第217話サーディス金融都市資本提携
「姫様、どうやらグレゴリウス様が直接お会いしたいそうデ……こちらが招待状になりまス」
「おや、お早い対応で」
ギランさんから差し出された手紙を受け取り、開いて読みます……内容を要約すると『コチラは全面降伏の用意がある……けれど支援者たちを納得させる為に直接出向いてほしい』という、迂遠な言い回しで書かれた本文と夜会への招待状ですね。
見た目は殊勝ですが、自分の目で直接確かめてもしも私が期待外れだったらそのまま仲間と一緒にリンチにする算段でしょうね。
期待通り、もしくはそれ以上だったら予定通りに降伏すれば良いだけですし……どっちに転がっても良いように書かれていますね。
「日にちは三日後の夜ですか……」
うーん、まぁ……三日もあれば準備はだいたい出来ますかかね……流石に国境の拠点に貴族が夜会に出る様なドレスはありませんでしたが、あの何やら使命感に燃えている王女様に頼めば一着や二着程度なら用意してくれるでしょう。
「エスコート相手はどうするのですカ?」
「それはイノセンシオに頼もうと思っていますが……なんならギランさんでも良いんですよ?」
「……いエ、騎士様に殺されそうなのでやめておきまス」
不満げに身体、というか鎧を揺らす井上さんには悪いですが……偽名を名乗らないと不自然に思われるので仕方ありません。
それにイノセンシオって、スペインの男性名っぽくてカッコイイと私は思いますよ? ……多分ですが。
「ではそろそろ観光案内の方が来ますので、私は行きますね」
「それでは承諾の旨を伝えておきまス」
「えぇ、よろしくお願いします」
ギランさんが静かに音も立てずに去っていくのを見送ってから、髪を結い上げます……今日はポニーテールではなく、お団子にしましょう。
この後王女様に夜会用の衣装を見繕って貰う予定ですし、邪魔にならない髪型の方が良いでしょう。
「では行きますか」
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『こんにちは、今回お嬢様の服を用意させて頂くディーンと申します』
「今回はよろしくお願いしますね」
……なるほど、偽名を名乗っているようですが通訳をしている王女様のバツが悪そうな顔を見るにこの方がディルク・ファストリアですか……『アリューシャ諸言語』は使用できない様ですが、流石に自分の街で王女様が私という怪しい他国の貴族と何回も会っていたら気付きますし、警戒しますよね。
最初に衣装が欲しいと頼んだ時は怪訝な顔をし、そろそろ帰国するからという嘘の理由を話せばパッと嬉しそうな顔で請け負っていたというのに……今は挙動不審ですし、この王女様も中々に面白い反応を見せてくれますね。
『お嬢様は好きな色等はございますか?』
「……そうですね、赤や黒なんかが好きですね」
『それは奇遇ですね、私もお嬢様には赤のドレスが似合うと思っておりました』
ここではただの服飾関係の承認を装うつもりなのでしょう……チラチラと井上さんを気にしているところを見るに、だいたいの事は王女様の主観混じりに聞き出していそうですね。
私も彼の正体に気付かないフリをしながら、さっさと衣装を購入してしまいましょう。
『お嬢様の国ではどんな衣装が流行っているのでしょう?』
「……そうですね、流行はこの際あまり気にしなくても良いです。せっかくですからこの国の特色を出したいですね」
しれっと私の出身を探って来るディルクさんを躱しながら、無難に『この国の良いところを親にも教えてあげたいのです』と褒めておきます。
わざわざ貴族の令嬢に褒められた事を翻してまで、自国で流行している物の方が良いですよとは言い難いでしょう。
『……それでしたらコチラの二着がよろしいかと存じます』
……あぁ、なるほど……何故この方は男性であるのに未だに部屋に留まっていたのかが理解出来ませんでしたが、これはゲームでしたね。
誰がどんな風に作った装備であろうと、身につければ自動でサイズ調整されるのですから、わざわざ仕立てたりする為の採寸するという行為自体が要らないのでしょう。
プロがデザインした物を流行を追いつつ綺麗に作るだけでも良いのですから、楽ですね……個人の好みに寄るオーダーメイドでも図案を渡して終わりです。
『他に何かご注文はありますか?』
「……では、動きやすいようにその二着にこういった改造を施してください」
脚に深いスリットを入れる事を提案しますが……まぁ大丈夫でしょう。
どうやらこのゲーム世界にはビキニアーマーなる物があるくらいですし、この程度の露出ならちょっと渋い顔をされる程度で済むと思います。
『……このデザインは何処かの流行りで?』
「いえ、個人的なものです……いざと言う時にきちんと護衛されるように」
『……』
『……なるほど、理解致しました』
私がさり気なく井上さんを見上げれば、彼は何を思ったのか……チンッと、腰に下げた剣の鍔元を叩き、甲高い音を響かせて威圧します。
それをどう受け取ったのか……恐らく『余計な詮索を続けるな』と釘を刺されたとでも受け取ったのでしょう。
それっきりディルクさんは当たり障りのない雑談に終始していましたね……まぁ、見かけはただの雑談でも、より高度な情報収集をしているのでしょうから私もハッキリとした返答はせず、言質は取らせないようにします。
『最近は砂糖や茶葉が高くなりましてね』
「あらあら、そうなのですか? そういった細かい雑事は下々の者たちに任せておりますので……」
この大陸で砂糖が手に入るのは穏やかな内海による船貿易が盛んな『ベルゼンストック市』が一番多いですからね……そこから砂糖に対する認識の変化があるかどうかで私が『バーレンス連合王国』の者か否かを探ろうとしたのでしょうが……私は世間知らずのお嬢様なので知りません。
なので砂糖や茶葉に高い関税を掛けまくって他国の非難と引き換えに戦費を蓄えているらしい『バーレンス連合王国』の貴族か、そうでないかも教えません。
ついでに『貴族の私が下々の者たちの仕事について把握しているとでも? ……無礼ですよ』という意味を込めて返事をしておきます。
『では二日後に送らせて頂きます』
「分かりました、では観光案内さんは続きをお願いしますね」
そうしたテーブルの下で足を蹴り合う様なやり取りを交えつつ、衣装選びも全て終わりましたのでさっさとこの場から退散しましょう。
『■■■、■■■■■■……?』
「わかってるわ。……では今日は何処から行きましょう?」
「そうですね──」
何事かを王女様に言いつつ、名残惜しそうに退出するディルクさんを横目で観察しながら……私は観光ではない、この後の計画を立てます。
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