第252話少女と姉妹と──
「……迷ったわ」
何よここ、広すぎじゃない?
本当に海底ダンジョンの中にある街な訳? ……人っ子一人も居ないし、本当に嫌になる。
門番二人と戦ってる最中に避難でもしたのかしら?
あの二人が必死なって守ってたし、人ではなくても何かがあるのは確定だとは思うのだけれど。
「あ〜、どっちかは生け捕りにした方が良かったかしら?」
いや、生かしておいても情報を吐いたとは思えないし、殺して私の経験値にしたのは間違いではなかったハズよ。
それに個人的にあの姉弟は気に食わなかったしね。
となれば、自分の選択に後悔はないと再確認をしたならば……このだだっ広い街を地道に探索するしかないわ。
「はぁ〜、こういう探索はほとんど下僕に任せてるのよね──」
「──あ、あの!」
適当にボヤきつつ歩いていると、突如として背後から声を掛けられる。
少し気を抜き過ぎていたかしら? それとも短時間とはいえ、代償ありの能力を使った反動なのか……ま、どっちにしろ簡単に背後を取られるなんて少し弛みすぎてるわね。
こんなの私らしくないし、何よりも『完璧』じゃないわ。
「……子ども?」
「に、ニアっ!」
大鎌の刃先を声の主へと向けながら振り返った先には……八歳くらいの小さな女の子と、その子によく似た十二歳くらいの少女が居る。
おそらく大きい方が姉で、急に飛び出した妹を追って来たといったところかしら?
まぁ、何にせよ何でこんなダンジョンの中に子どもが居るのかしらね……しかもここは偉そうなジジイがジェノサイダーを討つ為に用意した場でもあるのに。
……いや、逆ね……もしかしたらこの姉妹は関係者なのかも知れないわね。
「あ、あの!」
「……何かしら?」
コチラから何かを聞く前に向こうから話し掛けれてしまったわ……姉とは違って妹の方はあまり物怖じしない性格みたいね。
オロオロとしてる姉の方は苦労してそうだけど、今回に限ってはまぁ正解かしら。
子どもであろうとも使えると判断したら利用するし、邪魔だと判断したら私は躊躇なく消す……それは絶対よ。
「その、レーナお姉さんと一緒に来た人ですか?」
「……それがなに?」
なんでコイツがアイツの事を──って、そういえばアイツって『ベルゼンストック市』でワールドクエストをクリアしてたっけ。
その縁で知り合ったとかかしらね……知らないけど。
「あ、あの! どうしても私はレーナお姉さんが悪い人だとは思えなくて! だ、だから、その……私をお姉さんの所に連れて行って下さい!」
「ニアだめよ! 危険だから!」
「でもメアお姉ちゃん……」
何なのかしら、これ……私は何を見せられているのかしら?
どうせあの女の事だし、これだけ自分を慕っているらしい彼女達の事も忘れちゃってるでしょうね。
つまりアイツを揺さぶったり出し抜いたりするネタにはならず、かといってロン老師とかいうクソジジイ相手の人質としては現段階では微妙とい判定を下さざるを得ない。
そんな子ども二人を連れて未知のダンジョンに挑むなんてごめんだわ。
「残念だけど他を当たってくれるかしら? 足手まといは要らないのよ」
そうね、マリアなんかは普通に連れて行ってくれるんじゃないかしら? ……いや、彼女も断りそうね。
身の安全が保証できないのに、無責任に子ども達の命を危険に晒す彼女ではないわ。
「で、でもっ……!」
「……私の邪魔をするなら斬り捨てるわよ」
『威圧』スキルを発動しながら改めて大鎌を姉妹に向け、凍てついた視線で射抜く。
普通のNPCならここで腰を抜かして動けなくなるんだけれど──面倒ね。
妹の方は私の威圧を受けても、それでも瞳から力を失わないし、そんな妹を庇うべく姉も震えながらではあるけれど前へと出る。
取るに足らない雑魚だと思って『看破』は使ってなかったけど、もしかして重要NPCだったりする?
……まぁどうせここで死ぬんだし、それももうどうでも良いけれど。
「面倒だから、もうここで死んじゃいなさ──」
「──待たれぇぇぇいぃ!!!!」
大鎌を振りかぶってそのまま振り下ろそうとした私と、姉妹の間にナニカが降ってくる。
即座にバックステップでその場から距離を取り、魔法と武技の準備をしつつ警戒して乱入者を睨む。
「……なんでアンタがここに居るのよ」
土煙が晴れ、降って来た者の正体が判明すると共にゲンナリとしてしまう。
もう、何だかその姿を見るだけで一気に疲れてしまうわね。
「──幼子を害す事だけはこの変態紳士が許しませんぞッ!!」
「五月蝿いわよ」
しかもなんでコイツってばビキニアーマーなんて着てるのよ──え、まさかビキニだからセーフとか言わないわよね? え?
鉄製でもビキニだから水着と同じ判定なんて、そんな馬鹿な話はないわよね?
「どうかこの場はこの変態紳士の顔を立てて矛を収めてくださいませんかな?」
「……アンタを見て疲れたから、もういいわよ」
「む? そうですかな? まぁ、丸く収まった様で何よりですな!」
本当にコイツはいつもいつも元気が良いわね……ビキニアーマーなんて変態的な格好をしているのに、いつもよりも露出度が減っているのがムカつく。
コイツが現れるといつもその場の調子が乱されるから嫌になるわ。
「それで? なんでアンタがここに居るのよ?」
「あぁ、それはもしもの時にこの子達を安全な場所まで送り届ける為で──おや?」
私の質問に奴が答える最中、突如として奴の両腕や首筋が光り輝く。
何やら龍の様な紋章を象っている様で……姉妹の頬に入れられた刺青に少し似てるわね。
「……どうやら、もしもの時が来てしまった様ですな」
「ねぇ、全く話が見えないんだけれど?」
私って、自分だけが置いてけぼりにされるの凄く嫌いなんだけど?
「まぁまぁ、ここは一旦移動しましょう。……吾輩に着いてくればこのダンジョンから脱出出来ますぞ?」
「……まぁ、今回だけ同行してあげる。感謝しなさいよね」
うーん、未発見のダンジョンを探索できないのは残念だけれど、元々
また今度、次は下僕達を連れてまた来ましょう。
ダンジョン内で分断された時は、まず脱出して合流してから対策をし、そして再アタックするのがセオリーだし、他の二人も先にダンジョンから出てたりするのかも知れないしね。
「ふふ、貴女の様な麗しいレディをエスコートする事が出来て望外の悦びでございますよ」
「あら、よく分かってるじゃない」
「吾輩、変態である前に紳士ですからな」
「子ども達を庇うのも紳士だから?」
「吾輩、紳士である前に大人ですからな」
「あ、そう」
コイツはコイツなりに矜恃なんかがあるのかもね……ま、興味はないけれど。
それよりも今頃あの女はどうしてるかしらね?
マリアはセオリー通りに動くとは思うけど、一番行動が読めないのはあの女なのよね。
「……ま、どうせまた馬鹿な事をしてるんでしょうね」
「なにか何か言いましたかな?」
「別に、変態は黙って前向いて歩きなさい」
「これは手厳しい!」
前を向いたらアンタの無駄にプリっとしたケツが目に入る私の身にもなりなさいよね。
姉妹の妹の方は気にしてないけれど、姉の方と私は目のやり場に困って斜め上や下を見るしか無いんだから。
「……本当に腹が立つ」
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