第233話水着選び
「まぁ、だいたいの事情は分かったわよ……」
ブロッサムさんのその声に振り返ります。
今私たちは今さら店売りの装備なんか買っても仕方ないだろうという事で、一度『始まりの街』に戻って一国の主であるエレンさんにお願いしていくつかの候補を用意して貰ったところです。
何か良い性能を水着が無いかと尋ねた時の『もう水着でも何でも好きなの持っていけ……』などと太っ腹な事をおっしゃっていたエレンさんには今度なにかお礼をしなくてはなりませんね。
「海中の中を探るのに水着タイプの装備が必要な事も、一国を牛耳ってるアンタが店売りよりも良い品質の水着を用意できるのも良いわよ」
「はぁ?」
はてさて、そんな事がありながらも三人で自分の水着を選んでいたのですが……ブロッサムさんは何をそんなに渋い顔をしているのでしょうか。
何か気に障る事でもありましたかね。
「──けど、アンタのその格好はないわ」
そう言ってブロッサムさんは私が試着してみた水着を指差します。
「レーナさんレーナさん、それよりもこっちにしましょう? ね?」
「……何かおかしかったですかね」
私が今着用しているのはピッチリと全身を覆うタイプの、ダイビングに適した水着の筈です。
長時間も素潜りをするのであれば、このように抵抗の少ないウェットスーツに近い水着の方が良いと思うのですが。
「あのね? ここはゲームよ? 現実じゃないんだから見た目の利便性はあまり考えなくて良いの、水着というだけで行動にバフが掛かるんだから」
「なるほど、一理ありますね……ですがコチラの方が動き易いのに変わりはないのでは?」
「レーナさん、こういう時はお洒落を優先しましょ? ね?」
むむむ、この場では二対一ですか……まぁ一の方が私であるならば、この場合はお洒落を優先するのが『普通』なんでしょうね。
まぁ本当に大した違いはないでしょうから、今着ている物でなくても良いんですが。
「ほら、ここは大胆にビキニとかどうです? レーナさんいつの間にか髪も伸ばしてますし、パレオも似合うと思うんです」
「アンタはスク水に『まりあ』って書かれたのがお似合いだけどね」
「お? (臨戦態勢)」
ビキニにパレオですか……違いがよく分かりませんが、何が良いのでしょね。
そして今さらながらに『メッフィー大公領』から戻って髪の長さを戻してない事をマリアさんに言われて思い出しました。
髪を伸ばしてもあまり気になりませんね……短い方が戦いやすいのかと思っていましたが、水着なんかと一緒でゲームであるが故にそこら辺は考慮しなくても良いようになっているんでしょうかね。
……まぁ、普通に考えたら自らの見た目で有利不利になるようなバランス調整なんかしませんか。
「スク水と言ったらアナタの年齢の方がピッタリじゃないの、胸にデカデカと『ぶろっさむ』って刺繍してあげようか?」
「あ? (即応態勢)」
うーん、海なんてあまり行ったことがありませんし、何が良いのやら……まぁ髪の長さも自由に変更できますし、マリアさん達を参考にすれば良いですかね。
それとももう適当に決めてしまいましょうかね。
ここにある物は性能自体は大した違いはないみたいですし、それでも問題はないでしょう。
「……では適当にこれで」
無造作に並べられた中から適当に手を伸ばして触れた物を引き寄せます。
これは赤い色をした上がオフショルダーで、下がパレオの水着ですね……少しヒラヒラしていますが、まぁ許容範囲内でしょう。
「私は決まりましたが、お二人はどうですか?」
「「──ほぇ?」」
お互いの頬を引っ張り合うという斬新なポーズをしている二人に一応の確認を──この遊びって流行ってるんですかね?
「「
「どうぞ」
じゃれ合いをやめた二人から手を差し出されたのでそのまま渡します。
「「うわっ、でっか……あ、萎んだ」」
私が装備できる様にサイズ調整されていた水着ですが、二人の手に渡った途端に今度は彼女達が装備できる様に大きさを変えたようです。
こんな感じに目に見える形で大きさが変わるのは初めて見ましたが、少し面白いですね。
これが水着ではなく、鎧ならもっと劇的な変化になるのでしょう。
「ま、まぁ? アンタが選んだにしては中々良いんじゃないの? (震え声)」
「そ、そうですね〜、レーナさんにとっても良く似合うと思いますよ? ……私と違って(目逸らし)」
「? そうですか? ……ならこれで良いですかね」
心做しかブロッサムさんの声が震え、マリアさんも目を逸らしている様に感じますが……嘘を吐いている様にも見えないので本当にこれで良いのでしょう。
あとは麻布さんをこの水着に移し替え──恥ずかしい? ……意味が分からない事を言ってないで素直に言う事を聞いて下さい。
「それでお二人はもう決めたんですか?」
「え? あ、はい! ちゃんと決めましたよ!」
「ふん、もちろんよ」
どうやらお二人共ちゃんと決められたみたいですね……後の問題は井上さんや山田さんなんかの従魔をどうするかですね。
三田さんは付属の装飾品として誤魔化す事は出来そうですが、鎧と武器は難しそうです。
……いや、金属製の武器としてなら耐久値が減りますが、従魔としてならどうなんでしょう。
少なくとも毒の沼を歩く様なスリップダメージはあるでしょうが、金属製の装備として二重にダメージを貰うよりかは良いでしょう。
私がこまめに従魔用の回復スキルを使用すれば解決しますね。
なので今回も井上さんと山田さんは独立して動いて貰いましょうか……いや、それよりも先に先ほど思い付いた事の実験をしてからですね。
もしも失敗したならそのまま独立させて行動させましょう。
「どうしますか? 一応試着して見せ合いますか?」
「別に現地で見せ合えば良いじゃない」
「まぁ、それもそうね」
と、山田さん達について考えていたら話が進んでいた様です。
「では海中でのダンジョン探しは改めて明日からにしましょう」
「了解です」
「分かったわ」
今日は平日でしたからね、もう既にリアルでは遅い時間です。
ここから何処にあるかも分からない海中ダンジョンを探すのはあまり得策とは言えないでしょう。
「それではまた明日会いましょう」
「せいぜい遅れないでよね」
「それではまた明日ですね!」
二人に声を掛けた後に一旦ログアウトします。
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