳士を
この場には基本的人権だとか、労働基準法だとか、動物愛護法だとか……そういった都合のいい代物は存在しないのだ。
「さぁ、聖夜に爆炎を! 母から教わった通りに今日というクリスマスを、浮かれているカップル達を爆破するのです!」
「「えぇ?!」」
ちょっ、玲奈さんのお母さぁん?! なんて事を彼女に教えちゃってるの?! 完全に真に受けてるよ?!
「肥太った都市を薪とする聖火!」
「超えたい一線越えられぬ聖夜!」
「リア充達の悲鳴が奏でる聖歌!」
「これが私と貴方で成した聖座!」
「「玲奈さん?!」」
なんて物騒な韻を踏んでるんですか?! その恐ろしいラップはなんなんですか?!
「クリスマスの定番ソングらしいですね、母が教えてくれました」
「「違いますよ?!」」
玲奈さんのお母さんはかなりの変人なんじゃないか説――あると思います。
「さぁ――クリスマスプレゼントは核弾頭です」
「「玲奈さぁん?!」」
あぁ、終わった……肩に担いでいた白い袋から物騒な兵器を取り出した玲奈さんはそれをそのまま渋谷の街へと投下する。
「これがクリスマスイルミネーションです」
「「……」」
一瞬にして変態紳士の規制光なんて目じゃない極光を、舞と二人で死んだ魚の様な目をして眺めて――
「……夢か」
――ベッドから頃け落ちた体勢のまま、今年もまたリア充共の祭典が始まった事を悟る。
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