第254話海神司祭と海神巫女
《ワールドアナウンス:プレイヤー名レーナがワールドクエスト:老司祭をクリアしました》
《ワールドアナウンス:これにより、秩序陣営の勢力が衰退しました》
《ワールドアナウンス:これにより、海神信仰の勢力が大きく衰退しました》
《ワールドアナウンス:これにより、新たな海神司祭の選定と海神巫女の新設がなされます》
《ワールドアナウンス:他にも様々な変化が生じたためプレイヤー自身の目で確かめて見てください》
《レベルが上がりました》
《スキルレベルが上がりました》
《スキルポイントを獲得しました》
《カルマ値が大幅に下降しました》
《称号:冒涜者を獲得しました》
《称号:神の敵を獲得しました》
《称号:神の友を獲得しました》
《新しく──》
そんな、一度に大量に流れていくゲーム内アナウンスの声や文字による通知を認識すると共に自身がギリギリで勝利したのだと知る。
詰めていた息を吐き出し、自身に掛けていた様々な強化を打ち切りながら背中からロン老師の遺体を下ろす。
「はぁ、はぁ……私の、勝ち……ですね……」
老師の遺体のすぐ横で左脚を投げ出し、突き立てた右膝の上に右腕を置き、左手を背中側の地面に突くという形で座り込みます。
少々行儀が悪い格好ではありますが、今は少し余裕がないので仕方がありません。
その様な格好から頭を倒し、後ろ目で老師の遺体を確認しながら呟いてみますが、返事などあるはずもありませんでしたね。
「さて、これからどうしましょうか……」
新しく得たスキルや称号の確認作業なんかもありますが、まずこの遺体の利用先ですね……そのままアンデッドにしてしまうか、首を晒すか。
わざわざ首を晒してこれ以上『ベルゼンストック市』の支持率なんかを下げる訳にもいきませんし、アンデッドにした所で海神系の神官職が多いあの地域ではすぐにバレてしまうでしょう。
であるならば、王国や大陸北部の国々からの侵略にいち早く気付き、その卑劣な魔の手から『バーレンス連合王国』を、ひいては『ベルゼンストック市』を守る為に戦ったとしてプロパガンダに使用しますか。
卑怯な罠に嵌め、邪悪なる手口でロン老師を殺めたかの国々を許すなと煽ってみましょう。
「なら一先ずは保存ですね」
プロパガンダの手法や今回の結果など、どうせエレンさんに相談しなければならない事は沢山あるのですしね。
そうですね、普段からエレンさんにはお世話になっていますし、国庫について物凄く悩んでいたみたいですから、ちょっとしたアイデアをプレゼントしましょうか。
「……おや、揺れてますね」
ここの主らしい、ロン老師を殺害した影響なのでしょうか……ダンジョン全体が揺れている様に感じられます。
よもやダンジョン自体が崩落し、生き埋めになる様な事はないでしょうが、長居しても良い事は無さそうですね。
そもそもここは海神クレブスクルムを祀る祭祀場みたいな場所らしいですし、私はその海神クレブスクルムから恨まれている事でしょうし。
「──おや、レーナ嬢ではありませんか」
一際激しく揺れたと思ったら壁の一部が上へとズレ、そこからビキニアーマーと俗に言われる装備を着用した変態紳士さんと、ブロッサムさん、そして何処かで見た気がする姉妹が居ますね。
と言いますか、なぜ変態紳士さんは鉄製の装備を──あぁ、なるほど
ユウさんのふざけたスキルといい、運営の中には中々に良い性格をした人が居るようです。
「……珍しい組み合わせですね」
「……そういうアンタは珍しく苦戦してた様じゃない」
「この方は中々に楽しめましたよ、私が殺したのでもう死んでいますが」
ロン老師の遺体の腕を持ち上げ、フラフラと振ってみせながらブロッサムさんの声に応えてあげます。
ここまでギリギリの接戦は少し久しぶりでしたからね、ちょっと熱が入り過ぎた気はしますが。
「う、嘘だ……なんで……」
「あ、ぅ……」
「……少し、配慮が足りませんでしたな。レディ達は見ない方がよろしいかと」
先ほどまで茫然自失といった様子だった姉妹が口を開いたかと思えば……これは、よく分からないですね。
どう言った意図での発言なのでしょうか? 一人は単語すら発せていません。
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重要NPC
名前:メア Lv.12
カルマ値:41《中立・善》
クラス:裁縫師
状態:通常
備考
スペルディア本家・養子
クレブスクルム信徒
双子・姉
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重要NPC
名前:ニア Lv.8
カルマ値:null《無垢》
クラス:海神巫女
状態:通常
備考
スペルディア本家・養子
クレブスクルム信仰・海神巫女
双子・妹
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……あぁ、この子達でしたか。
「変態紳士さん」
「……なんですかな?」
「私、これから全力でその子達を殺しにいきますので全力で護ってあげて下さいね。……紳士である前に大人、なのでしょう?」
私の発言にくしゃくしゃに顔を歪め、ポロポロと涙を流し始める理解不能な姉妹達は完全に無視しながら変態紳士さんへと視線を向ける。
今この場で何故か彼が居ることと、海神巫女なんていう新しく新設されたらしいクラスを持つ少女達を引き連れているんですから、全くの無関係ではないでしょう。
そもそも、少し前に『ベルゼンストック市』で開催されたプレイヤーイベントに、他の攻略組の大半が不在だった中で紛れ込んでいたのですから、その時からロン老師と交流があったと見て良いでしょう。
「ふむ、そうですな……吾輩は変態である前に紳士、そして紳士である前に大人ですからな」
姉妹二人の頭を撫でながら前へと出て、私を彼女たちから見えなくしたらしい変態紳士さんはそのまま──マッスルポーズを決めます。
「ふんっ!」
急にこの人は何をしているのだろうと、頭を捻っていると……変態紳士さんの頬や首筋、そして両腕にまでロノウェさんがしていた様な『クレブスクルム紋』による刺青が浮き出て光り輝き始めましたね。
なぜ彼がその様な刺青をわざわざ入れているのか、もしかして水系統の魔術スキルや武技スキルを使用していた事からプレイヤーの中での海神信徒なのだろうかと──
「──そして、新たな海神司祭ですからな」
《ワールドアナウンス:プレイヤー名変態紳士が新たな海神司祭となりました》
「なるほど、ロン老師も考えたものですね」
殺しても殺してもいずれ蘇るプレイヤーに後を託した様ですね……さらに言えば秩序陣営の序列一位を味方に引き込むとはやるじゃないですか。
あの姉妹を殺そうとすると、新たに海神司祭として生まれ変わった変態紳士さんが立ちはだかって来るだなんて、楽しみで仕方がありません。
「では、精々私に殺されてしまわない様に──遊びましょうね?」
そう言って、ニッコリと微笑んで魅せれば──
「えぇ、本気で彼女たちを守護すると誓いましょう」
──彼も満面の笑みで新たなポーズを決めます。
「……え、なにこれ、狂人同士で通じ合わないでくれる?」
ブロッサムさんの独り言が辺りに反響して響き渡ったのはご愛嬌というものでしょう。
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