第251話邪念なく、楽しく、殺意を持って
「──『神降ろし・嵐海龍』」
ここで、この場所でレーナという娘を止めなければならん……この、何処までも純粋に残酷な娘を利用した負い目もある。
いや、確かにあの時はあれが最善ではあった……ロノウェへと力を引き継がせた瞬間を狙われ、ただの少し強いだけの老人でしかなくなったワシには『エルマーニュ王国』に征服されるしかなかった。
その支配から脱却する為には秩序でも中立でもなく、混沌の力が必要だった……クーデターも反乱も、秩序を乱す行為であるが故に。
「──『破滅遊戯・虐殺器官』」
リリィという名の娘に彼女を討伐する話を持ち掛けられた時は正直なところ迷った……この信仰を守る為という大義名分の下、若い娘の命を摘み取っても良いものか分からなかったのだ。
これ以上の混乱を世に振り撒く片棒を担ぐ事にもなるのではないかと悩んだ……けれども他ならぬ
「──『肉体壊造・神獣化』」
それにこれ以上あの娘に人の命を奪って欲しくはない……中央神殿の発言力を高めようと、先鋒を買って出た聖騎士隊に許可など出さなければと今も悔いておる。
あぁ、今回の件に協力してくれた者たちの家族を匿っている街は無事だろうか……なるべくこの娘から遠く離し、護衛も置いたが不安は尽きぬ。
これ以上の無駄な犠牲は出させず、ここでワシが全てを終わらせる。
「──『愚劣支配・魔統』」
……それに、ここでワシが死に、古くから続く司祭の血が途絶えたとしてと
かの御仁がワシの後を、ロノウェに代わって継いでくれるのであれば安心できるというものよ。
なればこそ、ワシは今ここで全身全霊をもってして、この混沌に堕ちてしまった娘を止める事に注力するのみ。
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「──『海神信仰・クレブスクルム』」
「──『神気強奪・ファニィ』」
何やら自身も死ぬ覚悟を決めたらしいロン老師と再び拳を交わし合います。
向こうもこちらも、回復手段を持っているとはいえ長時間もクラススキルで強化し続けられていられる訳ではありません。
ここに来てはもう出し惜しみなしの短期決戦へと移行したと見て良いでしょう。
「……メアとニアの事を覚えておるか? それともあの二人の事さえ忘れてしまったか?」
「……突然なんですか?」
メアさんとニアさん、ですか……何処かで聞いた様な気はしますね。
そしてロン老師がこの場で出すという事は事実として私と関わった事のある方でしょう。
そして『ベルゼンストック市』で遊んだ時の関係者だと思われます。
「えーと、確か──あぁ、あの姉妹ですか」
思い出しました、あの小さく痩せ細った姉妹ですか。
はじめて『ベルゼンストック市』に入った時から、一部の奴隷達の目が死んでいないどころか、むしろやる気に満ちていた事から反乱組織でもあるんだろうなと当たりを付け、その組織の者たちを呼び寄せる餌として助けた彼女達ですね。
その結果として見事にロノウェさんを釣ってくれました。
「あの娘らはお前さんの事を心配していたぞ」
「? ……はぁ、そうですか?」
「出来ればあの娘達の望み通りにお前さんを助けたかった……だがそれは無理だとワシが判断した」
「……さっきから何が言いたいんですか?」
前に一回関わった事があるだけの、もうなんの用もない
いったいそのメアさんやニアさんという姉妹が私にどんな感情を抱いているかは知りませんが、全く興味がないですね。
「つまりお前さんの命を狙ったのはワシの独断という事にして、もしもお前さんが勝ったとしても彼女達を見逃してやれんか?」
「……」
あー、なるほど、そういう事ですね……ロン老師が反乱を企てたのは彼女達の後押しもあったのは事実ですが、命まで取ろうとしたのはロン老師の勝手な判断だから関係ないと。
今から自分の死後を心配している訳ですね、この老人は。
「ではこうしましょう──私が生き残ったら必ずその姉妹を殺します」
「……なるほど」
「こうすれば僅かに残った私への情も完全に消え去るでしょう?」
「呆れる程に有効じゃったよ!」
ふふふ、そうです、それで良いんですよ……無駄な事なんて考えないで、私を殺す事だけに集中して下さい。
もう最初から貴方は邪念が多過ぎるんですよ……良心が咎めるとか、私への気遣いだとか、そんな理解できないもので悩まないで欲しいです。
私はいつだって余計な事は考えず、どうすれば自分が一番楽しく遊べるかどうかしか考えていないのですから。
「もっともっとお互いに楽しみましょう? 歳を取った男性は若い女性と遊ぶのが好きなのですよね?」
「……それは少し意味が違うと思うぞ」
「あら、そうですか? それは失礼致しました」
いけませんね、せっかく相手のエンジンが全開になったというのに、微妙な顔をさせてしまいました。
まぁ『遊び』にも色々と種類があるみたいですから、今この場にはそぐわなかったのでしょう。
「ですがまぁ、かの姉妹をむざむざと殺されたくはないのでしょう?」
「……そうだな」
「いいですよ、その目……私は好きです」
純粋に私を想ってくれている目は大好きです。
好意やそれに類する感情は私には理解できませんし、裏も読めません……ですが悪意や害意だけは騙る事の難しい感情です。
自らに殺意を向けられた時になってはじめて──私は母以外と本音で語り合え、通じ合えるる気がするのです。
「そうだとは思いませんか?」
「……ただただ哀れで、可哀想でしかないわ」
「ふふ、それは残念ですね」
分かって貰えないのは残念ではありますが、そうですね──
「まだまだこれからですよ」
──邪念なく、楽しく、殺意を持って遊びましょう?
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