第213話ファストリア農業都市観光案内その4
「──で、ここが『ファストリア農業都市』で、こっちが『セカンディア工業都市』、そしてこれが『サーディス金融都市』ですネ」
そう言って、どこか遠い目をしたギランさんは机の上に置いた戦利品である地図に描かれた都市をを一つ一つ指差しながら説明してくれます。
彼の後ろでは花子さんと武雄さんが絶賛眷属量産中です。
太郎さんはまだ成長しておらず、自身の眷属を作成する事は出来ませんので、先ずは彼を成蟲にする事が先ですね。育て方はイマイチよく分かりませんが。
「大公選挙について語る前に、先ずはこの国の成り立ちと各都市と商会の役割とイデオロギーについて語らねばなりませン」
この『メッフィー商業立国』の成り立ちは少し特殊であるらしく、その都市の並びから建国に於ける
「この『メッフィー商業立国』は
『メッフィー商業立国』の母体となった国は完全な絶対君主制であり、強力なピラミッド型の権力構造によって支配されていて今よりも領土も人口も国力も大きかった……らしいですが、度重なる重税や理不尽な民衆への弾圧に耐えきれなくなった三つの商会が手を組み、静かに貴族達の力を削いでいったらしいですね。
時には貴族に金を貸し、その経済力で……流通を操作し、特定の領地に特定の物資を滞らせる……行商人を利用し、貴族の目の届かない下から不満を煽る情報操作……さらには借金のカタに取り上げた貴族の領地を切り売りする事で周辺の大国の後ろ盾も得て、外交にて圧力を掛けて貰う……気が付いた時にはもう何も出来る事がないくらいに当時の諸侯達は疲弊し切っていて、中枢まで切り込まれていたようです。
ゲームではありますが、歴史が面白いです。ユウさんの様な検証ばかりしている人達が居るのも納得ですね。
「そうして王族以外の貴き血を排し、また王族を監視するために当てつけのように王都を囲むようにそれぞれ商会が自分たちの都市を建設しましタ……まぁ端の方の国土はもう他国に売ってしまって残ってなかったというのもありますガ」
しかしながら革命が成功したからと全てが丸く収まる訳ではなく、貴族を廃してしまったがために
……まぁ考えてみれば当たり前の事ですね、貴族というのは偉いから偉いだけではありません。
その土地に長年住み続けて来たが故の積み重ねや人脈というのがあります……当主が一言命じれば相当な兵力が動員できますし、その家の分家、またその分家とドンドン下へと命令すれば一つの家だけで数万の数を揃える事もできるでしょう。
さらには妻や母親の実家に援軍を要請すればさらに数は増えます……まぁこれは極端な例ですが、貴族とはそういった土地だけではない、人脈という財産を代々受け継いでいるから強くて偉いのです。……戦後、爵位を失ったり力を落とした華族達が未だに社交界に呼ばれる理由でもありますね。
だからかの商会達も武力での革命は避け、借金や兵糧攻め、一時的に不満分子を焚き付けるなどして彼らの得意戦術の使用を禁じつつ、自分たちの得意戦術で殴ったのでしょう。
「そうした伝手のない商会では精々が他国よりも多く傭兵を揃えられる程度……ではどうするのかと言うト」
「貢納金外交ですか」
「……そうでス」
商人にとって一番大事なのは販路と生産地……自分たちの土地が必ず必要ない訳ではないでしょうが、優先度は下がります。……だからといって国自体が無くなっては苦労して革命した意味が無い。
そして幸いにも、王族を監視するために建設した都市がそれぞれの商会の特色を色濃く反映した珍しいものとなり、国の産業や税収といった面から見ても大きなものとなった……その経済力を背景に周辺の大国へと莫大な貢納金を支払うなどする事で兵を引いて貰ったり、逆に庇護して貰っていたと。
「ですガ、貴族というものは金銭以外に価値を見出すものでしてネ……平民が国の舵取りするのだけは同盟国は許さかなかっタ」
……なるほど、すぐ隣国に貴族以外が治める国という前例と実例を作りたくなかったのでしょうね……革命のゴタゴタで疲弊しているこの国に強烈な圧力を掛けた事は想像できます。
……それ故の大公選挙ですか。
「王族に支配されるのは嫌ダ、かといって自分たちが国の舵取りをすれば貢納金に関係なく周辺諸国が侵攻して来ル……その折衷案としての大公選挙でス」
例年では各商会の当主、先代当主、次期当主のいずれかと王族の男子が一人立候補し、争う……体裁を取り、それぞれの商会の候補者が王族の男子に投票する事で必然的に彼らの票も王族に流れ、各商会は建国以来のパワーバランスを崩す事なく、また各商会の後ろ盾によって大公に選ばれた王族は何かあれば容易に引き摺り下ろす事ができる傀儡となる……周辺諸国に対するアリバイも作れる、と……よく考えられていますね。
