第239話聖騎士隊
「……」
暗闇から視界が戻ったので周囲を見渡してみますが……より厳かな雰囲気の空間へと飛ばされてしまったみたいですね。
最初の部屋より綺麗な状態で保全されているようですし、おそらく今も使われているのでしょう。
ですが、そんな事よりも気になる事が一つあります。
「……どちら様ですか?」
今、私の目の前には騎士然とした格好の人物が五人ほど無言で佇んでいます。
中央に居るのが女性で、あとの四人は男性ですかね……彼らとは面識はありませんのでロノウェさんのご兄弟という事もないでしょう。
「──総員抜刀!」
「「「「応!」」」」
返事には答えてくれませんでしたね。
それよりも剣を抜いたという事はこの方達はロン老師が用意した前座か何かでしょうか。
少なくとも私を討伐する気はあるようです。
「これより我ら第十七聖騎士隊が裁判を行う! 異議ある者は居るか!」
「異議なし!」
「異議なし!」
「異議なし!」
「異議なし!」
……なんです、これ。
「被告! 混沌神の御使いたるレーナ! 罪状は存在そのもの! 判決は死刑! 異議ある者は居るか!」
「異議なし!」
「異議なし!」
「異議な──ガァっ?!」
いい加減に女の人の掛け声に合わせて男性達の復唱が鬱陶しかったですし、既に武器を抜いているのですから始まっていると見ても良いでしょう。
なので復唱の途中とはいえ、男性の顔を目掛けて鉄球を投げた私を信じられない目で見られても困ります。
「貴様ァ! 神聖な裁判の途中で危害を加えるとは何事か?! 法廷侮辱罪も罪状に追加する!」
「「「「異議なし!」」」」
……ここって法廷だったんですかね。
それともあれですか、簡易裁判を行う権限でも与えられていたとかですか。
まぁなんにせよ、私がその茶番に付き合う道理はない訳ですが。
「相手は秩序の敵! その首を以って聖都に凱旋する!」
「「「「異議なし!」」」」
その掛け声と共にやっと走り出しますが、本当に動き出すのが遅いですね。
何か形式的なものが必要だったりすんでしょうか……こう、裁判の途中に攻撃をして来たのは向こうからだ、みたいな。
聖騎士という名前からして秩序陣営っぽいですから、そういうのはありそうですね。
「大陸西部に混沌を撒き散らす諸悪の根源に誅罰を!」
女騎士の振り下ろしを銛の柄で受け止め、そのまま回転させる事で弾き飛ばす。
そこから軸足からの半回転で首を狙います──が、無理そうですね。
「サポート!」
そんな女性の掛け声に合わせて左右から水と炎の球体が飛んで来ますので、井上さんの一部を飛ばして盾とし、しゃがんだ女性の後方から飛来してきた矢を銛で叩き落とす。
矢を叩き落とす為に下へと逃げた女性に対する追撃や攻撃の軌道修正を妨害するとは考えましたね。
同時に左右から魔術によって攻撃をするのもいやらしいです。
「アタック!」
「……下から、ですか」
いつの間に潜っていたのか、地面から飛び出して来た頭から血を流している男性を避ける為に後方へと跳躍します。
まずは隊長であろう指示を出している女性自身が突撃する事で注意を引き、三方向からの遠距離攻撃……それが失敗したとしても視線が遠くに置かれた状態からの死角である地下からの奇襲と。
個人の武勇よりも連携で相手を追い詰めるタイプの敵は中々に珍しいですね。
「『影槍』」
「ガハッ?!」
ですがまぁ、地面に潜るのは悪手でしたね……そんな影が豊富な場所は影山さんの独壇場ですよ。
ここが海の力が濃ゆい場所であり、鎧を着用していなかったのも運が悪かったですね。
その騎士服に防御力があるのかどうかは分かりませんが、少なくとも影山さんの攻撃を防げる程では無かったようです。
「エリック……!!」
エリックさんと言うのですか……自ら掘った穴の中で串刺しになったまま絶命してしまった方をチラリと見てみます。
「……なるほど、これが正に『墓穴を掘る』という事ですか」
「貴様ァ!!」
スキルレベルも低い為に慣れない銛ではありますが、括り付けた糸を操作する感じだと『繰糸』スキルの判定も乗るなるようですね。
