第216話セカンディア工業都市訪問営業その3

『■■■■?!』


 銃口がこちらに向けられると同時に、手に絡ませた鋼糸を引っ張る……それによって天井の柱を経由して彼の腕を後ろに引っ張り上げ、急に狙いの逸れた弾丸が頬を掠める。

 ……割と精度が良いですね? さすがにこれだけ近ければ避ける事も弾く事も難しかったですので、彼が懐から取り出した時に仕込みをしていて良かったです。


「驚きで母国語が出ていますよ」


「っ! ……さすがに一筋縄ではいかんか」


 先ほどまで流暢にコチラの言葉である『アリューシャ諸言語』を使用していましたのに……あの方が少し偉い立場だったのかも知れませんが、ただの兵士ですら多言語というのは少し想像以上でしたね。

 恐らくですが、私の国に密偵を放ったのもこの方ではないでしょうか?


「南西へ放った密偵は戻って来ましたか?」


「……なるほど、最初から討つべき敵だったか」


 この国の行く末がどうのと、長々と話していましたし、これだけの工業製品です……他国の資源は必須でしょう。

 この国の小さな領土では自国の需要すら賄えないに違いありませんね。

 奇跡的に大量の資源が眠っていたとしても、それこそさらに技術力が上がらなければ採算は取れないでしょうし……この方の国力増強とは即ち他国の侵略という事です。


「……ふふ、貴方も後者だったという事ですね」


「……話を聞いておるではないか」


「えぇ、ですが詰まらなかったです」


「そうか​い」


 ギチギチと鋼糸を手繰り寄せ、締め付ける事で彼の抵抗を抑えつける……そのまま腕を切り落としても良いのですが、この後を考えるとそれもダメなんですよね。


「貴方には二つの選択肢があります」


「……二つだと?」


「えぇ、今ここで死ぬか、私の言う通りに動くかです」


 人差し指と中指の二本を立てて目の前の重要NPCである​──ブルース・セカンディアに問い掛けます。

 ……まぁ、涙が出てしまうくらいに素晴らしい愛国心をお持ちのこの方の事です……答えはわかり切っています。


「ふん、さっさと殺すがいいわ」


「そうですか、それは残念です」


 わざとらしく物憂げにため息を吐きつつ、ゆっくりと彼に近付いてその頬を撫でます……怪訝な顔をする彼に構わずそのまま滑るように耳元に指先を移動させ​──


『キュー、キュ』


「っ?! ま、待て! 何をする気だ?!」


「さぁ? なんだと思います?」


 ​──くるりと裏返した指先から太郎さんを取り出します……狼狽え、抵抗しようとする彼の四肢を鋼糸で拘束し、よくよく目の前で太郎さんをお披露目してからそのまま耳から入れてあげます。


「ああぁぁぁぁあああ???!!!?!?!」


 必死で太郎さんを耳から追い出そうとデタラメに頭を振るブルースさんを見て、確かこんな感じに頭を振りながら興奮する音楽があったという事を思い出しました。

 なんでしったけ? 重たい金属……的な名前のジャンルだった気がします。


「おっ、おっ、おっ、あっ、えっ、あっ、おっ」


 だらしなく開けた口から唾液をダラダラと垂れ流し、焦点の合っていない目をグルグルも回しているブルースさんの頭皮がボコボコと蠢いているのを見るに、太郎さんに脳みそでも吸われているんですかね?

 確か中国辺りでは豚や羊の脳みそを食べると聞きましたし……意外と美味しかったりするんでしょうか?


「さて、と……」


 太郎さんのお食事が終わる前にブルースさんが取り落とした銃を拾い上げます。

 うーん、リボルバー式で弾は同時に八発まで込められるようですね……口径は思っていた以上に割と大きく、三十八口径……だいたい九ミリ程度の物ですね。

 確かに至近距離では私でも予め備えなければ避ける事も弾く事も出来ませんが、果たしてこのゲーム世界で銃は有効的なのかどうか​──


《​​ワールドアナウンス:ブレイヤー名レーナが初めて銃を発見しました》

《これによりプレイヤー達は特定の場所や人物、クエストから同ジャンルの武器を入手できる様になりました》

《また、これによって同時に新クラスである〝ガンナー〟が解放されました》

《詳しくはこの後一斉に送られる概要欄か神殿にて神託をお受けください》


 ​──十分に有効的になるようですね、この展開はちょっと想定外でした。


「……まぁいいです、とりあえずポン子さんはこの銃の構造を覚えてください」


『……!』


 これでポン子さんも眼鏡以外の使い道ができるでしょう……それに、まだガンナーのクラスを取得すると決めた訳ではありませんが、もしもポン子さんが銃になり、それが武器と認められるのなら……ガンナーと魔統師の補正が両方乗ったりしませんかね?

