第207話分割して統治せよ

「ァァァァァ」


「ウゥー、ウゥー」


《カルマ値が大幅に下降しました》

《新しく拷問スキルを獲得しました》

《新しく尋問スキルを獲得しました》

《新しく育成スキルを獲得しました》

《新しく繁殖スキルを獲得しました》

《観察スキルのレベルが上がりました》

《看破スキルのレベルが上がりました》

《称号:拷問官を獲得しました》

《称号:嗜虐を獲得しました》

《称号:蝿の主を獲得しました》

《称号:蟲の主を獲得しました》


 首から下が歪な突起物に覆われて凸凹に膨らみ、時折それが破裂して血と粘液と一緒に小指の先ほどの大きさの蛆虫を大量に溢れ出させます……だいたい突起物が一つ破裂する毎に五十から八十匹くらいを産んでいますね。

 しかしながら、それら全ては産まれた瞬間に即死してしまいます。

 彼らの皮膚を突き破って産まれた花子さんと武雄さんの子ども達は大多数がそのまま床に落ち、その衝撃でHPがゼロになってしまっているようです。


「うーん、彼らも何も話せくなって来ましたし、『看破』で確認するにもうそろそろHPとMPが尽きますね……」


 どうやら花子さんと武雄さんの《産卵》と《繁殖》と《支配》を掛け合わせた複合スキルである《眷属作製》は苗床となる生物の生命力や精神力……つまりはHPとMPを著しく消耗させるようですね。

 それもただゲーム的な数値の変動だけでなく、『看破』スキルで見る感じだと実際に状態異常への耐性値が下がっていたり、NPCとしての人格が損なわれてマトモに話せなくなるようです。


「ですが、床に落ちてすぐに死ぬのでは有用性は​──おや?」


 プシュップシュッと音を立てながら片方の男性の脳天が歪に膨らみ、破裂しましたね……首から上は繁殖に向かないと勝手に思っていたのですが、違ったのでしょうか?


『​──』


「……他の個体と体色が違いますね?」


 他の個体は濁った乳白色ですが、この個体だけは完全に真っ黒ですし、大きさも親指程度はありますね……少し気になりますし、床に落ちて死んでしまわない内に従魔にして保護しておきましょうか。


「元々両親が私の従魔だったからなのか、すんなりといきましたね……」


 さて、名前はどうしましょう? 花子さんと武雄さんの子どもですからねぇ……うーん、武子も花雄も何か違う気がしますね。どうもしっくり来ません。

 それに花子さんと武雄さんの種族は雌雄同体らしいですからね、性別からそれっぽい名前も思い浮かびません。


「……もう今日から貴方は太郎さんです、決めました」


『​──』


 今日から私の従魔に太郎さんが加わりました。

 分かっているのか、いないのか……おそらく顔であろう身体の端の部分を持ち上げて傾げる仕草に思わずクスッと来てしまいます。

 ふむ……見た目は気持ち悪い蟲ですが、これはこれで中々に愛嬌がありますね。


====================


名前:太郎さん

種族:蟲の皇太子Lv.1

状態:寄生

スキル欄

『支配Lv.1』『暗視Lv.1』『赤外線Lv.1』『熱源感知Lv.1』『薬効強化Lv.1』『眷属強化Lv.1』『精神状態異常無効Lv.-』『心眼Lv.1』『毒纏Lv.1』『吸血Lv.10』『吸魂Lv.17』『粘糸Lv.1』『学習Lv.1』『観察Lv.1』『看破Lv.1』『毒魔術Lv.1』『闇魔術Lv.1』『水魔術Lv.1』『蟲魔術Lv.1』『闇属性耐性Lv.5』『水属性耐性Lv.5』『毒無効Lv.-』『天候予測Lv.5』『暴食Lv.-』『悪食Lv.-』『美食Lv.-』

称号欄

レーナの従魔:レーナの従魔となった証。主人から受けるバフの効果が上昇


共食い:自身と同じ種族を喰らった禁忌の証。同族に対する攻撃力上昇同族へと与える恐怖心


血縁喰らい:自身の血縁たる存在を喰らった禁忌の証。同族に対する攻撃力上昇同族へと与える恐怖心同族を喰らう事で一時的にステータス上昇


蟲の皇太子:カルマ値が-400を下回っている外道の手によって、自身の血の繋がった兄弟達の魂を卵の中で啜りながら支配種族の両親から産まれた存在。精神的に寄生した主人の言動を観察、学習する事によって暴君にも名君にも進化する。名前に「蟲」と付くスキルの効果が上昇自身の眷属の能力を上昇スキルの成長速度が上昇


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 ……条件を満たしつつ、特定の従魔同士を掛け合わせる事で手に入れられるレアアイテムならぬレア従魔……みたいなものですかね?

