第188話第二回公式イベント・collapsing kingdomその19
「《影分身・実体》」
自分自身の分身体を五人ほど作り出し、場を形成するのに使います。
一人目は糸の操作を任せ、二人目には毒のばら撒きを、三人目がひたすら老人に向かって目潰しを敢行し、四人目が遠距離からチマチマと投擲や魔術で補助を、五人目が囮として
「ふんっ!」
「「シっ!」」
敵の薙ぎ払い──からの自身の身体を軸に、薙刀をクルクルと回すように……背車刀の如く構え直した上段からの振り下ろしを身を屈め、左右に別れるようにして躱し、同時に足の腱を狙い短刀を振るいます……が、分身の方は避けられましたね。
……流石にこの人数を高精度で一人で操作するのは脳の処理能力が追い付きませんので、マクロ等を組んでの関節的なものになりますが……評価は〝そこそこ〟と言ったところですかね。
「……増えた、か?」
「何がでしょう?」
「ほっ?!」
攻撃が当たり、『隠密』が解除された
「《昇龍・闇》!」
薙刀の穂先を床に突き立て、そのまま抉り取るように斬り払い、床の破片を散弾のように飛ばす事で二人目と四人目の分身体が消えますが、途中で一人目が老人を中心として糸を球状に展開、纏める事で閉じ込めつつ破片の更なる猛威を防ぎます。
「《火焔窟》! ……むっ!」
閉じ込められたまま糸の中で大量の炎を噴き出させ、焼き切って脱出したようですが……糸に塗られていた液体毒が一斉に気化し、彼の顔中の粘膜を焼いていきます。……これで視力と嗅覚も奪えましたね。
「《致命の一撃》」
「何も見えず、何も聞こえずとも……分かるわぁ!」
彼の喉を狙った鋭い突きを放ちますが──股から頭頂部に掛けて左右に真っ二つに引き裂かれます……分身とは言え、女性の股から斬り上げるとは……中々に遠慮容赦のないご老人のようです。
前々から思っていた事ではありますが、もしかして私はあまり女性として見られてはいないのでしょうか? ……まぁいいですか。それよりも──
「《ぬすむ》」
「チィッ!」
──《予告状》通りに敵の回復薬の類を盗み取る事が出来ましたね……これで彼は状態異常やHPの回復も出来ず、スキルの効果でMPも何%か削れたはずです。
「《龍牙五連》!!」
「《エクスエンチャント・アクセラレータ》」
敵がスキルエフェクトを纏った薙刀を振り下ろせば下から黒い炎で象られた牙が生え、逆に振り上げられれば上から落ちてくる……それをAGIを強化しつつ躱し、敵の攻撃で穿たれ、空いた穴に火薬玉を忍ばせる。
……一人目と三人目も消えてしまいましたね。ですが仕込みは大体終わりましたし、良いでしょう……仕掛けますか。
「『神前宣告・ここは私の庭であなたは玩具』」
柄に糸で毒煙玉を括り付けたナイフを数本ばかり投擲……同時にこの場に張り巡らせた糸を出し惜しみせず、全て私と彼を中心として巻き込むように展開します。
「『神前宣告・創って壊して遊んで放置』」
視覚、聴覚、嗅覚を奪われてもなお『気配察知』のみでナイフを弾き、迫り来る糸を察知して追われるように私の方へと迫る老人……その顔は顔中の穴から血を流しながら、憤怒の表情を浮かべているようですね。
「小娘ェェエエ工!!!」
「……《押し付け》」
ユウさんも使っていた自身の強化状態を任意の相手へと押し付ける支援スキル……それを使用し、敵に対して
「ガッ?!」
突如として予想外の数値が倍増し、片脚の腱も切断されている為にバランスを崩して倒れ込む老人……その周囲には大量の火薬玉等が仕込まれた斬撃痕があり──一斉に起爆しつつ、私は《ミラージュステップ》で迫る糸の包囲から脱出します。
「……」
最後まで残していた糸は耐火性と耐爆性の物ですからね……殺傷力は皆無ですし、完全に密閉できた訳ではありませんが、それなりに爆発エネルギーを集中できたようです。
「……驚きましたね、まだ息があるのですか?」
「……この程度では死なんぞ、小娘」
鼓膜が破れるような爆発音と衝撃波が駆け抜け、残った煙すら晴れた場所に満身創痍のご老体……本当に年寄りのくせにしつこい生命力ですね。
「いや、
「……なに──がふっ?!」
新たに薙刀を構え直そうとした彼ですが……口からドス黒い血を吐き出し、それを手で受け止めて呆然とします。
「貴方には毒、酸、欠損、出血というスリップダメージの他に──私の《宣誓》スキルを押し付けましたからね」
「……ふん、若さには勝てんか」
薄らと笑いながらその場にどっかりと腰を降ろす──アーノルドさんを見ながら、HPがゼロになっても即座に死なない場合があるのだと関心します。
「本当に若いもんは良く動くし、突飛な発想と考えをしよる……それを実行するだの怖いもの知らずも持ち合わせておる」
「……そうですか」
さて……この死に損ないの話を最後まで聞いてあげるべきでしょうか? やっぱりアレクセイさんの時と同様に応えてあげるべきですかね?
「だが──」
そう思い、一歩を踏み出したところで──
「──ジジイの老獪さも捨てたものじゃない」
──背後の床から生えた黒炎の槍にお腹を貫かれます……やってくれましたね? なるほど、色々と仕込んでいたのは私だけではないと……。
「……一つ勉強になりました」
「そうか?」
「えぇ、なのでさっさと死んでください」
不意打ちではありましたが、急所ではなかったのが幸いですね……HPはごっそりと削られましたが、即座にポーションや三田さんの回復魔術で補えます。
それらの応急処置を終えたところで食えない老人の額に向かってナイフを投擲……そのまま貫きます。
「もう一つ、さらに教えてやろう」
「……もしかして不死身だったりします?」
おかしいですね……《看破》スキルで何回も確認ても相手のHPは全損していますし、額の他にも心臓や喉もナイフの投擲で貫いていますのに、死ぬ気配がありません。
「ワシの
「──なる、ほど」
あぁ、これはしてやられましたね……私の《影分身・実体》の類似スキルか何かで生成された分身体を今まで相手にしていたようですね。
やはりレベル差が大き過ぎると、流石にジャイアントキリングは難しいようです。ただの分身体であってもこれほど強いとは……それに──
「貴様の戦い方は学んだ、次は油断せん」
「……それは楽しみですね?」
──相手に全てではないですが、こちらの戦闘スタイル等の情報をすっぱ抜かれてしまいました……道理で敵は単純な攻撃スキルや、ステータスにものを言わせた戦い方しかしなかったはずです……こちらに情報を渡さない為ですね?
「……次は殺す」
「……こっちのセリフですよ」
まぁ、痛み分け……で良いですかね? 第二王子にも逃げられましたし、アーノルドさんは仕留められませんでしたが……こちらも今頃はエレンさんから借りた部下達が多数の貴族や要人達を拉致した頃でしょうし……それに──
「また会いましょう……とっても楽しかったですよ?」
「……ふん、ワシもじゃよ」
──とっても楽しかったですからね……孫を見るような優しい表情で笑いながら消えるアーノルドさんに笑顔で手を振り、見送ります。
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