第221話メッフィー商業立国経営統合

「​──《影刀》」


 影山さんの影によって短刀の刀身を延ばしながら一気に跳躍し、身体ごと捻るようにして上から『大太刀術』スキルの《橘一閃》を振り下ろして敵の真ん中を一直線に走る空白を生み出し、そこに降り立ちます。

 呆気に取られる両軍のド真ん中ではありますが、ドレスの裾を翻して仕込んでいた糸を射出します。


「​──《写し影絵》」


 影山さんの憑依時に使用できるスキルを使用して、さらに糸の本数を倍にする事で完全にファストリア商会軍の逃げ馬を閉ざします。

 狭い正面廊下から抜け道、裏門まで含めて糸によって扉などを閉ざして固め、吹きさらしの空間では束ねて囲うようにして閉じ込めます。


「​──《Shall we dance》」


 今回の私の服装はズボンではなく、ドレスですのでいつもの『体術』スキル等は使えませんし、補正も乗りません……ですが、代わりに『舞踏』スキル等が役に立ちます。

 普段は『体術』スキルと併せて少し身体の動き等の細かい身のこなしで助けてくれるだけでしたが、こういった服装であるならば立場は逆転です。

 今回は『舞踏』スキルがメインに私の身体を動かし、『体術』スキルが細かい補佐をします。


「​──《剣の舞・桜花》」


 『舞踏』スキルの《Shall we dance》は任意の相手にマーカーを付けて補足し、命中率を上げたり背後に居ても相手の気配や呼吸などがわかり易くなる程度の物でしかありませんが、ここで『舞踏』スキルと『剣術』スキル等を一定レベル以上にする事で取得できる『剣舞』スキルを使用する事で、技を全て必中・・にする事が出来ます。

 ……と、ユウさんが言ってました。

 それによって私が一歩ステップを踏むごとに敵の腕や胴体部分を大太刀が通過し、人間の部位と血飛沫が桜吹雪の様にダンス会場に舞散ります。


「……必中ではありますが、狙って特定の場所には当てられませんか」


 私のスキルレベルがまだ低いという事でしょうか? まだまだ結構な討ち漏らしがありますね……腕や脚を失ってもまだ死んではいない様です。

 ……やはり狙うなら首ですね、ここからは必中効果は無視して命中率上昇の恩恵だけを享受しましょう。

 スキルモーションに身体を任せるよりも、自らの意思でスキルを使用するした方が私には合っているようです。


「という事で、実験はだいたい成功ですね​──《剣の舞・紅桜》」


 顔のすぐ横に大太刀を構え、そこから弧を描くようにして目の前の兵士の首を薙ぐ……右上から左下へと駆け抜けたその勢いを殺さずに腰を捻りながら一歩後ろへとステップを踏めば、背後にいた方の左肩の下から首までを黒い一閃が通り抜ける。

 綺麗な切断面から少しの間を置いてから勢いよく細かい飛沫・・が飛び出していき、質量がぼぼないそれらは舞うようにヒラヒラと……紅い桜の様にこの場に居る私たちに降り注ぎます。


「……赤いドレスでも、近くに寄れば目立ちますね」


 やはりドレスの赤よりも血の紅の方が色は濃ゆい様で、近くに寄ってみれば私のドレスが汚れている事は一目瞭然です。

 ですがまぁ、これはこれで……血の斑点が模様なんだと言い張れなくもない良い塩梅ですね。

 血溜まりの上を飛び跳ねる為か足下に近い方が多くの血を被っていて、上半身に近く成程に斑点へと変わっていく様を少しだけ気に入りました。

 思わずスクリーンショットを撮ってしまうくらいには。


「ひっ!」


「ば、化け物……」


 時には床の血溜まりを跳ねさせる様に強くステップを踏んで踏み込み、ヌルッとした大量の血液を利用してスライドステップ足を滑らせて……今回はマントではなくドレスに麻布さんが憑依しているからか、裾が長い服装でも足さばきの邪魔になりません。

 マントから後ろに引っ張られる様な無理な挙動からの回避は出来なくなりますが、こういう状況では全然アリですね……屋内なので矢もあまり飛んで来ませんし、井上さんと併せて実質360度の全てに目がある事も変わりありませんから、あまりデメリットにもならないでしょう。


「​──あっ、見つけました」


「​──ッ?!」


 今、目が合いましたね……まさかディルク・ファストリアご本人が前線にまで出て指揮を執っているとは思いませんでした。

 そんなに王女様が好きなのでしょか? ……私にはあまり分からない感情ですね。


「まぁ、当主でなくとも構いませんか」


「ぐっ! 全員備えろ! 来るぞ!」


「若様を守れ!」


 大きな盾を持った重装歩兵が前列に、その後ろを長槍隊が槍を構えてカバーし、さらに後ろに魔法職……ですか。

 こんな屋内で、さらには混乱しているであろうに咄嗟にファランクスの様な陣形を取るなど凄いですね。

 もしかしたら雇われ傭兵ではなく、ファストリア商会子飼いの私兵なのかも知れません。


「​──まぁ陣形なんて意味無いんですがね」


「『っ?!』」


 最初に飛ばして仕込んでおいた糸で重装歩兵達の足首を捉えて一気に天井近くまで引き上げ、そのまま鎧の隙間から挿し込んだ糸から新開発した毒をプレゼントです。

 突然の事に驚き、また上から重装歩兵たちの絶叫と共に降ってくる彼らの全身に生じたイボが破裂して噴き出した血液に目を奪われた長槍隊に向けて火薬玉を投擲します。

 重装歩兵達と違ってノックバックには弱い彼らが魔術隊の方へともつれ込んだところで​──詠唱待機していた《魔術倍化》の付与魔術を発動します。


「​──埃って集めてから纏めて掃いた方が楽だとは思いませんか?」


 必死になって体勢を立て直そうとする長槍隊の面々と、レジストするべく詠唱を急ぐ魔術隊に向かって上から重装歩兵たちの死体を落としてさらなる妨害をしつつ、山田さんをはじめとする私の従魔たちによる現時点での全体攻撃魔術が殺到します。


「……」


 後に残ったのは丸裸になった敵の総大将​──間抜けな顔をしたディルク・ファストリアその人のみです。


▼▼▼▼▼▼▼

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る