第186話第二回公式イベント・collapsing kingdomその17

「影山さん、伸ばしてください」


「むっ?!」


糸の上から降下する私に突き込まれる薙刀に短刀の刃を添えて滑り降りながら、影山さんによって短刀から大太刀へとリーチを変えます。

右の逆手に持ち、柄に左手を添えたまま腰の捻りで身体を回転させる事で薙刀を後方へと置き去りにしながら、伸びたリーチで首を狙う。


「ふんぬっ!!」


「……美味しくないと思うんですがね」


まさか口で受け止めるとは思いませんでした……流石にプレイヤーが勝つ様な想定をされていない重要NPCは面白いですね、滾ります。

ですが、私は普通のプレイヤーとは違って井上さんの膂力もあるんですよ?


「ぬっ?!」


そのまま強引に太刀を振り抜き、壁まで老体を吹き飛ばしつつ着地します。

やはりと言うか、なんと言うか……皆さん、いつも最初は私が見た目通りの力しか出せないと思い込んでしまうんですよね。

ステータス制のゲームですから、ある程度は見た目相応ではないと分かっていても、私の戦い方がシーフとか、暗殺者みたいなものですからね。


「ほっほっほっ……ゴリラとの間の子じゃったか」


「この世界にもゴリラは居るんですね」


「ん? ……あぁ、そういえば渡り人じゃったな。失敬。……渡り人はゴリラと子を成せるのか」


「……そんな訳ないでしょう」


本気で信じてそうな感じですね、やはり歳を取り過ぎててボケているんでしょうか? やめて下さいよ? ボケてたから、全盛期じゃないから……みたいな敗北の言い訳は。


「いやなに……もしや人とエルフ、人と獣族の様なものかと思ってな」


「……雑種強勢ですか」


「左様……ハーフエルフの儂みたいに、なっ!」


なるほど、ハーフである程に基礎値とかが高くなったりするのですかね? 少し前にユウさんから、『ハーフエルフよりもエルフ、エルフよりもハイエルフの方が色々と上』みたいな事を聞き及びましたが……まぁそうですよね、血が濃ゆい方が優れてる訳がありませんよね。


「シッ!」


敵の踏み込み位置に向けて火薬玉を投擲しつつ、目線の高さに毒針を放つ……難なく弾かれた所で、薙刀が振るわれた方から真逆の位置から太刀を薙ぐ。


「ふんっ!」


「チッ!」


相変わらずステータスの差が大きいですね……私の太刀が胴体に到達する前に、反対側にあったはずの薙刀で即座に防がれましたね。AGIでは勝っているとは思いますが……薙刀に関するスキル等の補正によって、限定的な状況下に於いてはAGIすら負けてそうです。

なんなら『虐殺器官』等を使用しても構いませんが、私が使用すれば向こうも使って来るでしょう……特殊強化は倍率強化ですし、ただ単に大きな差がさらに倍になるだけです……で、あるならば​──


「どうする? 力の差は歴然……諦めて死ぬか?」


「まさか……格上殺しは人の業ですよ」


​──いつも通りに……いえ、いつも以上に小細工で小賢しく勝負です。


▼▼▼▼▼▼▼


「まさか……格上殺しは人の業ですよ」


そう言って小娘の目に明確な〝殺意〟の焔が灯る……さてはて、どうするつもりかね? │ステータスの差は歴然。半端な小細工はそれごとねじ伏せる│スキルレベルが儂にはある。

それとも『覚醒』でもするつもりかね? あれならば少しはこの力の差は縮まろう……しかしそれが出来るのは此方も同じ事……小娘を片付けた後の残敵掃討を考えると、『覚醒』を発動した時の代償は、特にこの老骨には堪える為に避けたいが……出来ない訳ではない。


「…………さて、どう来る?」


奴の殺意に返すようにして殺気を飛ばす……それを受けて尚、目を細めて笑うなど……本当に年頃の女子か怪しくなってくるわい。

奴の持つ太刀も気を付けねばならん……その気になれば短刀に戻す事も​──いや、自由に間合いを変える事が出来るだろう。太刀のリーチに慣れた頃合に短刀に戻されるだけでも、並の輩ならテンポが狂うじゃろうて。


「……………………シッ!」


「ふんっ!」


デタラメな方向へと飛ばされる長針……恐らく毒が塗布されているであろう、それを無視して正面から放たれる突きを薙刀の柄部で受け止め、下部に添えた左手を上に突き上げる事で弾く。


「……『血界』」


弾いたそのままの勢いを始点として利用し、薙刀を回転させながらデタラメに振り回し、自身もその場で踊る様に回る事で殺到する糸の結界を絡め取り、引き千切る……ついでに背後の壁に弾かれて時間差で飛来する毒針を首を逸らす事で避ける、が​──


「ぬっ?!」


​──突如として足下が爆発を起こし、勢いよく飛び出だなんらかの破片等に皮膚の表面を裂かれる……いつ仕込んだかは分からぬが、これが本命で、後の大掛かりな糸の攻撃も含めて全てが囮か……思い切った事をしよる。


「ふっ!」


間髪入れずに背中に担ぐように構えた大太刀を小娘が振りかぶる……それを薙刀を横薙ぎに振り払う事で弾こうとするが​──大太刀から短刀に引き戻され、空振りに終わる。


「シッ!」


「小賢しいッ!!」


そのまま懐に潜り込んだ小娘の額を狙った下からの突きを、《業火滅脚》で蹴り上げる……が、これもその場で宙返りする事で躱される。


「《破却黒龍回游》ッ!!」


「《影分身》」


ほう、これも凌ぐか……中々に油断ならん小娘だ。……ただ単にレベル差のある敵を屠るだけかと思ったが……この娘、魔統っておるな?

この手の敵と殺り合うのは何年振りかのう……さて、何が出て来てもおかしくはないが……次はどう来る? ……命の取り合いの場で笑える娘よ。


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