第270話秩序連合
「どんな感じ?」
槍を手に自らが護衛する同じパーティーメンバーの一人であるミラちゃんに軽く声を掛ける。
油断なく弓に矢を番えながら『鷹の目』というスキルで狂人、奇人、変人のイカれた三竦みを監視する彼女は表情を一つも変えずに淡々と返事を返す。
「率直に言って化け物」
「……それは誰が?」
「三人共が」
どんなものかとアイテムストレージから望遠鏡を取り出し、帝都のド真ん中へと視線を送る。
そこでは漆黒の影を纏ったレーナちゃんに、重厚な鎧に包まれて鉄塊と化した絶対不可侵領域……そして筋肉ダルマに成った変態紳士の三人が目で追うのも難しい異次元バトルを繰り広げていた。
糸による搦手や毒によるバッドステータスを相手に与えながら、隙を見て『隠密』からの『致命の一撃』等を狙う何でもありのレーナちゃん。
全身を一分の隙もなく覆う金属の鎧に紫電を纏わせ、攻防一体としながらその有り余る重量と硬さでもって強烈なタックル等の一撃必殺をぶちかます絶対不可侵領域。
市民の退避を済んだと見るや出し惜しみを辞め、水のベールを纏いながら攻撃を受ける度に膨張していく筋肉によって巨大化していく変態紳士。
……うん、化け物だねこれは。
「味方であるはずの紳士の見た目が一番化け物なのが何とも……」
「そもそもあの二人が勝手に潰し合うなら彼が出向く必要は無かった」
「それは無理でしょ」
あの人が助けを求められ、さらには助けなきゃいけない無辜の民を見て不干渉を貫くなんて出来るはずがない。
『おいケリン、そっちはどうなってる?』
「あ、ハンネス? こっちはもう大怪獣バトルが繰り広げられてるよ」
フレンドリストを経由したボイスチャットから我らがパーティーリーダーの声が聞こえたので望遠鏡を片付け、ミラちゃんの背後を守る様に立つ。
『そうか、こっちはもう終わったぞ』
「あり? 割と早いね?」
『第二王子に拳骨してやったら泣いて継承権を放棄したぞ』
「あのさぁ……」
『仕方ないだろ? 交渉しようとしたら急に命を狙って来たんだから』
まぁフェーラ王女が幼いながらも『エルマーニュ王国』の玉座に就けたのなら良いけど。
「じゃあこれでもう――」
『――あぁ、秩序陣営による建国だ』
ちゃんと上手く行っているようで何よりだね。
レーナちゃんや絶対不可侵領域にバレない様に秘密裏に、そして悪目立ちしない様にひっそりと――彼らが勝手に潰し合っている間に国力を増強させる。
もう自由気ままな気狂い二人に好き勝手される事は……多分、ない。
「どのくらい集まったの?」
『秩序の主だったトップ層に、中立と混沌が少しだな……リスト送るわ』
そう言ったハンネスから送られて来たリストに載った賛同者や協力者の名前を見て唸る。
彼の変態紳士を筆頭とした秩序陣営に所属するトッププレイヤー達が揃い踏みしているし、一部中立や混沌に所属する者たちまで居る。
混沌の皮を被った秩序陣営とも言われる北進十字連盟はともかく、内側からサークルクラッシャーしかねないラブパンドラまで居るのが少し気がかりではあるけど。
「よくこれだけ集まったね?」
『じゃなきゃ抑止力にならん』
「まぁ、ね」
確かにレーナちゃんや絶対不可侵領域は馬鹿みたいに強いし、プレイも上手い……ゲーム内国家すらも手中に収めてるが故に
だけれど彼女達は基本的にソロプレイで決まったパーティーを組まないし、たまに一緒に行動する者たちも極小数。
――故に物量に弱い。
これは
どれだけ重要NPCが強くとも限界はあるし、負けてもその度に僕達は相手の情報を持ち帰りながら経験を詰める。
……死に覚えって本当に反則だよねぇって、つくづく思うよ。
だからこそ、この脅迫は彼女達にも一定の効果がある。
これ以上ゲーム内で戦争を巻き起こすのなら、お前達の国の上層部を全滅させるまでゾンビアタックするぞってね。
「また数だけの秩序って言われそうだけどねぇ〜」
『はっ! クソ女の尻を追い掛けるしか能がねぇ、ミーハー野郎共の言う事なんざ知るかよ』
「あっはは……」
要は上だけ目立って下は無能、秩序と違って層が薄いって言いたいのかな……いや、これはいつも嫌がらせされてるから相当鬱憤が溜まってるのか。
レーナちゃんと唯一マトモに張り合えるプレイヤーって本当に少ないし、しかもその中でもハンネスはレーナちゃん本人に気に入られてる節があるからね。
彼女のファンにとっては嫉妬と羨望なんかで情緒がぐちゃぐちゃになるらしい。
『ジェノラーとかふざけた集団創りやがって……』
「ハンネス、動いた」
っと、そんな風に脇道に逸れた無駄話をしているとミラちゃんが会話に入ってくる。
『もうか?』
「NPC達が周囲に居なくなって変態紳士も本気を出したみたい」
「出来る事ならもう少し長引かせたいんだけどなぁ」
レーナちゃんと絶対不可侵領域の二人を同じ場所に留め、さらにはお互いに潰させ合っているなんていう絶好のチャンス……なるべく長引かせたい。
けれどもまぁ、守るべきNPC達が居なくなったのなら変態紳士は次にこれ以上の破壊がなされないように動くはず。
その為にはやはり二人を排除しなくちゃいけないから、まぁ仕方がないかな。
『んじゃま、ミラは遠距離から紳士の援護を頼む』
「……いいの?」
『あのおっさんの好きにやらせとけ、俺も被害が増える事は望まない』
「やっさし〜」
『うるせぇ! もう切る!』
あーあ、切れちゃった。
「多分自分も行きたかったんだろなぁ」
「……ハンネス、あの子の事が気になるみたいだからね」
「初恋を拗らせてて可愛いじゃないか」
「むぅ……」
それにまさかあの二人が帝都のド真ん中でぶつかるとは流石に予想外だったしね……本当なら二つの部隊でフィールドに誘導させるつもりだったのに。
だからまぁ、ハンネスはまたレーナちゃんが街中で変な事をしでかさないか気が気でないだろうし、知り合いのNPCがまだ生きてるかどうかも心配なんだろう。
「でもまぁ、確かに……あの子は何処か危うい」
「ミラちゃんが他人に言及するなんて意外だなぁ」
まぁハンネスのついでではあるけど、学校で顔を合わせる事もそれなりにある同級生だしなぁ。
そんな事を考えながら軽口を叩くけれど、当のミラちゃんは何処か痛ましい者でも見る目をしながらそっと口を開く。
「だって、あの子――」
――たまに迷子の子どもみたいな顔をするから。
その呟きには同意も否定も出来ず、ただ無言だけを返した。
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