第243話聖母と赤鴉
「ここどっこやね〜ん……って、誰も居ないか」
激しく噎せて咳き込んだ後に呟いた寒いツッコミが岩肌を反響していく……それが何だか酷く物悲しい。
潜水時間が持つかなとか呑気に心配しながら水中を進んでいたら急に激しい海流に呑み込まれるんだもんなぁ……何となく予想はしていたけど案の定と言うべきか、先に来ていたはずのブロッサムは居ないし。
これはまんまと分断されてしまったと見た方が良いよね。
「先に進むしかないか」
戻ろうにも私の呼吸がもったのは海流によるスピードがあったからだろうし、同じ距離をそのまま素の速度で移動しても途中で溺死してしまうだろうね。
ブロッサムとも分断されてしまったという事は別れ道なんかもあるんだろうし、迷う確率も高い……そして同じ理由でここで待っていてもレーナさんが来る可能性は低い。
……気は進まないけど、一人でダンジョン攻略かぁ。
「水の中じゃないだけマシだけど、やっぱり炎熱系の魔術やスキルは威力が下がってるよねぇ」
まぁ自爆せずに攻撃できると思えば良いのかな?
光系統はあくまでもサブでメインじゃないから、あんまりダメージを期待できないからなぁ……やはり火力こそ正義なり。
ククク、圧倒的な物量と火力の前では小手先のテクニックなど無意味よ。
「てか何処まで続くのやら……せっかくの水着も見せる相手が居ないならあんまり意味無いし」
ずっと無骨で湿った岩肌ばかりが続く道を水着姿で歩き続けるって本当にシュール……せっかくの水着が泣いておるぞ。
あーあ、せっかくこのマリアちゃんが水着を着ているというのに……ユウの奴が居ればなぁ。
「……居ればなぁ」
別に寂しくなんかないけど? たまにはアイツのウザイ陰キャムーヴを見て笑うのも良いかなって。
……ユウの癖して生意気にも私の誘いを断り過ぎなのよ、何があったのか知らないけど最近は本当に避けられてる気がする。
「強く、当たりすぎたのかな……」
幼馴染みだからと、付き合いが長いしこれくらいなら許して貰えると傲慢になってたのかな……もしかしたら本当は私の相手なんかしたくなかったとか?
いいや、そもそもアイツが何か変な事をする度に強い言葉を使ったり、手が出ちゃったりするのが悪いのかも……でも、でも──
「──恥ずかしいんだもぉん」
今さらしおらしい態度なんて取れないし、そもそもアイツがクラスの男子と一緒に私の動画を見ていたのが悪いんだもん……恥ずかしいに決まってるじゃん。
確かに膝裏を蹴り飛ばしちゃったのは悪かったとは思うけど、私だって相応に恥ずかしかったんだからね。
……だから、もしも怒ってるなら謝るから許してよ。
「うぅ、ダメだ、一人になったせいで心細くなってる……」
運営も何を考えているのか……普通こんな薄暗い空間に女の子を一人だけで放り出すかね?
いざとなったら長文のお気持ち表明を送り付けてやるんだから。
「……よしっ! 気持ちを切り替えて頑張るぞ!」
弱気になってる場合じゃないわ! さっさとここを抜けてレーナさん達と合流しなきゃ!
「何が出てこようとも、いざとなれば全て爆破してしまえば良いのよ……ほ、ほらっ! 出るなら出て来なさいよ!」
別にビビってないからとアピールする様に錫杖を握り締め、胸の前に持っていく。
肩を震え上がらせ、いつでも撃てる様に魔術を発動待機させておきながらゆっくりと進む。
「……明かり?」
そうやっておっかなびっくり進んでいると、唐突に前方から眩しい光が漏れているのを確認する。
もしやボス部屋じゃねぇだろな……疑いながら足を踏み入れない様に気を付けてから先を覗く。
「……あれぇ?」
覗いた先に広がっていたのは波の音が心地よい浜辺で……あれか? 内部に草原とか色々あるタイプのダンジョンか?
もしかしたら階層を進む毎に森エリアとか火山エリアとかあったりする?
「待てよ? ここ『ベルゼンストック市』のすぐ近くの浜辺じゃない? ……もしかして「振り出しに戻る」をされたとか?」
野次馬が増えて来たからさっさと出発したけど……私とレーナさんとブロッサムの三人で水着の見せ合いとかしてた場所だよね?
あれ? でもそうなるとあれだけ居た野次馬プレイヤー達は何処に行ったんだろう?
もしかして似た場所だけど、ここはまだダンジョンの中とか?
RPGにありがちな『迷いの〇〇』という同じ見た目のマップを正しい手順でグルグルしないといけないやつなのかな。
「プレイヤーは居ないし、代わりになんかカラフルな炎とか浮いてるし──あれ?」
……これ、プレイヤーが殺された時に出て来る人魂じゃない?
「……もしかして、私が起こした爆発で殺しちゃったとかないよね? ね?」
プレイヤーの痕跡がある時点で振り出しに戻されたのは確定として、じゃあこの大量の人魂はなんなのって話でして……や、やべぇ。
私が殺っちゃったかも知れない……意図せずとはいえ大量のPKをしちゃったのかも知れない……ど、どうしよう。
「はっ! 待て待て、私がやったと決まった訳じゃない! ここは落ち着いてカルマ値を確かめるんだ!」
もしも大量に殺しちゃってたのなら、それなりに減ってるはず……うん、減ってないしむしろ増えてるね。
「良かったぁ、私がキルしちゃった訳じゃなかったぁ……」
なんだか脱力してしまってその場に座り込んでしまう……何はともあれ、またダンジョンの座標を探す事から始めなきゃか。
「……そういえばなんでこの人達は死んでるんだろう? 乱闘でもあったのかな?」
あわよくばダンジョン探しを手伝って貰えるかも知れないし、ついでに事情を聞く為に何人か蘇生してあげようかな。
うん、キルしていないどころかデスペナルティを受ける前に蘇生してあげる私ってば優しい。
……これで大規模爆発を許してくれると良いなぁ。
「まぁいいや、さっさと蘇生してあげよう」
そうと決まれば善は急げと、魔術を準備しながら人魂のひとつに手を伸ばす。
「──お前がユウか?」
その直後に背後から投げ掛けられた声に、幼馴染みの名前を語るその声に振り替える。
「……どちら様?」
全身を血の様な赤で染めた外套に、左腕を覆うカラスの羽根……フードと悪趣味なペストマスクで顔を隠したソイツは、声すらもどこぞの誘拐犯の如くボイスチェンジャーで加工している。
……なんていうか、見るからに凄く怪しい。
「コイツらは全員ハズレだった、お前が当たりである事を祈る」
「……私はユウじゃないけど?」
「それを判断する術を私は持たない」
いやユウも一応は有名プレイヤーなんだし、検索すればいくらでもアバターの画像とか出て来るだろうに……というかこの状況、マジでどうしよう。
とりあえず会話を試みてみるか? 同じ人類であるならば、先ずは話し合いからだよね。
「もしも私がユウだったら?」
「殺す」
「私がユウじゃなかったら?」
「殺せば分かる」
……あ、ダメみたいですね。
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