第237話記念写真
「ここじゃ」
自分が起こした爆発の衝撃によって削られたHPが『HP自動回復』スキルによって全快したのを確認していた状態から、レーナさんが呼んだ──というか私の攻撃で呼んだ──ロン老師という重要NPCの発した声に意識を戻す。
海の中を下に下に潜り、洞窟っぽい岩礁を潜ったと思ったら気が付けば酸素のある空間へと出ていたみたいだ。
「それじゃあの、次会う時は殺し合う時じゃ」
「楽しみに待ってて下さいね」
レーナさんのいつも通りにズレた回答に呆れた顔をしながら、そのままロン老師は煙の様に消えていく。
どうやら重要NPCの何人かが使える自身の分身を出すスキルを、彼の老人も使えるようだ。
「にしても、ここがそうですか」
「……綺麗ね」
レーナさんの言葉に顔を上げてダンジョンの入口を見る……確かにブロッサムの言う通りとても綺麗で思わず溜め息が出てしまう。
海中にある洞窟を潜り、そのまま浮上する事で入れる空間はオパールの様な不思議な色彩を放つ鍾乳石が乱立しており、それがポツポツと生えている青い水晶からの光を乱反射している。
そんな閉鎖的な空間で擬似的なオーロラの様な明かりで照らされるのは日本の神社と、ギリシャのパルテノン神殿を上手い感じに融合させたかの様な建物……おそらくあれがダンジョンだろう。
「レーナさんレーナさん、記念に一緒に写真を撮りませんか? ブロッサムも一緒に」
「写真、ですか?」
「ふっ、お子ちゃまね」
こんな幻想的な空間にも心動かされた様子もなく、ただ疑問符を浮かべるだけのいつもの調子なレーナさんに比べて
リアルで会った時は心配するくらいオドオドとしてて、知らない人が近くを通る度に自分よりも背が低い私の背後に隠れたり、涙目で服の裾を掴んで縋り付いたりするのに不思議ね。
一度リアルでブロッサムの話題を出したら『ご、ごめっ……』とか言ってたくせに、ゲームでリアルの華子の話を出すと自分で自分を鼻で嗤うという……本当によく分からない。
「あっそ、じゃあ私とレーナさんだけで撮るから少し待っててね」
「……別に撮らないとは言ってないから、どうしてもって言うなら一緒に撮られてあげる」
「あー、はいはい、どうしてもブロッサムとも一緒に記念写真を撮りたいよー」
まぁ? こんな感じにゲームでも華子の面影を感じられる可愛い一面も出てくるし、完全に別人って訳でもなさそうなんだよね。
リアルの華子を見てるとロールプレイ出来るほど器用には全く見えないから、プレイしてるのは姉妹とか別人なのかなって思ってたけど。
ま、そんな事は今はどうでもいいか……珍しくこの三人で遊んで、さらには前人未到のダンジョンの前で記念撮影をするんだから気合いを入れないと。
「えーと、撮影用の妖精を飛ばして……十秒後にお願いね」
メニュー画面から撮影の欄を押して、そのまま課金要素である妖精を飛ばす。
五百円程度の課金で配信や、今回みたいな第三者に撮影を頼む感じも出来るし割と便利。
『では撮りますね』
私の担当である、『第428番サポートAI』……自称よつばちゃんがデフォルメされた小さなキャラが現れ、カメラを構える。
それを確認してからレーナさんを真ん中に、素直じゃないブロッサムがツンと顔を背けながらその左側へ、私が右側へと移動をする。
設定からただの光から羽根が生えてるものとかに変更できるけど、ランドセルを背負った女子小学生がデフォルメされてカメラを構える様が可愛くてこのままにしている。
『撮れましたよ』
「ありがとうございます! また呼びますね!」
よつばちゃんを送還してから撮られた写真を確認する。
そこには何も考えていないんだろうなっていう無表情のレーナさんが後ろ手を組み、その左側で胸の下で腕を組んだブロッサムが顎を上げて見下すような表現をしていて……個性がモロに出るな。
私なんか普通にレーナさんの右腕に左手を絡ませて、そのまま右手を顔の前でピースしてるだけだよ。
「ふっ、目を挟むようにピースだなんて……没個性も良いところね」
「厨二病少女に言われたくないんですけど〜」
普通で良いのよ、普通で……変に目立とうとして失敗するよりかは何倍もマシだし、普通が私の個性なのよ。
習字で『人生』という言葉を書くとして、みんなが同じ字を書いてもトメやハライが違ってくる……それが個性であって、一人だけ別の漢字を書いてもそれは個性とは言わず、ただの馬鹿よ。
だから私は自然体で、自分らしく写真を撮る……二人みたいにね。
「……母以外と写真を撮ったのは初めてですね」
「「──」」
レーナさんのその一言でブロッサムとの口喧嘩が止まる……こう、そういうのサラッと悪気なしに言っちゃう人だからなぁ……仕方ないなぁ、もう。
「……また、写真撮りましょうね?」
「……アンタから頼んで来るのなら、まぁ……また付き合ってあげなくもないわよ」
「そうですね、また撮りましょう」
おっと、奇しくもここでブロッサムとの意見の一致を見たか……ニヤニヤしながら彼女の顔を覗き見れば耳まで真っ赤で笑っちゃう。
本当に根は良い子のはずなのに、なんで慣れないはずの悪役を演じているのかしら?
華子とブロッサムとの境界線があやふやでよく分からないんだよね……同じ人物の様で違うような、違う人物の様で同一人物の様な。
……ま、いっか! 華子は華子、ブロッサムはブロッサムとして接すれば解決よ!
「さぁ、行きますか」
「そうね、そろそろ行きましょう」
おっと、もうダンジョンに入るみたいだ……その前に少し野暮用を済ませよう。
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宛先:ユウ
件名:幼馴染の慈悲に感謝しなさい。
本文:
先ほど撮ったばかりの新鮮な水着写真をくれやるから感謝しなさい!
ちゃんとお礼としてケーキを三回は奢るように!
……あと、変な事に使わないでよね。
img://**********
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ククク、また何か変な事の検証中であろうアイツがこれを見て唐突に噴き出すのが目に見えるわ……周囲の仲間に理由を話す事も出来ず、慌てながら誤魔化す様がありありと想像できてしまう。
最近なぜか付き合いが悪い罰よ、大事な幼馴染である私の相手をしない事を悔いるが良いわ!
……彼女とか出来たのなら、隠さず言えば良いのにな。
「何してるの? 置いて行くわよ?」
「あっ、待って〜!」
一度自分の頬を叩いて気合いを入れ直す……今はレーナさんやブロッサムと遊んでるんだからそっちに集中しなきゃ。
それに彼女達の水着姿を間近で楽しめるのは私だけなのだから、その特権を最大限に享受しなきゃ勿体ない。
「……後から羨ましがっても遅いんだから」
せっかく今日も誘ってあげたのにな……ユウのばーか。
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