「ですがココ最近は情勢がガラッと変わりましてネ……今の王には娘が一人しか居らズ、王の弟であった大公が死去しまして今は空位なんですヨ」
建国からの慣例で大公は男性でないと務まらないけれど、かといって王族には王女が一人しか居ない……大公が長い間空位なのも非情に拙い。
「──なのデ、次の大公に選ばれた方が王女と結婚して王族になるのですヨ」
「……なるほど、それはパワーバランスが崩れますね」
なるほど、それは他国から来た私を警戒する訳ですね……正規の手続きにしろ、無理やり既成事実を作られるにしろ、他国の息の掛かったものが王女と結婚してしえばさらにややこしくなります。
「そしてそんな事情がある為に建国以来仲良く手を取りあって来た各商会の方針の違いが鮮明になリ、三つ巴の全面対決の様相を呈していまス」
『ファストリア商会』……農業主体であり、他の商会とは違って自分たちの土地が脅かされるのが何よりも損失に繋がる。……そのため他国任せの防衛に反対し、近所である『中央大陸西部』地方の動乱に危機感を募らせ、王政復古と力ある貴族や商会による完全な自立を目指している。
『セカンディア商会』……マトモな兵力が揃えられないのであれば、自分たちの工業に投資し、兵士一人辺りの戦闘力を伸ばす事で防衛力の不安を解消する事を目指しているけれど、実態は甘い汁が吸いたいだけ。
『サーディス商会』……王女を娶り、王族の一員になる事が最大の目的……というより手段として考えているらしいですね。
王族と大公の地位を得た後は、民意などを盾に徐々に他二つの商会の力を削りつつ国内を完全に掌握し、折をみて適当な大国に編入して貰う事で防衛力の不安と複数の国からの干渉を遮断する……持ち前の経済力と、国の歴史以上に古い王族の血を武器に、その大国の中枢に入り込む事で国際的な地位向上も目指すという、ある意味ではこの中で一番の野心家ですね。
「そして厄介なのガ、この王女さんとファストリア商会の次期当主であるディルク・ファストリアが恋仲の関係にあるという噂がある事ですね」
「……なるほど、それで王政復古とまで大きく出たのですか」
要は惚れた女性の為に色々としてあげたいみたいなものですかね……馬鹿馬鹿しいです。
「それで我らがお姫様はどうなる事をお望みデ──?」
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クエストNo.番外
ワールドクエスト:商国の政変
依頼者:ギラン
依頼内容:特定の勢力に加担し、大公位を簒奪しろ。
報酬:5レベル分のスキル含む経験値・500万G・■■■
注意:ワールドクエストはゲーム内のシナリオや今後に深く関わるクエストです。その成否に関わらず受け直す事も何度も受ける事も出来ません。
受注しますか? Yes / No
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……おっと、本当に久しぶりに来ましたね、ワールドクエストが……『クレブスクルム解放戦線』以来ですか、あれ以来私以外のプレイヤーの皆さんも他のワールドクエストをクリアしていたみたいですが……一人で二個目を受けた方は私の他に居るのでしょうか?
……まぁどうでもいいです、とりあえずYesを押してギランさんを見つめます。
「──とりあえず今は観光案内をよろしくお願いしますね?」
国の成り立ちや様々な事情は分かりましたが、これはこの国で大公位を得ようする人達は全員が持っている物でしかありません。
私はやっと最低限の土俵に登れただけです。
彼らを出し抜き、一番利益が得られて、そして何よりも──
「──どれが一番楽しい『遊び』かなんて、まだわかりませんから」
「……御心のままニ」
とりあえず王政復古をしようだなんて、詰まらないファストリア商会は現時点では無いですね……国の未来を決めるものに、惚れた女性の為にという不純な動機が見え隠れする時点で興味がないです。
「じゃあギランさんはこれを翻訳して雇い主であるぐ、ぐ……ぐれ……」
「……グレゴリウス・サーディスですカ?」
「……そうです、その方に私の手紙を翻訳して渡して下さい」
「なぜ私ガ?」
「わざわざ『アリューシャ諸言語』で書いた手紙でいの──センシオを呼び出したり、今も違和感なく会話で使っていますし……適任でしょう?」
「……そうですネ、承りましタ」
ファストリア商会は明日も明後日もアビゲイル王女が表の方を案内してくれますし、これでサーディス商会とも繋がりが出来たと考えても良いですかね……あとはセカンディア商会ですが──
「──今夜乗り込みますか」
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