 ……まぁその前に、私は早くフォースクラスとフィフスクラスを解放しないといけないんですけどね。


「では丁度太郎さんのお食事も終わったようですね」


 ポン子さんが戦利品である銃を解析している間に、糸で吊るされたブルースさんの死体の耳から太郎さんが這い出て来たのでそれを回収しつつ、ブルースさんの頭に手を添えます。


「さて、上手くいくと良いのですが……」


 この前のイベントで新たに取得した新スキルですが、手に入れたばかりなのでレベルが低いんですよね……新エリアに居たような重要NPCにも通じるかどうかは未知数ですね。


「​──『死霊魔術・再起』」


 さてさて、私に絶対服従な傀儡にできればそれで良いのですが​──


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差出人:ユウ

件名:レーナさぁん?!

本文

レーナさぁん?! あなたまた何かやらかしましたね?! ちょっと詳しく教えてくださいよぉ!!

今どこですか?! 『始まりの街』ですか?! すぐ行きますね!!


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差出人:マリア

件名:さすがレーナさんです!

本文

なんですか! 新たなクラスのガンナーって! 銃を発見って!

さすがはレーナさんです! 私も一緒に遊びたいです! 今どこに居ますか?! ユウが『始まりの街』に向けて疾走してるのが見えたのでそこですか?! 私も直ぐに向かいますね!!


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差出人:ハンネス

件名:おいコラクソ女

本文

銃とかお前が一番持っちゃいけねぇブツだろうが、今どこに居やがる?


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差出人:変態紳士

件名:まずはおめでとうございます。

本文

レーナ 様


お世話になっております。

変態紳士でございます。


まずはお祝い申し上げます。

またこのゲームでの新要素を周囲よりも一足早く手に入れられたのですね。


この変態紳士、一人の友人として心から喜ばしく思います。


それではまた機会がありましたら愛し合いましょう。


PS.私の鋼の肉体美と銃弾、どちらが強いのでしょうね?


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差出人:ブロッサム

件名:今どこよ?!

本文

絶対に追い付いてやるんだから、そこを動かないでよね!!


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差出人:絶対不可侵領域

件名:僕は犬派

本文

連れとちょっとした言い合いになっちゃってさ、僕は犬の方が好きなんだけど彼女は猫の方が好きだって言うんだよね。


一条さんはどっちの方が好き?


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 ​​──立て続けに鳴る着信音に一瞬だけ硬直しつつも、一つ一つに返事を返していきます。


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宛先:ユウ

件名:違います。

本文

大陸北部です。

間に合うと良いですね。


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宛先:マリア

件名:ありがとうございます。

本文

今は大陸北部です。

また今度一緒に遊びましょうね。


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宛先:ハンネス

件名:失礼ですよ。

本文

そんなに私に会いたいのなら探してみてください。


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宛先:変態紳士

件名:嫌です。

本文

せめて布面積を増やしてから出直して来てください。


PS.鋼と銃弾なら厚さによると思います。


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宛先:ブロッサム

件名:お誘いですか?

本文

たまには一緒に遊びますか?

今大陸北部に居るので、良かったらどうぞ。


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宛先:絶対不可侵領域

件名:熊です

本文

犬も猫も簡単に死んでしまうのであまり好きではありません。


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 ……暫くはこれで良いでしょう。


「無事にアンデッドに出来たみたいですし、次に行きましょうか」


 跪く元ブルースさんだった従魔に生前と同じ様に過ごす事を命じながら屋敷から脱出します。

 出来たら殺した兵士達もアンデッドにしたかったのですが、さすがにMPが足りないようですから仕方ありませんね。


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