第261話気が狂ってる奴


「あ​──へ、陛下! これが『メッフィー領』に関する資料になりや、ます」


「段々慣れてきたな」


 はぁ、全く……気が休まる気がしねぇ。

 あのクソみたいな災厄女には振り回されてばっかりだせ。

 戦争はやめろって言ったら今度は謀略でもって一国を手に入れてくるし、俺たちの支持基盤であるはずの『ベルゼンストック市』の市長兼海神司祭と殺し合いを始めやがるし……本当に頭の中どうなってんだ?


「陛下、こちらが『セカンディア工業都市』から送られてきたサンプルになります」


「おう、そこに置いておけ」


 確かに『メッフィー商業立国』からのちょっかいが消え、逆に取り込めた事で色々と出来る事は増えたが……その分またさらにやらなきゃいけない事や苦労が増えた。

 まだ組み込んで間もない地域だからな、いくらあの女が鮮やか過ぎる程に分割統治、内憂、監視……様々な手でもって首輪を付けているとはいえ、完全には安心出来ない。

 支配を浸透させるのにも金が掛かるし、超スピードで一国を落としたとして北方諸国からの警戒がアホみたいに高くなってやがる。


「はぁ、本当に全く……」


「お疲れの様ですね」


「どっかのアホ女のせいでな」


 ロン老師と殺し合いを始めた件だってそうだ……なんだって急にそんな事を仕出かしたんだよ、意味わかんねぇよ。

 しかもそれを伝えてすぐに言った言葉が『水着を用意して下さい』だぁ? 遊びに行く感覚で殺し合いを始めんなよ、クソが。


「全くあの野郎ォ……」


「そんなに憎い人が居るんですね」


「あぁ全くだ、アイツのせいで俺の苦労ばかりが増える……ってソイツが言ってた」


「兄貴?!」


「? そうですか?」


 あっぶねぇ……また気配もなく後ろに立ちやがってふざけんなよ? 気を抜いていたとはいえ、何でお前はそう何度も俺の背後を取れるんだよ。

 本当に頭のおかしい奴は行動もおかしいんだな……てか先ずはドアから入れや。

 何でわざわざ窓や天井裏から忍び込んで来るんだよ、意味わかんねぇよ。


「まぁ座れよ、要件を聞こうじゃないか」


「今度また戦争します」


「いいから座れッ!!」


 こっちにも心の準備ってもんがあるんだよ! いきなりぶっ込んでくるんじゃねぇよ!

 お前ふざけんなよ?! 俺散々言ったよなァ?! もう余裕はねぇって……言ったよなァ?! なァ?!


「ふぅー、ふぅー、落ち着け〜! よし! ……今お茶の準備をさせるから少し待て」


「今度は国力の全てを投じる総力戦です」


「いいから茶を待てッ!!」


 こっちにも心の準備ってもんがあるんだよ! ノンストップでぶち込んでくるんじゃねぇよ!

 お前ふざけんなよ?! 俺さっきから言ってるよなァ?! 座れって、待てって……言ったよなァ?! なァ?!


「ふぅー、ふぅー、落ち着け〜! よし! ……こっちにも準備ってもんがあってな? それに国庫に余裕もないんだ」


「おや、これはなんですか?」


 こ、コイツ?! 自分だけ好き勝手に言いやがって人の話を聞きやがらねぇ……!!

 クソっ、落ち着け……これは好都合だ、この機に話を逸らして有耶無耶にしながら一気に畳み掛ける様に説得してしまえ。


「あー、それは『セカンディア工業都市』から献上された新型の試作品だそうだ」


「弾は入ってないんですか?」


「あぁ、さすがに抜いてあるこっちに向けるな」


 向けられた銃口を手で払いながら目の前の女と改めて向かい合い、ため息を大きく吐きながら部下が用意した書類を並べる。

 これは今現在の『バーレンス連合王国』の経済や産業、税収にとその支出について細かく書かれた資料だ。

 これを元に理詰めでコイツを説得させる……無い袖は振れないってな。


「見ろ、これが今のこの国のお財布事情だこっちに向けるな」


 向けられた銃口を手で払いながら目の前の女に、書類の一部を指差しなから説明する。

 明らかに支出が収入をオーバーしており、一部借金をしてしまっているくらいだ。

 国としての収入の他に、事業と規模を拡大させたムーンライト・ファミリーの非合法な収入も別にあるとはいえ、全部を国庫にぶち込める訳でもない。


「ふむふむ、『メッフィー商業立国』を丸々飲み込んだ位じゃ足りなかったんですね」


「……まぁその統治にも金を使うからなこっちに向けるな」


 向けられた銃口を手で払いながら不穏な事を口走る女を牽制する。

 何が『メッフィー商業立国を丸々飲み込んだ位じゃ足りなかったんですね』だよ……これ以上他の国を侵略する様な真似はできねぇって言ってんだよ。

 確かに長期的に見れば得かもしれんが、何かを食べた時は消化するのにも体力を使うんだよ、短期的に見れば危ういんだよダボが。


「……なぁ」


「なんですか?」


「その銃口をこっちに向けるの辞めてくれねぇ?」


 さっきから話をしずらいんだよ、それを向けられるとよぉ……何で何回も辞めろって言いながら振り払ってんのに照準を合わせてくんだよ。

 人を使っていったいなんの確認をしてんだよこの気狂い女はよぉ。

 本当にふざけんなよ、俺がいったいどれだけ​​──




 ​──カチャカチャカチャカチャカチャカチャ


「​​​──お前マジふざっけんなよォ?!」


 手に持っていた書類を床に叩き付けながら思いっ切り怒鳴りつける……コイツ、あろう事かいきなり引き金を連続で引きやがったッ!!

 普通するか? しねぇだろ……するか? いやしねぇだろ……実弾が入ってないとはいえ怖いんだよッ!!


「? 実弾は入ってないんじゃありませんでしたか?」


「わかってても怖ぇもんは怖ぇんだよッ!! お前気でも狂ってるのかッ?!」


「? はぁ……?」


「なんで俺がおかしいみたいな態度なんだよッ?! やるなら自分にやれよッ!!」


 なんで俺が『何言ってんだコイツ』みたい顔で見られなきゃなんねぇんだよ?!

 俺がおかしいのか?! えぇ?! 俺が?! 絶対におかしいのはコイツの方だろ​──




 ​──カチャカチャカチャカチャカチャカチャ


「​──お前よくそういう事が出来るなッ?!」


 なんで自分の頭に銃口を向けて引き金を引けるんだよ?! 本当に頭は大丈夫かよ?!


「? はぁ……?」


「その顔やめろよッ?! 俺がおかしいみたいだろッ?!」


 なんで俺の方が何か変な事を言ってるみたいな態度なんだよ、おかしいだろうよ。

 部下達も完全に怖がってて近付いて来ねぇしよぉ……恫喝や威嚇として銃口を向けたり向けられたりはあるが、マジモンの気狂いがするそれは圧が違う。


「まぁそうですね、国庫にお金が足りないという事で​──」


 はぁ、やっと分かってくれたか……もう何だか俺は疲れたぞ。


「​──銀行を設立しちゃいましょう」


「……もう許して」


 もうなんか怖いんだよコイツ……本当にマジでやべぇんだよ……もう許して。


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