第242話ガラスの靴で踏んづける


「お前がロン老師の言っていた女か?」


「多分違うと思うわよ?」


 私の正面右側に居る女の質問に詰まらなそうに答えてあげる。

 第一声がそれって、相手に対して失礼じゃない? 今はあの女の事はどうだっていいのよ。

 アナタ達は大人しく私を見なさい。


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重要NPC

名前:ローラ・スペルディア Lv.115

カルマ値:215《極善》

クラス:嵐海拳士 セカンドクラス:武闘司祭 サードクラス:バトルマスター

状態:通常

備考

スペルディア分家・長子

クレブスクルム信仰・神官戦士

双子・姉


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重要NPC

名前:ロムルス・スペルディア Lv.115

カルマ値:215《極善》

クラス:嵐海魔術師 セカンドクラス:武闘司祭 サードクラス:祈祷師

状態:通常

備考

スペルディア分家・長男

クレブスクルム信仰・神官戦士

双子・弟


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 ふぅん、これだけ強い重要NPCが守護しているだなんてこの地下街はえらく重要な場所みたいね?

 これはハズレどころか大当たりだったかしら? 今回は長文のお気持ち表明を送るのは辞めてあげましょうか。

 それよりも今はこの目の前に陣取る邪魔な二人をどうにかする事よね。


「ねぇ、その先の地下街に興味があるんだけれど?」


「ならん。お前がロン老師の言っていた女であろうとなかろうと濃密な混沌の気配を纏った貴様を通す事はできん」


「あっそ、じゃあ押し通るわ」


 女の首を狩るべく大鎌を振るう……けれどそれは篭手を装備した拳によって弾かれてしまう。

 まぁいきなり首を取れるとは思ってなかったからそれは良いんだけれど、そっちもそう簡単に自分の間合いに入れられるとは思わない事ね。


「ハァッ!」


「ふん」


 腰を深く落としての正拳突きを身体の横で地面を抉るかの様に大鎌を回す事で弾き、相手の正拳突きを防いた事によって回転の速度が弱まり浮いたところで大鎌の真下へと身を滑らせる。

 肩から首にかけてで大鎌の柄をキャッチし、ズシリとした重みを感じながら絡ませた両手を振り抜く事で至近距離にまで近付いた女の顔を抉ってやる。


「ちっ!」


「姉上、相手の間合いが分からないウチは様子を見よう​──《エクスエンチャント・フィジカルパワー》」


 なるほど、姉が突撃して弟は支援や回復を担当するって訳ね……まぁだからなんだという話なんだけれど。


「《エクスエンチャント・フィジカルバリア》」


「……ふん」


 大鎌の石突による突き込み……《瞬身》と《疾風突き》を組み合わせた不意打ちによって篭手の覆ってない部分を攻撃し、腕を破壊しようと思ったのだけれど……邪魔されたわね。

 流石に速度重視の攻撃では防御力を底上げされた完全前衛タイプの守りを抜く事は難しいか。


「《エクスエンチャント・アクセラレータ》」


「ハァッ!」


「邪魔くさいわね」


 一気に速度を上げ、間近まで迫って来た女の拳を突き出したままだった石突で払い除ける。

 弾かれた右腕を気にも留めず、腰だめに構えていた左拳をすぐさま解放する様はさすがと褒めたくなる。

 けれどこっちの武器は大鎌よ? そのまま石突で払い除けた勢いそのままに、刃に重心を乗せながら踊る様に半回転……女の拳を傷付ける。


「《エクスヒール》」


 あらやだ、せっかく左拳の上半分を抉りとってやったっていうのに回復されちゃったわね。


「ねぇ、そこのお兄さん」


「? ……なんだ?」


「私のところに来ない?」


「なっ……?!」


 私が誘いを掛けてるのはお兄さんの方なのに、なぜ関係ない女が一番反応するのかしら?


「どういう事だ?」


「ほら、私って凄く綺麗じゃない? 年齢の割には発育も良いし、そのアンバランスな魅力があると思うのよね」


 ……ちょっと、煩いからアンタ梅宮華子は黙ってなさいよ。

 さっきから恥ずかしいのか知らないけれどキャーキャー煩いのよ。


「触れる事は叶わないけれど、近くで見るだけなら特別に許してあげる」


「貴様ァ!!」


 だからなんで関係ない女が突っかかって来るのかしら?

