第234話海開き
「さて、と……」
マリアさんとブロッサムさんの二人よりも一足先にログインし、浜辺へと移動してから髪をバレッタで簡単に留めて肩から流しておきます。
そのままステータス画面を操作して昨日選んだ赤いオフショルダーとパレオの水着へと着替え、麻布さんをマントから移し替えましょう。
「……無機物の従魔にも性別はあるんですかね」
やけに水着へと直接憑依する事を恥ずかしがる麻布さんの様子に首を傾げてしまいます。
一応はアンデットとか、そこら辺に分類されるのでしょうし……生前の性別が男性の方だったのでしょうか? 井上さんも鎧に憑依させる時は男性っぽい体格になりますし。
だとしたら仮にも女性である私の身体を直接包み込む水着に憑依するのは恥ずかしくて当然ですかね。
「いや、貴方はもう無機物なアンデットなのですから、くだらない私情は捨てて己の役割に集中しなさい」
『──』
うわっ、凄いジットリとした目で見られますね……心做しか他の従魔達も私を非難する目で見ている気がします。
「……お仕置、されたいですか?」
『『『『『?!』』』』』
おー、パタパタガシャガシャと凄い否定の仕方ですね。少し面白いです。
面白いですが段々と煩くなってきたので黙らせて、気になった実験をしてみます。
「さて、と……ポン子さん銛に変化してください」
『──っ!』
了解です! だからお仕置しないで! ……なんていう念話を飛ばされたのを無視しながらポン子さんが変形するのを見守る。
いつもの様に複雑な機構の物へと成る訳ではないので、割と簡単に済みましたね。
「──せいっ!」
『?!』
そのまま銛へと変化したポン子さんを海へと身体全身を使って投擲します。
ポン子さんから伝わってくる悲哀を伴った驚愕の感情と、他の従魔達からの『信じられない……』という念話が少々煩わしいですね。
そのまま海へと落ちていったポン子さんを、予め括り付けておいた糸を手繰り寄せる事で引き上げます。
「……なるほど、やはり漁業なんかに関係する装備はエリアデバフを受けませんか」
穂先にくっ付いていたマグロをストレージに放り込みながらポン子さんのHP等を確認してみますが……大丈夫そうですね。
これは銛でなくとも、槍系統でさえあればデバフは掛からなそうです。
「さて、次は山田さん、ポン子さんに憑依してください」
進化によって剣や刀でなくとも憑依できる様になった山田さんを銛へと変形したポン子さんへと移し替えます……ふむ、出来るようですね。
同じ従魔同士では出来ないのではないかとか考えていましたが、よくよく思い返せば私に影山さんが憑依しているのですから出来ない道理はありませんか。
推測でしかありませんが、同じアンデット同士なら出来ないとかはありそうです。
「──せいっ!」
『『?!』』
そのまま銛へと変化したポン子さんに憑依した山田さんを海へと身体全身を使って投擲します。
ポン子さんと山田さんから伝わってくる悲哀を伴った驚愕の感情と、他の従魔達からの『信じられない……』という念話が少々煩わしいですね。
そのまま海へと落ちていったポン子さん達を、予め括り付けておいた糸を手繰り寄せる事で引き上げます。
「……なるほど、やはり憑依さえしてしまえば大丈夫ですか」
穂先にくっ付いていたカジキをストレージに放り込みながらポン子さんと山田さんのHP等を確認してみますが……大丈夫そうですね。
水中に長く潜る事によって生じる諸々の不都合もありますが、山田さん達は基本的に無機物で呼吸を必要としないので便利です。
この調子なら水着に憑依した麻布さんも、水着の付属品である装飾品に憑依した三田さんも大丈夫そうですね。
影山さんに至ってはむしろ海中という影の多い場所ではよく活躍してくれるでしょう。
「後は井上さんだけですね」
『……』
心做しか井上さんが落ち込んでいるように見えますね……『メッフィー大公領』では割と活確しましたから、その落差についていけないのでしょう。
ですが、鎧ですからねぇ……こればっかりはどうしようも──
「──『神気憑依・井上さん』」
どうにでもなりましたね。
そういえばと、絶対不可侵領域のエルさんが鎧の従魔を憑依させていた事を思い出しので試してみましたが成功ですね。
井上さんを憑依した事はありませんでしたし、今は私は鎧を装備していないのに大丈夫なのかとか懸念事項はありましたが……普通に井上さんの分のステータス増加と、周囲に鎧の部位がバラバラに浮いている状態へとなりましたね。
この鎧の部位達も私の思うままに動かせるようです。
胴体部分を盾としたり、篭手の部分で殴ったりなど、色々と応用が効きそうです。