五指と糸で繋がる銛もいつも使う短刀ほどではないですが敵の攻撃を防ぐくらいの事は出来るようです。
「影に気を付けろ! ──ガード!」
あら、防がれてしまいましたか……この様な壁から光を放つ水晶体が生えているエリアではガラス片を投擲するのは中々有効なのですがね。
まぁ魔術スキルを発動しようとしていたのに対して牽制として放っただけなので良いのですけど。
「アタック!」
正面と右側から突撃してくる男女の騎士に対処するべく銛を構える……正面の女騎士に対しては毒針を投擲して牽制しつつ、右側からの振り下ろしに合わせて銛を突き出す。
穂先の三股に長剣を絡ませながら振り抜く事で体勢を崩し、手投げ斧と、それに潜ませる形で毒に浸しておいた小石を投擲してしまいしょう。
「サポート!」
目立つ斧は女騎士の声に反応した遠くの騎士によって矢で撃ち落とされますが、毒を含んだ小石は見事に体勢を崩した騎士の眼球へと命中しましたね。
「アタック!」
それを確認したのちに左側から再度突撃してきた女騎士の剣閃を弾き、背後から飛来してきた水球を麻布さんの『暴風魔術』である《竜飛翔》で相殺して貰います。
「ぐっ……ガード!」
そのまま女騎士の鳩尾を蹴り飛ばし、彼女が起き上がる前にと銛を投擲しますが矢の二射で弾かれてしまいましたね。
「サポート!」
そして弾くだけに留まらずさらに飛来する矢は私の視線の先、足下、左側と……見事に行動阻害を目的としたものばかりです。
「アタック!」
それに合わせて水を剣に纏わせた騎士が左側から突撃してきますので、眼球からの毒汚染によって静かに亡くなった方を糸によって引き寄せ、そのままプレゼントしてあげます。
「なっ?!」
左側から来る騎士の攻撃を防がれない様に矢を放ったのでしょうが、死体との間にも放っておくべきでしたね。
「──ポン子さん、撃ちますよ」
追撃をさせまいと武器破壊を狙った女騎士さんには悪いですが、この銛って変形するんですよ。
そのまま一気に形を変えた事で狙いを外しての空振りから私の後方へと倒れ込む女騎士から視界を外し、仲間の死体を見事に抱き留めた方の頭へと照準を合わせます。
「──『狙撃』」
まさか『投擲』スキルの技が銃撃で役に立つとは少々以外でしたが、それによって何とか狙いを外す事もなく頭を吹き飛ばす事に成功しました。
……まぁ、少し狙いがズレて歪に顔が削れた形になってしまったのは残念ですが。
「このっ、貴様ァ!!」
戦闘中は耐久値の減りが早いので再度ポン子さんを銃から銛へと戻し、前面でグルンと回転させる事で矢を弾いてから先ほどから矢がうざい騎士に向かって駆け出します。
「お前の相手は私だ! 私を見ろ!」
嫌です。貴女は最後と決めてますので。
「ぐっ!」
バックステップで私から離れながら矢を番えているところ悪いですが、後ろをちゃんと見た方が良いですよよ? 思いっ切りぶつかってるじゃないですか。
井上さんの身体の部品を背後へと飛ばしては女騎士が追い付くまでの時間を稼ぎながら、仕込んでいた糸を一気に解放する事で道を作ります。
私から一直線に伸びる鋭利な糸は弓兵が左右に逃れる事を許しません。
「撃ち合いといきましょうか」
「死ね! さっさと死ね!」
半ば狂乱状態に陥りながら矢を乱射する彼に合わせて私も毒針を投擲していきます。
やはりこういった状況になった時に両手が塞がる弓はダメですね……銛で飛来する矢を叩き落としながら片手で毒針を投擲しながら思考する余裕まであります。
まぁ投擲よりも弓の方が威力も射程もありますし、この様に段々と近付いていくと少し掠ったりしますけどね。
「終わりです」
「ガッ、ゴフッ……!!」
一定の距離まで近付いたところで銛を投げ飛ばし、弓兵の首を壁に縫い付けて殺します。
「さて、後は貴女ただ一人です」
「き、貴様ァァァァアア!!」
さてさて、何故この場に聖騎士隊とやらが居るのか……どうやって吐かせましょうかね。
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