第214話セカンディア工業都市訪問営業

「ここがセカンディア商会ですか……当主は何処に居るか分かります?」


「……いエ、さすがにそこまでは知らないですネ」


 一時的に井上さん達を全員魔統った完全フル装備で走って『セカンディア工業都市』にまで来ましたが……また随分と同じ国内なのに雰囲気がガラッと変わりましたね?

 『ファストリア農業都市』はまだ馴染み深く、今まで活動していたエリアの街とそう変わりのない長閑な街でしたが……ここはあちこちから身体に悪そうな黒い煙がもくもくと立ち、それを街灯が照らすという……少しスチームパンク的な第二次産業革命初期って感じですね。


「そうですか、では自分で探しますので手紙を届けに行っても良いですよ」


「……ホッ」


 なにやら安堵の息を吐いてから今いる工場の屋根から飛び降りるギランさんを見て、そこまで怖い何かがあるのでしょうかと首を傾げます。

 ……まぁいいですか、乗り込んでから考えましょう。


「……まずはこの工場でも爆発させますか」


 匂い的に火薬を大量に生産しているでしょうし、よく燃え広がりそうです……大きな音もあがるでしょうし、ある程度の警備兵は引き付けられますね。……避難誘導なんかもあるでしょうし。


「……ついでに軽めの毒も散布しておきましょう」


 では​──私を売り込みに行きますか。


▼▼▼▼▼▼▼


「な、なな、何事だぁ?!」


 工場を爆発させてから時間差で訪問営業です……驚きに目を見張る下男の喉を掻き切ってから、彼の懐から鍵の束を奪い取ってから目に見える扉を開けては部屋の住人を殺し、また鍵の束があればそれを奪い取って次の部屋へ行くことを繰り返します。


「……おっと、ごゆっくり」


 開けた扉の先が丁度兵士たちの寮の様なものだったようで、慌てて着替えている彼らと鉢合わせてしまいました……殿方の着替えに乗り込むなど、勘違いした輩にそういう目に遭わされるかも知れないでしょ! と、母に怒られてしまいますね。


「……さて、もしやここから先の廊下は全部兵士が詰めてるんですかね? だとしたら一旦引き返して​──」


「​​──って待て待て! 敵襲ー! 敵襲ー!」


 声に振り返ってみれば先ほどの兵士さんがズボンを持ち上げながら大声を張り上げていますね……職務に忠実なのは良いですが、淑女の前に出る格好ではありませんね?


「……ちょっと、なんて格好で表に出て来ているんですか?」


「え? あれ、俺もしかして侵入者に注意されてる……?」


 ポカンとした顔でこちらを見る兵士さんに首を傾げれば、あちらも同じように首を傾げます……何を勘違いしているのかは知りませんが、なぜそんな不思議な目で私を見るのでしょう?

 確かに先ほどは私の不注意でしたが、今回は彼の故意によるものです……よって私が被害者です。


「そうですか……これでも私も淑女なのですが、女として見られていないのですね……」


「うぇっ?! い、いやそんな事はないぞ?! 君は十分魅力的な女性だ!!」


 おっとりとした様子で伏し目がちに床を見つめ、頬に手を当てて落ち込んだ様に見せれば慌てた様子で兵士さんは言い募りますが……まずはきちんとズボンを履いてくださいませんか?


「ズボンを脱いだ状態で私に近付く気ですか……?」


「あ、いやこれは​──カヒュッ!!」


 慌ててズボンを引き上げようと、私から目を離した瞬間に彼の股間を思いっ切り蹴り上げます……衝撃で足が床から離れ、白目を剥いて口から泡を吹きながらながら天井に頭を打つ彼を、今さらながらに集まって来た他の兵士たちが三者三様の蒼白顔を晒して見詰めています。


「……隙だらけですよ」


 まぁ狙ってこの状況を作り出したんですがね……これである程度の兵士は纏めて掃除できるでしょう。

 未だに口を開けて惚けている兵士の喉を掻き切り、その方の腰から引き抜いた剣を彼らの後方へと投擲して頭をかち割ります。


「こ、このっ​──」


「​──『影槍』」


 それによって生じた小さな隙間を縫って彼らのド真ん中に躍り出ると同時に、夜中でありあまる影を影山さんに操作して貰って作り出した槍を床から大量に生成し、彼らを串刺しにします。

 ひぃ、ふぅ、みぃ……だいたい二十人くらいは始末できましたかね? 屋敷に駐屯している分はそんなに多くないでしょうし、残りの兵士が外の爆発事故・・・・から戻って来るまで大分余裕ができたと思います。


「というか、だいぶ奥に兵士たちの部屋があるんですね……」


 こんな奥まった場所に集めてても不便でしょうに……どういう利点があるのでしょうか? 私の侵入に真っ先に気が付いたのも下男でしたし、あまり良い立地とは言えないと思うのですが。

 ……いや、この先に守るべきもの・・・・・・があるんですかね?


「……だとしたら、この先が会長の寝室……もしくは金庫だったりしますかね」


 どちらであっても、私は一向に構いませんが……できれば会長の部屋だったりすると手間が省けて良いですね。

 後は出来たらこの都市の技術とかを盗めたら上々でしょうか?


「……うーん、エレンさんに対するお土産としては微妙ですかね」


 そういえば彼の好きな物とか何も知りませんね……帰ったら聞いてみますか、恐らく彼も私の善意に泣いて喜ぶでしょう。

 私が他人の為に何かをしてあげようということは珍しいですし、母もそういう女性が何かをしてあげると喜ぶ人は大勢いるから最終兵器にしなさいとか言ってた記憶があります。


「ギランさんちゃんと仕事しているようですし、私も頑張りましょう」


 横道に逸れた思考を無理やり戻し、花子さんと武雄さんの眷属から送られて来る情報からギランさんが今はちゃんと指示に従っている事が分かって少しだけ警戒度を下げます。


「……まぁ何かあれば即座に殺しますが」


 彼が裏切った場合の処遇を考えながら、会長室と書かれた札がある部屋の扉を開きます。


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