 まぁ太郎さんを連れ回して倒した敵の血と……魂? を吸わせれば何か良い感じに進化するのでしょう。


「……終わったか?」


「えぇ、終わりましたよ。……それで何か用でしょうか?」


 思いっ切り顔を顰めているエレンさんに振り向き、首を傾げながら問い掛けます……もしかしてエレンさんは虫が苦手なタイプだったのでしょうか? それは悪い事をしたかも知れませんね。


「用があるのはそっちじゃないのか? わざわざここに来るんだから」


「…………あぁ、そうでしたね」


「忘れてたのかよ……(ボソッ」


 何と言いますか、目の前の興味深い事に気を取られてうっかり忘れてしまっていました……いけませんね、もっと楽しそうな事が起きると直ぐにそちらに興味が向いてしまうのは悪い癖です。

 ……まぁ楽しいから良いんですけどね。


「その後の経過を聞いておこうと思いまして」


「……最初の想定以上の領土を獲得したお陰で統治が追い付かない&北部国家群からのちょっかいが鬱陶しくて未だに安定しないと言ったところだな。……おい、資料を渡せ」


「へ、へい!」


 ふむ、なるほど……当初の計画では周辺の小国と王国と帝国の端の領土を切り取るだけのつもりでしたが、勢い余って王国の領土をガッツリ切り取ってしまいましたからね……多数の要人を拉致した為に政情が不安定になった王国に対して、莫大な身代金を絞り取れたのは良いのですが、人材の方が足りていない、と。

 新たなに獲得した領土の統治体制も固まっていない時に、今回の間者さんのようなちょっかいが続き、大変そうですね。


「エレンさんは『ハム仮説』というものをご存知ですか?」


「……なんだそれは?」


「私の世界でヨーロッパという一地方で何百年も前に流行った人種論でして……まぁ簡単に説明するなら『肌の色が白に近いほどに、大昔に大陸中央部を征服していくつかの王国を創始した人種に近く、優秀だ』という酷く差別的なものですね」


 この仮説は十九世紀のヨーロッパにおいて、サハラ以南アフリカの人種に関する人種論が成立したもので、『黒人に比べて優秀なコーカソイドであるハム』がアフリカ大陸中央部の大湖地方を征服していくつかの王国を創始したと説明する極めて人種差別的な人種論であり、ハム仮説の提唱者とされるイギリス人探検家スピークがエチオピアのオロモと呼ばれる民族と大湖地方の王国形成を結びつけたもの……だったはずです。

 この仮説はしばし植民地支配に利用され、有名なものはベルギーによるルワンダ支配でしょうか……ツチ族は高貴なハム系またはナイル系であり、フツ族は野蛮とする事で、当時はお互いに婚姻関係すらあった良好な民族関係を分断させ、二十世紀の終わり頃に『ルワンダ大虐殺』を引き起こした原因の一つでもあります。


「要は新しく獲得した領土に於いて、肌の色でも何でも適当な理由を付けて分断統治するのが楽で良いですよ。私の世界の歴史が証明しています」


 ……まぁ、分断統治した結果の現代まで残るその後の問題は知りませんけどね。


「……お前ら渡り人の世界は聞くだけで怖いねぇ」


「まぁとりあえずは宗教で分断してみては? 確か『バーレンス領』は昔から『蒼穹の太陽神』を祀っていましたよね? なら先ずは神殿と民間人を分断する為に『蒼穹の太陽神』と『茜色の海神』を税制等で優遇し、支配基盤に組み込みましょう」


「……怖いねぇ」


 これで元々のエレンさんの支持基盤である『始まりの街』と、最初期に合流した『ベルゼンストック市』の民衆をさらに懐柔しつつ、忠誠心等を育て、優秀でやる気のある人材を確保しましょう。


「その次に『紅色の雷神』と『深緑の嵐神』、『藍色の闇神』を一般層に置きつつ、今までよりも少しばかり税を重くし、戦費の回収と復興に充てます。

 最後に『黄金の大地神』と『紫紺の光神』を最も卑しい身分とし、重税を課し、移動や結婚の自由などを剥奪しつつ、他の民衆の不満などを彼らを差別させる事でぶつけてしまいましょう」


「……本当に怖いねぇ」


 まぁこれはたった今適当に考えた序列ですから、多少は前後しても構いませんけどね……『蒼穹の太陽神』と『茜色の海神』が一番上な事は変わりませんが、あとはエレンさんの裁量に任せましょう。


「他にも土地で分断、種族で分断、文化や言語で分断、職種で分断、色々ありますからね? ちゃんと宗教以外にも考えていてくださいよ?」


「……かしこまりましたよ、俺の女王様」


「? ……??」


 ……女王様? 私は自ら王を名乗った事はありませんが? ……まぁ呼び方はどうでも良いですか。


「それでは頼みますね」


「女王様はこれから何処に赴かれるので?」


「……見逃した間者の一人に糸と花子さん眷属を付けているので、その後を追って大陸北部の国へと行きたいと思います」


「……やっぱり三人居たじゃねぇかよ(ボソッ」


 面白そうなので、エレンさんが投げたナイフを弾いてあげたんですよね。その後は彼? 彼女? に糸を付け、花子さんの眷属に尾行させているので追おうと思えば追えます。


「他に何かありますか?」


「それでしたら女王様、くれぐれも戦争は起こさないで下さいね? もう我が国に短い間にまた次の戦争をする体力はありませんので」


「? そうですね、戦争はしませんよ・・・・・・・・?」


「……それなら良いんですがね」


 確かに戦争ごっこも楽しいですが、毎回そればかりだと飽きますからね……今回は・・・戦争ごっこはいたしません。

 それよりも私は北部では言葉が通じないというのが楽しみですね、どんな感じになるのでしょう?


「それでは私はもう行きますね」


行ってらっしゃいませ二度と戻って来るなよ


 エレンさんの熱烈なお見送りを受けながら外に糸と花子さんの眷属から送られてくる情報を元に後を追いつつ考えます……あそこまで丁寧に対応されたのですから、エレンさんにお土産・・・を用意しなければなりませんね。




「​──よし、お前らいつでも死ぬ準備だけでもしておけ」


「兄貴……」


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