第271話極光、悪絶、不可侵


「――けほっ」


 自らの上に降ってきた瓦礫を押し退け、砂埃に咳き込みながらも状況確認を最優先します。

 三人が同時に大技を放つと同時に何処からか飛来して来た矢……あれのせいで想定以上の爆発が起きて吹き飛ばされてしまいました。

 エルさんは全身を鎧で覆っていますし、変態紳士さんはダメージを受ける度に何故かパワーアップするので恐らくまだ健在です。

 むしろ防御が心許ない私だけが大ダメージを受けていると見ても良いでしょう。


 関節が逆に捻じ曲がり、プランと垂れ下がった左腕を無理やり曲げ直す事で向きを整えながら回復を施し、取り落としていた暗器を回収する。

 周囲には依然として砂埃が視界を遮り、私自身も『隠密』スキルの上位派生である『知覚遮断』、『生命遮断』、『魔力遮断』の重ねがけをしていますので直ぐに見つかる事はないでしょうが、どうしたものですかね。


「……どうやら横槍を入れたい方が居るようですね」


 しかもご丁寧に最初の爆発を起こした後に更なる矢を放った様で、どの様なスキルの効果かは知りませんが今この場には秩序に属する方を強化し、それ以外に弱体化を付与するフィールド効果がある様です。

