第220話サーディス金融都市資本提携その3

「グレゴリウス様! 前線持ちません! ここまで突破されます!」


「非常口は?!」


 あ、このトリュフチョコレート美味しいですね……このゲーム世界の文明自体が低いせいか、あまり美味しいと思えるうような食べ物はNPC産ではありませんでしたのに……さすがはお金持ちの国で金融業をしているだけはありますね。

 やはり多額のお金を払う事で色んな国から色んな物を仕入れているんでしょうね……経済力は国を豊かにします。

 一時期日本の経済が数十年と停滞していた頃、順調に経済成長して相対的にお金持ちになった国から日本は食料などを買い負けていましたからね……どの国もより多くのお金を出す国に売るものです。


「何故か予め知っていたかの様に封鎖されています!」


「クソッ!」


 その点をこの国……いや、グレゴリウスさんは良く分かっているようです。

 自分の趣味だという事もあるのでしょうが、わざわざ『バーレンス連合王国』との取り引き先に赴いてコチラ側よりも多額のお金を出して様々な物を買い付ける事で間接的で長期的な兵量攻めをしてきていた様ですからね。

 ただの色ボケ狸ではないようで何よりです。

 この難局をどう乗り切るを見極めて、合格点に達したらご褒美・・・をあげましょう。


「……仕方ない、か」


「グレゴリウス様……」


「ええい! 皆の者! 腹を括れ! ここまで来たら殺るか殺られるかだ!」


 むむ、なるほど……このゲームでは一部の料理は食べるとバフが付くのですね……ゲームを始めて最初に泊まった宿の料理がとても不味かったので敬遠していましたが、これは私も料理スキルを取るべきでしょうか?

 ……料理と調薬って何か似ている気がしますし、相乗効果とかあったりしませんかね。


「兵士共は前列! 扉の前を陣取り拠点を築け! 魔術が使える者たちら後衛だ、隙を見て一斉に叩き込め! 非戦闘員は後方で物資の管理だ! ここに居る者はそれくらいできよう!」


 えぇと、料理スキルありますかね……あっ、ありましたね、『調理』スキルです。

 少し名前が思ってたのと違いますが、まぁ同じ物でしょうし取得しますか。

 あとついでに余ったスキルポイントを何か取得しましょうか……良いのがあると良いのですが。


「来ます! 会敵まであと三! 二! 一! ……今です!」


「放てぇ!」


 ……あ、この『詠唱待機』スキルとか良さそうですね、『強化魔術』と一緒に併用していつでも即座にバフを掛けるのに便利そうです。

 早速ですが取得して……まぁ、当たり前ですが最初はストックできるのは一つまでですよね。

 ソロだと戦闘中に詠唱する暇がないので山田さん達に任せっきりだったのが少し解消するかと思いましたが……まぁ良いです。少しずつ上げていきましょう。


「っ! あそこだ! あそこに王女殿下がおわすぞ!」


「ならず者たちから王女殿下を守れ!」


「貴様っ! 今さら何を!」


 とりあえず最初の枠はパーティー全体の詠唱速度を早めるバフに使いましょう……それだけでも単純な底上げになります。

 戦闘開始と同時にストックを解放すれば、詠唱速度が上がった山田さん達のバフやデバフがいつもよりも早く、そしてより多く得られるでしょう。


「殿下を縛り上げておいて何を抜かすか!」


「いいや、殿下はただの客人だ、そうやって嘘を吐いて私を貶める気だな?」


 あ、このジャムも美味しいですね……スコーンに良く合います。

 それにしても、もう少し静かに出来ないものですかね?

 人が食事中だと言うのに埃も大量に舞ってしまっていますよ。

 未だに言語スキルレベルが低いので、彼らが何を言い合っているのかもイマイチ理解できませんし。


「ぐっ、クソッ! ……完全に包囲されてやがる」


 戦況を見るに割と劣勢な様ですね……日和見して逃げないように隠し通路や抜け道までファストリア商会に教えてあげたのはやり過ぎでしたかね?

 いや、でもまだまだ持ちそうですし……ちょうど良い難易度かも知れません。


「あノ〜、姫様は参戦しないのデ?」


「? 私がですか?」


「えェ」


 そっと後ろから声を掛けてきたギランさんの質問に首を傾げてみせます。


「ほラ、旦那様が敗北すれば姫様も包囲されてただでは済みませんヨ?」


「あぁ、それはら私一人だけなら余裕で逃げ切れるので大丈夫です」


「……」


「状態ですよ、折をみて私も参戦します……私だけ生殺しなのは嫌ですからね」


「……そうですカ」


 あれだけ目の前で派手に遊んでる方々居ますのに、私一人だけ蚊帳の外で仲間はずれだなんて酷い事を許容する訳がありません。

 彼らが嫌がっても、無理やりにでも……絶対に一緒に遊んで貰います。


「れ、レーナ殿! どうか助太刀を頼めないだろうか!」


 ……どうやらタイミング良く限界が来たようですね。

 滝の汗をかきながらグレゴリウス様が私に対して参戦要求をして来ました。


「どうかレーナ殿の騎士殿にも助太刀を​──」


「​──あれ、私はダメなんですか?」


 あれ、おかしいですね……なぜ井上さんには参戦要求をするのに私はスルーなのでしょう?

 私だけ仲間はずれなのでしょうか?


「え、しかし令嬢よりも騎士の方が……?」


「……あぁ、なるほど」


 そういえば私はギランさんにも戦っている姿は見せた事はないですし、戦闘に関する報告も井上さんが主体だったのでしょう……今だって呑気なドレス姿ですし、仕方ないですね。

 持っていたお皿とグラスを近くの机に置いて向き直りましょう。


「ご心配なさらず、むしろ私に出させてくださいませ」


「は、はぁ……?」


「……いいんじゃないですカ?」


 困惑気味に私から視線を移して問い掛けるグレゴリウスさんに対して、ギランさんは軽く肩を竦めながら私の味方をしてくれます。

 すっと細められた目から伸びる視線からは私を見極めようとする意思を感じられますが、まぁどうでも良いでしょう。

 今の私は遊びを前にしてワクワクしているだけの子どもですから、何も得られるとは思いませんけどね。


「​──『神気憑依・影山さん』」


 足下からぶわっと膨れ上がった影が私を包み込むと同時に、背後に立っていた井上さんが縦に内側から開くように割れ、中から闇を溢れ出しながら影山さんの影ごと私を抱き締めるように倒れ込みます。


「「​──」」


 それらの一切を拒絶する事なく、ドレスの上から井上さんという軽鎧と影山さんという純粋な力を魔統まとい、井上さんのマントからドレスへと麻布さんを移し、山田さんを私の短刀へと乗り換えらせれば準備は万全です。


「……では、行ってきます」


 呆気に取られた様なギランさんとグレゴリウスさんの二人をその場に置き去りにして、とても楽しそうなダンスパーティー会場へと私も参加するべく、駆け出します。


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