第247話地震、雷、火事、親父


「ゆ、ユウ……?」


 可愛い水着を着てお洒落をしたマリアがボロボロになっている……その小さな身体を、前髪を掴んで持ち上げるという乱暴な手段で抑え込まれている。

 本当に何でこんな事態になっているのか意味が分からないし、人のプレイスタイルに口を出すつもりはないけどさ……自分の大事な物や推しを攻撃されるのって、オタクが一番嫌う行為なんだよね。


「はぁ、はぁ……マリアから手をっ……ちょっ、もう無理っ……げんか​​──おろろろろ」


「ゆ、ユウ?!」


 とか勇ましく登場して思ってはみたものの、もう既に身体は限界でしたとさ……マリアが襲われてるらしい事を聞いてから、ここに着くまでアイテムやスキルを多用してノンストップで走って来てからもうスタミナが残ってない。

 それどころかろくに検証もしていないまま無茶なスピードで走ったせいか三半規管が大ダメージを負ってる。

 現在のレベルに相応しくないスピードで相応しくない挙動を取ったせいか、現実の肉体で絶叫アトラクションをハシゴしたよりも酷い状態だよ。


「コヒュー……、コヒュー……」


「ゆ、ユウッー!!」


「……なにこれ」


 打ち上げられたばかりのマグロ様に身体をビクンビクンと跳ねさせてながら倒れ込み、大量の汗を掻きながら青白い顔で口から液体を吐く姿をいきなり見せられても困惑するよね。

 もうさっきから視界いっぱいに『WARNING』だとか、『ログアウト推奨』みたいな警告文が出まくってて苦笑するしかない。


「大丈夫大丈夫僕はやればできる子元気な子」


「ゆ、ユウッー!!」


「……なにこれ」


 歯をガチガチとかち鳴らせ、細かく微振動を起こしながら出来の悪いロボットの様に同じ言葉を繰り返す。

 そんな僕を見てマリアが涙目になり、赤鴉とやらも困惑しているのが​よく見える。


「​『私は貝に成りたい』」


「「っ?!」」


 とりあえず巨大な二枚貝へと変身してから二人を飲み込み、ついでに一緒に海水を飲み込む事で《潮吹き》を発動する。

 それによって海水と一緒に赤鴉だけを外へと勢いよく放り出してやる。


「……ごめん、巻き込んだ」


「うん、シリアスな感じに言ってるけど何も見えない」


「私は貝に成りたい」


「本当になってどうするのよ……」


 まぁ厳密には違うけど、今の状態はマリアが僕の口の中に居るようなもので……そりゃ何も見えないよね。


「あとなんか生臭いんだけど!」


「なっ?! それは僕の口が臭いんじゃなくて、この貝事態が臭いだけだからね?!」


「うっそ、私って今アンタの口の中に居るの?! この変態っ!!」


「げ、厳密には違うし! あと変態じゃないし!」


「『魔法少女・痴の七日間』」


「……マリアさん?」


「『生意気ロリに分からせ​──」


「わ、わー! わー! これから危なくなるからマリアは大人しくしてようねッ!!」


 なんでマリアが僕の有明の戦利品を知ってるの?! ちゃんと二重底に隠しておいたはずなのに!!

 クソう、幼馴染みの女の子に性癖がバレまくってて死にたくなってくる……ええい、もう仕方がない! 今は忘れよう!


「『貝塚』!」


 自身を爆散させる事で大量の小さな貝へと分裂し、周囲に積み重なるように降り注がせる。

 相手の視界を遮ると共に、僅かな振動に反応して中の身が鳴らす鈴の様な音色によってコチラからは相手の位置を把握する事が可能になるそれらを発動すると共にマリアを担いで飛ぶ。


「ちょっと揺れるよ」


「お、おう……」


 周囲に鳴り響く貝殻の音を聞き、やはりそうかと確信を得る……奴は細かい攻撃に対しては『パリィ』などを用いて無効化するけど、こういった大規模な攻撃に関しては地中に潜る事でやり過ごしているみたいだね。

 恐らくは『土中潜航』か、モグラの爪という消費アイテムを利用しているんだろう。

 であるならば、そのどちらであっても地中に潜ってる事が分かればそれで良い。


「​──《おねだり》!」


 『親子魔術』の《おねだり》を発動する事で突如としてデフォルメされた巨人の親子がその場に出現する。

 小さい方の、子どもと見られる巨人が手に持つ何かを母親の巨人へと掲げて見せて何かを言うの眺めながら、これから来る衝撃に備える為に『カースト魔術』の《最底辺》を発動し、空気となる事でプカプカと宙に浮く。


『ママァ! これ買って!』


『ダメよ、この前にも買ったばかりでしょ!』


『やぁーだぁ! 買ってよぉ!』


 直後に起こる地震​──いや、子どもが我が儘を言いながら起こす地団駄によって周辺の地面が激しく揺れ始める。

 さぁ出て来いよ、地面に潜った状態で大地を揺らされると四方八方から押し潰されてダメージが看過できないだろう?