「……ほほう」
この状態で新たに鎧などを装備する事は叶なわないようですが、影山さんと同じく周囲に浮いている部品達は私という判定になるようで、暫く浜辺に留まってみても、海中に放り込んでみてもHPは減りませんね。
その分ちゃんと〝重さ〟の判定はあるようで、何も対策しないとドントン沈んでいくので注意が必要ですが。
「ま、これで諸々の懸念事項は解決ですね」
あとは私が臨機応変に上手く対応するだけです……と、もうこんな時間ですか。
そろそろマリアさんやブロッサムさんが来る頃ですかね。
「レーナさーん!」
「ちょっと、人のすぐ近くで大声を出さないでよ」
おや、ちょうど二人共ログインして来たようですね。
「じゃーん! どうですか? 似合いますか?」
「お二人共よくお似合いですよ」
マリアさんは紺色のハイネックビキニの上から白のラッシュガードを羽織っているようですね……彼女の白髪のサイドテールが紺色の水着と、微妙に色合いの違うラッシュガードによく映えます。
ブロッサムさんは黒のノンワイヤービキニですね、全体的に飾り気がなく、スレンダーな印象を受けますが、右肩と左腰にワンポイントとしてフリルリボンが付いていますね。
「ふふん! レーナさんも本当によく似合ってますよ!」
「ま、まぁまぁね……」
「そうですか? それは良かったです」
見た目にあまり頓着はありませんが、母からよく『今の見た目に拘りがあるなら別だけど、そうじゃないならちゃんと整えるべき』と教えられましたからね。
私と違ってちゃんとした感性をしているであろう、お二人のお眼鏡にかなったのなら問題はないのでしょう。
「それで? その宙に浮いてる鎧はなに?」
「これですか? これは海中での攻防手段の一つです。……そちらは大丈夫ですか?」
「ふーん……ま、私の鎌は槍の派生だし魔術も氷がメインだからコッチは特に問題はないわよ」
なるほど、ブロッサムさんの鎌は槍からの派生だったんですね……『剣術』スキルから『刀術』スキルが派生する様な感じですかね。
「マリアさんはどうですか?」
「……杖で殴る、的な?」
「なるほど」
確かマリアさんはほぼ完全な後衛職でしたね。
攻撃や防御は私やブロッサムさんが担うとして、彼女には回復や支援を中心として頑張って貰いましょう。
「い、いざとなったら敵の近くで炎を出して水蒸気爆発を起こせますから!」
「それで私達にまで被害が出たら承知しないわよ?」
「ぐぅ……」
まぁ、検証班? とやらであるユウさんが『マリアの炎は厳禁』と言うくらいですから、普通に私達も巻き込まれるだけの爆発なんかが起こるのでしょうね。
マリアさんの炎は本当に超高温ですし、ゲーム内での観測方法は分かりませんが、普通に一万度くらいはありそうです。
「……野次馬が増えてきたし、そろそろ行くわよ」
「うわっ、本当にいっぱい人が来てる」
ブロッサムさんの言葉を聞いてチラッと後ろを確認してみますが……本当に多くのプレイヤー達が集まっているようですね。
何かまた個人が主催のお祭りでも開催されたよでしょうか?
「なに分からないって顔をしてるのよ? アンタも含めて有名なトッププレイヤーが三人も水着姿で居たら好奇心やらで覗きに来る奴らは出るに決まってるでしょ」
「? そういうものですか?」
「そうですそうです、レーナさんの肌が不特定多数の野郎共に視姦される前に行きますよ」
「もう大分手遅れじゃない?」
「ダメコンダメコン!」
マリアさんに背中を押される形ではありますが、まぁ元々海に入る予定でしたし構いません。
「ユウが言うには平均して六十秒が水中で呼吸を止められる限界時間で、それよりも前に海面に顔を出さないと溺死するみたいですよ」
「……割とシビアね」
「潜水時間を伸ばす方法は検証中らしいからね」
なるほど、呼吸が続かなくてスリップダメージを受けるとかではなく、そのまま溺死してしまうのですか。
体感的に六十秒が把握できるようになるまで、こまめにステータス画面をチェックしながら気を付けないといけませんね。
「それでは海中ダンジョンとやらを探しますか」
「やっぱり未踏の地を探索するのってワクワクしますね」
「そうね、今回は本当に私達が最初に足を踏み入れるものね」
銛を構え、興奮を隠しきれないといった様子の二人と一緒に海へと──『クレブスクルムの内海』へと飛び込みます。
「──楽しみですね」
さて、ロン老師は海中ダンジョンでどんなサプライズを用意して待ってくれているのでしょう。
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