 この様な状況では迂闊に動く事は出来ませんね……視界が悪く、不利なフィールドで二人よりも受けたダメージが多い。


 その為に私は暫く様子見に徹する――とでも相手は思っているのでしょうかね。


「――《糸探知》」


 地面に手を付き、五指から伸びた糸が私を中心として放射状に拡がっていく。

 蜘蛛の巣の様に地面に張り巡らされたそれから伝わってくる振動や重量などから二人の位置を把握する。

 ついでに影山さんに《分体創造》をして貰い、矢が飛んで来た方角へと放つ。


 ――と、同時に周囲に立ち込める霧と定期的に右側から私の身体を通り過ぎていく電磁波のようなもの。


 どうやら彼ら二人も自分達なりのやり方で索敵をしている様ですね。

 変態紳士さんは周囲へと霧の如く水を撒き散らし、エルさんはレーダーによる探知ですか。


 これでは『隠密』もあまり意味がありませんね、何か他の手立てを考えておかなければ。

 まぁほんの一瞬だけ発動し、相手から認識されなくなれば『暗殺』をする事は出来ますが。


「これは隠れても無駄そうですね――『破滅遊戯・虐殺機関・・』」


 いつ矢が飛来してきても寸前で察知できる様に空中も含めた周囲へと糸を張り巡らさせながら前へと進み出る。


「やぁホント、色んな探知の仕方があるんだねぇ――『禁域指定・奈落』」


 砂埃を掻き分けながらエルさんが現れてはそう言う。


「離れていても吾輩を見ていてくれるというのが分かって嬉しいかったですなぁ――『救済執行・天の門』」


 もはや周囲に建物よりも大きくなってしまった変態紳士さんは砂埃があっても普通に目立ちますね。


「二人して婦女子を探る真似をするとは、失望しましたよ――『絶命舌禍・魔統』」


「そう言えばブーメランも投擲武器だったね――『至魂傀儡・威装』」


「心配なさらずとも紳士の腕は二本ありますぞ――『円卓形成・天衣』」


 軽い嫌味にも動じずにエルさんは皮肉で返し、変態紳士さんはよく分からない事を言います……おそらく私には理解できない高度な返しなのでしょう。


「あの矢は誰かの差し金ですか? とても面白い事をしますね――『神気強奪・ファニィ』」


「さぁ? でもこの催しに程よい緊張が生まれて良いよね――『神呪獲得・サヴァン』」


「あれは吾輩の味方ですが、どうやら吾輩の図体が邪魔なご様子――『海神奏上・クレブスクルム』」


 まぁ、それだけ大きくなってしまえば私達を狙撃するのに邪魔になりますよね。


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種族:魔人

名前:レーナ Lv.112 《+30》

カルマ値:-588 《悪絶》

1stクラス:処刑人

2ndクラス:堕姫

3rdクラス:使徒

状態:憑依 《井上》


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種族:超人

名前:絶対不可侵領域 Lv.128 《+30》

カルマ値: X>0,Y≠0 《不可侵》

1stクラス:調停者

2ndクラス:無冠

3rdクラス:使徒

状態:憑依 《ルーシェン》


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種族:聖人

名前:変態紳士 Lv.158 《+30》

カルマ値: 504 《極光》

1stクラス:救世主

2ndクラス:円環

3rdクラス:使徒

状態:憑依 《ウィンディーネ》


====================


 さぁ、この視界が悪い中でどう戦いましょうかね……とりあえず『隠密』を持っている私が多少は有利になる事は変わらないので煙幕も張っておきますか。

 飛んで来る矢に対しては一応影山さんの分体を飛ばしましたが、それで無くなるならそれはそれで良いです。

 ですがそれでも狙撃して来るのなら、今回の催しがさらに楽しくなりそうですね。


「――さぁ、殺して差し上げます」


▼▼▼▼▼▼▼


 ――ズズっ、ズズズッ


 その影は静かに広がってゆく。

 光の届かない自身の領域を飛び回り、取り込んでいく。


「……あー、ミラちゃん」


「なに?」


 自らの主人に下された勅命を果たさんと影の王の半身は、高台に潜む二人の下へと手を伸ばす。

 今が真昼なのがその二人にとっての不幸である。

 光が強くなればなる程に影は濃くなっていくのだから。


「なんかヤバそうなモンスターが急に現れたから、ちょっと覚悟しておいて」


「……そんなに?」


「『看破』があんまり効かない。マジでヤバい」


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名前:影■

種族:シャドー・■■グ?????

状態:■体

備考

全ステータス2分の1

災■

■喰い


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 足場から滲み出ては流れ落ちる水が逆再生するが如く上空へと登る漆黒の闇。

 その場だけデータが破損し、色彩やエフェクトが剥げ落ちたかの様なそれに遠近感が狂う。

 立体的なはずなのに平面にしか見えず、光すらも吸い込むその闇の中に絶えず浮かんでは消えて行く囚われの魂。

 血の色で彩られた嘆きの表情が、波紋を立てた水面の様に影の中を彷徨う。


「ラインとチェリーっていつ来るっけ?」


「……さっきエレノアと合流したって言ってたから、あと五分くらい?」


「そっかぁ……それまで頑張って守るからさ、お姫様からのご褒美が欲しいなぁ?」


「……頑張って」


 影は想う。

 自らを従える少女を想う。

 半身たりとて離れたくはなかった。


『――』


 いつもなら全身隈無く少女を抱き締められていた筈なのに。

 至福の時間を過ごせていた筈なのに。

 他の仲間従魔達と違って全身で少女を包み込める特権を享受していたのに。


『――』


 あーあ、お前らが邪魔をするからです。

 もはや言葉すら発せられない程に怒り狂っています。


『――』


 あーあ、お前らが邪魔をするからです。

 いくら少女が妨害を余興として楽しんでいても知った事ではありません。


『――』


 あーあ、お前らが邪魔をするからです。

 この影は生まれつき自分勝手なのです。

 主人である少女が喜ぶ事よりも、自分が少女と一緒に居て至福の時を過ごす方が大事なのです。


『――』


 あーあ、あーあ、あーあ、あーあ、お前らが邪魔をするからするからお前らがするから。邪魔をお前らがあーあ、するから。


『±=±∝∣∦∜∥∛∦∣º³º₃∀⇔∑ℵ⊗⊥$¢₠ ――ッ!!』


 いけ好かない鎧の仲間にお株を奪われ、災厄の影の王は怒ってしまったのです。


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