第238話海神の祭祀場
《ワールドアナウンス:プレイヤー名ブロッサム、マリア、レーナが海底ダンジョン・海神の祭祀場へと初到達しました》
私達がダンジョンの中へと足を踏み入れると同時にそんなアナウンスが鳴り響きく……まぁ、このワールドクエストを受けない限りプレイヤーが自主的にここを探り当てるのは無理でしょうからね。
海の中にダンジョンがあるかも知れないと推測は出来ても、正確な位置や深度が分からなければただ広い海を闇雲に探すだけです。
ワールドクエストを受けるなりして、ここにダンジョンがあると確定してからでないと探索のモチベーションを維持する事はなかなか難しいのではないでしょうか。
「……また潜るの?」
そのブロッサムさんの言葉通り、今私達の目の前は海水で満たされています。
信者が参列する為であろう長椅子の列の先にある、供物か御神体か……それらを捧げたり掲げる場所であっただろうそこは盛大に朽ち果て、また床には大穴が開いていますね。
何かに破壊されたのか、それとも経年劣化によるものかは分かりませんが、その穴を満たす様にして海水が満たされている場所以外は特に道らしい道も部屋もありません。
「しかもなんか分断されそうなんですけど」
マリアさんのその声に振り返れば、彼女が見ていた小さな石碑が目に入ります。
「……聖海の水をみだりに消費してはならない?」
「祭祀場を乱す事も許さないって書いてあるよ」
ちらりと奥の方へと視線を向けてみます……祭壇の穴に満たされた海水はそれぞれ人一人分が入っても大丈夫そうですが、二人分となると溢れ出しそうなくらいには余裕がありません。
つまり一人ずつ入っていかないと海水が溢れ出して『聖海の水』とやらを無駄に消費し、床下浸水の形になって祭祀場を乱す事にも繋がるのでしょう。
「これは潜っている最中にそれぞれ別の場所に誘導されたりしそうですね」
「待っている側からしたら、先に行った人と同じ道かどうかなんて分かりやしないわね」
「うぅ、せっかく三人で遊べると思ったのに開幕で分散とか……ほんとマジKSO運営」
まぁせっかく一緒に行動していたのに残念ではありますが、三人で記念写真も撮ったので私としては別に文句はありませんね。
それに多分ですが、ロン老師はブロッサムさんは兎も角マリアさんとは戦いたくはないでしょう。
何となくですが、彼はマリアさんの事を幼いながらにかなりの善行を詰んだ将来有望な少女……くらいにしか思ってないでしょうし。
「ま、どの道この先を進むんならあそこを潜るしかないでしょうし……私が先に行くわ」
「えぇ〜、ここはジャンケンにしようよ〜」
「……ったく、このロリガキは」
「誰がロリガキやねん」
特にブロッサムさんも拒否する訳ではないようですね、そのまま手を構えています。
「「「……ジャンケン、ポン」」」
……一人負けしてしまいましたね、チョキではなくパーを出せば良かったです。
「今一度ここで歳上の偉大さというものを教えてやろう」
「身長も胸も私に負けてるくせしてよく言うわ」
負けた事は素直に残念ではありますが、順番によって何かが変わる事が確定している訳でも何でもないのでお二人が何故ここまで気合いを入れているのかは不明ですね。
マリアさんは腕を交差させた状態で組んだ手を顔の前に持っていき、ブロッサムさんは親指から中指までを立てた状態の手で顔を覆って相手を見下す表情をしています。
「大事なのは大きさじゃないわ!」
「高々三年程度の歳の差でイキってたロリが言う言葉じゃないわね」
……いつ始めるんでしょうか?
後はもうマリアさんとブロッサムさんの勝敗を決めるだけで順番が決まるというのに。
「少女帝(苦笑)」
「聖母(失笑)」
とりあえず投擲武器の確認でもしますか……おや、海の中である影響なのか火薬玉が使用不可になってますね。
ストレージに入ってた時は特に何も問題は無かったのに、外に出した途端に使用不可の表示が出ましたので海の湿気でダメになったのでしょう。
「「──ジャンケンポン!」」
「「──あいこでしょっ!!」」
「「──しっしっのしっ!」」
「「──怒りのグー!」」
「「──愛情のパー!」」
「「──卑劣なチョキ!」」
「「──正義は勝つ!」」
「「──ジャンケンポン!」」
あ、マリアさんがパーでブロッサムさんがチョキですね。
「くぅっ……怒りのグーを出していればっ!!」
「ふふん、アンタは身長や胸だけじゃなくてジャンケンでも私に勝てないのよ」
「好き勝手言いおってぇ……!!」
どうやら決着と順番が決まったみたいですね、何回もあいこが続く様は少し楽しめました。
「それじゃあお先に失礼」
「いってらっしゃいませ」
「……気を付けてね」
余裕綽々といった風情でブロッサムさんが祭壇の穴から海水に潜り込みます……ちゃんと水位が上がって限界ギリギリになりましたね。
現実ではなくゲームですから、プレイヤーの身長や体重は関係なくて入った人数によって上がる水位が判定されるのでしょう。
「……水位が戻りましたね、それじゃあ私も行ってきます」
「いってらっしゃいませ」
やはりそうですね、三人の中で一番小さい……少なくとも先に入ったブロッサムさんよりは質量も体積もないはずのマリアさんまでもが限界ギリギリまで水位を上昇させています。
もしかしたらマリアさんと一緒に行けないかなと思いましたが、そう簡単にはいきませんか。
まぁ余裕があったとしても、私とマリアさんが足されば普通にブロッサムさんより水位は上昇するでしょうから意味はないですがね。
「……二人ともきっかり六十秒で水面が戻っていますね」
これは時間切れで溺死してしまったのか、時間ギリギリまで使わないと辿り着けないくらいに向こう側が遠いのか判断に迷いますね。
「とりあえず私も行きますか」
今ここで考えても仕方ないですし、仮に溺死してしまったとしても二人と合流するという意味では問題ないのでさっさと進んでしまいましょう。
二人に続き、私もダンジョンの奥へと進む為に祭壇の穴へと身を沈め──
「……なるほど、やってくれましたね」
確かロン老師はロノウェさんの父親でしたね。
本当の親子かどうかは知りませんが、何らかの手段で私とロノウェさんの戦闘を覗き見ていたり、後から知っていたとすれば……私が従魔達を魔統っていた事は把握していたでしょう。
つまりどう足掻いても私は一人以上の判定を受けてしまうので、この先には進めないという事ですね。
「……もしくは、別のルートに流されてしまうか」
溢れ出した海水に反応したのか、祭壇があったと予想できる私が浮いてる穴のさらに向こう側の壁に吊るされていたタペストリーの『クレブスクルム紋』が淡く光り輝き始めます。
水面の上昇の仕方も尋常ではなく、もはや人一人分とかそんな次元ではありませんね……沈没し掛けている船に海水がなだれ込んだかの様な上昇の仕方です。
「さて、何処に飛ばされてしまうのでしょうね?」
やがて水位がタペストリーの紋章と同じ高さまで上がり、沈まないようにバタ足で浮いて顔を出していた私と目線の高さが合うと光がさらに強くなります。
さてさて、私とは確実に別のルートを歩んでいるであろうお二人はどんな感じなんですかね……後で聞いておきましょうか。
「開幕から素敵なサプライズでしたね」
そのまま光に飲み込まれ、私の視界は一時暗転します。
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