 拳の連撃を大鎌の回転と踊る様な足運びで裁きながら溜め息を吐く。


「今私はそこのお兄さんに誘いを掛けてるのよ? 関係ない女は大人しくしててくれないかしら?」


「関係ない訳あるかぁ! 戦闘中に混沌に属する者が弟に秋波を送る事態を黙って見ている事などできん!」


 首を狙った大鎌の横薙ぎ​──を弾かれた勢いを殺さずに振り子の様に回転させ、今度は逆側から頭を狙う。


「ガっ?!」


「良かったわね、刃部分じゃなくて」


 そう言って口元に手を当て、顎を高く上げて嘲笑してやれば見る見るうちに顔を真っ赤にさせる女が可笑しくて堪らない。


「それで? お兄さんの返事は?」


「もちろん断る​──《エクスエンチャント・ストームオーシャン》」


「あら残念​──《エクスエンチャント・フィジカルパワー》」


 振られてしまったわ、本当に見る目のない男ね……こんなにいい女が誘いを掛けてあげているというのに。

 まぁ首を縦に振るとは思ってなかったけれど、私ってプライドが高いから容赦はしないわよ。


「ふん、所詮はその程度の魅力しかない自分を恨め」


「年増の嫉妬は醜いわね」


「なんだと?!」


 何が怖いのかは知らないけれど、過剰に肌を隠すように衣服を着込んでいる女に魅力云々を言われたくないわね。

 とりあえず踏み込みを邪魔するべく《凍結》で女が足を振り下ろそうとした地面を凍らせ、滑らせる。


「ぐっ、小賢しい真似を……だいたいなんだそのはしたない格好は?!」


「これ? 似合ってるでしょ?」


 我ながら凄く良い物を選んだと思うのよね。

 黒色でありながら派手過ぎず、地味過ぎず……私の美しさを引き立てるかの様な可憐さがあるとは思わない?


「そうやってみだりに肌を晒し、自身を過剰に飾り立てる事で男に媚びるしか能がないのか?」


「は? 勘違いしないでちょうだい、私が媚びるんじゃなくて男が私に傅くのよ」


 女性が肌を晒しているだけで男に媚びるだの誘ってるだの勘違いする愚図が現れるのは現実と変わらないのね……そこまでリアルにしなくて良いのだけど。

 どうせ肌の露出が多い女性が変な被害に遭ったら「そんな格好をしてるからだ」と、被害者側に理由を求めて責めるんでしょう? 梅宮華子は詳しいのよ。

 だいたいコチラ側から明確なアクションや、親しい間柄で雰囲気を醸し出してという事もなく知らない相手をどう誘って媚びろっていうのよ。


「いい? 私が自分の肌を晒すのは自分に自信があるからよ」


 アイツ梅宮華子みたいに着膨れしちゃうくらいに着込んでるなんて馬鹿らしいわ。

 世の男性が勝手に目を奪われ、世の女性が不相応にも嫉妬しちゃうくらいに綺麗な肌を晒して何が悪いと言うの?


「お洒落をするのだってそう……世界一美しい私をさらに磨き上げる為よ」


 アイツ梅宮華子みたいに顔を隠したりして、自分の美しさを損ねる様な真似はしないわ。

 ダイヤの原石は隠したって意味も価値もないの……磨き上げ、研磨してカットする事で美しさと魅力意味が生まれ、それを世間に晒してこそ価値が認められるのよ。


「そうやって自分を肯定して、肌を晒してお洒落して……もっと女性らしくなる」


 アイツ梅宮華子みたいに自分で自分を否定する様な最低な女になんて成り下がってやるものですか。

 私は私が一番だと自信を持って言えるし、その他の有象無象なんて私の引き立て役に過ぎないと声を大にして言ってやるわ。


「そしてその結果として勘違いした男共や嫉妬した女共を​──​」


 女の癖に足を出すなというキモいおじさんの意見も、独立した女性なら男性に媚びずに足を出すべきではないと自分が生まれ持った宝を捨てる様な馬鹿な女の意見も全部くだらないわ。

 私は男性を誘う為でも男性に媚びる訳でもななく、独立した女として自身の女を全面に出してやる。

 そうやって精一杯の努力をして、自分を磨き上げて誰もが羨むような素敵で理想的な女性になるの。

 キモいおじさんや馬鹿な女が言うような「らしく」や「らしさ」なんて詰まらないわ。

 私はどんな女性よりも女性らしく・・・輝いてみせる​──いや輝いている。


「​──ガラスの靴で踏んづけてあげる」


 まぁそれはそれとして、自分の魅力武器を利用する事に躊躇いはないけれどね。


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