「​──出て来た、《おこだよ》」


 特定のエネミーを怒り状態にする魔術を巨人親子の母親へと掛ける……それによって普段ならば買って済ませていた母親が急に怒り始めてしまう。


『もう知らないからね! 一生そこに居なさい!』


『や゛ぁ゛だ゛ぁ゛ー゛!゛!゛ マ゛マ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛!゛!゛!゛!゛』


 これによってプリプリと怒りながら去って行った母親に置き去りにされた子ども巨人はその場で四肢を投げ出し、大暴れをしだす。

 この状態では地中に戻る事も出来ず、出来たとしてもジリ貧……かといって地上に留まるのは地獄である。

 さて、赤鴉はここからどうするのか。


「​──《致命の一撃》」


『マ゛ッ゛?゛!゛』


 ……まぁ、そうなるよね。

 邪魔なエネミーは殺してその場の戦闘から排除するに限る。

 僕だってボスモンスターが手下を呼んだらそうするさ……でも、それは今回に限っては悪手かもよ。


「……驚いた」


 近くでチラチラと息子の様子を見ていた母親が、我が子が殺されてしまった事によって鬼と化した襲いかかって来るからね。

 そしてここで《オレオレ詐欺》を発動し、絶えず母親に息子を騙る声を聞かせて怒りを増幅させ、赤鴉には《大草原》を掛けて動きに制約を与える。


「《蝶舞蜂刺》」


 あれは自身に五回の絶対回避と、五回の刺突攻撃のダメージ倍加スキルだね……やはり彼か彼女か分からないけど赤鴉は軽戦士タイプが近いかな。

 簡単に倒されてしまった母親巨人を見ながらゆっくりと大地に降り立つ。


「君、面白いね」


「面白いのはここの運営だと思う」


 普通スーパーとかで騒ぐ子どもをスキルで再現するか? って思うよね。

 僕の服の袖を指で摘みながらジトっとした目で見てくるマリアから目を逸らしながら次のスキルを発動する。


「《凍結》」


 わざわざ地上に出てきてくれたんだから、まずは浜辺を凍らせて潜れない様にしてやる。

 上空から聞こえてくる副垢と思わしき物で謝罪になってない謝罪を垂れ流す男の声をサクッと無視しつつ、マリアを背後に退避させてから走り出す。


「《不意に来たる不幸》」


「何を​──痛っ!」


 赤鴉の持つ細剣の柄に静電気を発生させるだけの小さな嫌がらせ……他にもこむら返りを起こす等があるけど、今この場は氷漬けで少し寒いから静電気が出る確率が高くなる。

 望む通りの結果を引き寄せ、敵の注意が手元にいった数瞬を見逃さず《炎上》を奴に未だに絡まってる草目掛けて放ち、ついでに《クソリプ》も発動して一定の距離を保つ。


『本当にそんな事をしても良いと思ってるんですか?』

『ペストマスクとかダッサw』

『厨二病かな?w』

『#自分を怒らせたらどうなるか みたいなタグ付けて呟いてそうな顔してんな』

『怒ったら記憶なくしそう』

『FF外から失礼するゾ~(謝罪) ファッ!? お前のツイート面白スギィ!!!!! 自分、RTいいっすか〜^? 淫〇知ってそうだから〇夢のリストにぶち込んでやるぜ! いきなりリプしてすみません! 許してください! なんでもしますから! (なんでもするとは言ってない)』

『BB素材にしてみました』

『君ね、そんな事をしていいと思ってるの? もしそうなら勉強不足だよ』


 全身白タイツの集団が赤鴉を囲み、前進も後退もさせない様にウザさMAXで邪魔をするのを確認しながら準備を終わらせたスキルを発動する。

 巨人親子の地震、不意に来たる不幸によって発生した静電気という雷、そして奴の身体に絡み付いた草が炎上する火事……ここまで来たら後はあれしかないだろう。


「​──《害獣召喚》!」


 何らかの手段で地震、雷、火事の三つを発生させないと召喚できない魔獣​の恐ろしさをとくと味わえ!


「……なに、それ」


 強烈な光と共にバーコードハゲでちょび髭、まるめがねを掛けた二頭身のオヤジが現れて​──その口を開く。


「​──この海にイルカはいるか、つって! ドッ!」


 その瞬間激しい吹雪があたり一面を覆い尽くし、海までもが凍り付いて浜辺との境界線すら無くなってまう。

 赤鴉に至っては自身に纏わりつかれたクソリプマン達と一緒に氷像と化している。

 寒すぎてコチラまで《霜焼け》のバッドステータスが付き、微量なスリップダメージが入ってしまう禁術の威力は凄まじく、遠目に見えていた他のプレイヤー達まで吹き飛んでしまった。

 ……いや、その、本当にごめん……多分マリアを助けようと駆け付けてくれたんだろうけど。

 ともかくこれで倒せていると良いんだけど……もしも無理ならまた次の手を打つ。

 地震、雷、火事、親子のコンボ技は割とMP消費がバカにならないからこれで倒れてくれると嬉しくはあるんだけど。


「……やったの?」


「ねぇ、マリア?」


「え? ……あっ! ごめん!」


 ついうっかり立てなくても良いフラグをマリアが立ててしまうと同時に目の前の氷像が砕け散る。

 それを見て僕は額に手を当てて遠い目をし、出し惜しみしてる場合じゃない事態になった事を呪う。


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